北の大陸。
そこにある発掘現場ボーンビレッジ。
その先にある迷いの森を抜け、辿りついた古代種の街…忘らるる都。
エアリスに導かれるまま進み、見つけた光の階段。
螺旋状に延びるそれを、一歩一歩降りた先には美しい水の祭壇。
その祭壇を見た瞬間、あたしは背筋に汗を感じた。
…見た事がある、水の祭壇。
ゲームを進めていく度、あたしはここに辿りつくと、何を思っていただろう。
「ここで、祈るの」
祭壇に立つと、エアリスはそう教えてくれた。
あたしはただ黙ってうなずいた。
…うん。知ってるよ。
そして祈りを捧げた貴女に…何が待っているのかも。
ガタガタした…。
手が、体が増えて、凄く怖くなった。
…大丈夫。それを止めるために、エアリスの傍にいるって決めたんだから。
ただ、言い聞かせるのは自分の望む未来。
「ナマエ、それは?」
「あ、これ?」
その時、あたしは自分の腰に手を伸ばして短剣をホルダーから外して握りしめていた。
空いた時間…クラウドに少しだけ、使い方を教えてもらった短剣。
本当に数える程の時間だから、まだまだ全然使いこなせてない。
だけど…あたしが唯一持っている、刃。
「勇気をくれるもの…、かな」
「勇気…?」
「…うん」
クラウド…目、覚めたかな…。
自分という存在に怯えてるのかな…。
だけど、その後の悲しい運命は…あたしが変えるから。
「エアリス、早く終わらせちゃおう?」
「わかった。でも少し、時間…掛るかも」
「うん。大丈夫。待ってる」
あたしが頷いたのを見ると、エアリスはそっと微笑みスカートに皺がつかないように膝をついた。
そして胸の傍で手を組み、そっと目を閉じると祈りを捧げ始めた。
…あたしは、その様子を黙って見つめていた。
ただ、ぎゅっと…あの短剣を握り締めて。
「………。」
ただじっと待って、どれくらい経っただろう。
エアリスの言う通り、祈りは長い時間を要していた。
…セフィロスは、まだ此処に来ていないのかな…?
それともわざわざクラウドに見せつけようとでもしていたの…?
ううん…クラウド自身に、エアリスに手を掛けさせようとしていたのかもしれない。
本当のところはよくわからないけど、少しでも運命を変えようと…あたしはエアリスに「走ろう」と促したりして、出来る限りの可能性を試してはみた。
些細な事だけど、セフィロスが来る前に祈りが届けば…。
だけど、そんな期待は…すぐに焦りに変わった。
「…ナマエ、エアリス…」
名前を呼ばれた。
それは…ここのところよく、聞きなれている声。
振り向くとそこには…クラウドと、皆が揃っていた。
「…クラウド…」
クラウドはひとり、祭壇へと近づいてきた。
…よく、知っている流れ。
あたしは慌ててエアリスに目を向けた。
エアリスはまだ目を閉じたまま、静かに祈りを捧げてた。
思わずぱっと上を見て見る。
…そこには何もない。誰もいない。
けど…もう、油断できない。
「ナマエ…、エアリスは何を…?」
「クラウド…」
クラウドが隣にやってきた。
彼は祈るエアリスを不思議そうに見ている。
クラウドは…自分を飲まれて、見失って…その剣を、エアリスに構えてしまったはず。
何とか抑え込むことは出来るけど、それは彼の傷になる。
だからあたしは呼びかけた。
「クラウド」
「え…」
呼びかけて、そして…彼の手を掴んだ。
それを見たクラウドは目を見開き、少し驚いたようにあたしを見つめた。
「…ナマエ…?」
「…敵は、セフィロスだよ」
「え…」
「クラウドの相手は、セフィロス。今それをちゃんと考えて」
「考えるって…」
手を握ったのは、あたしの言葉に集中してもらうため…。
ううん…。本当は、彼を押さえていたのかも知れない。
彼が、エアリスに刃を向けてしまわないように…。
とにかく…あたしは、エアリスを守る。
だから出来るだけ優しく…柔らかく。
そんな声で、表情で…クラウドに語りかけた。
「…大丈夫。何も怯えなくていい。ちゃんと自分を信じて」
「信じる…?」
「そう。セフィロスが何を言っても、大丈夫だよ」
「…大、丈夫…」
邪魔をする。
相手はセフィロス。
だから、彼の声に耳を貸しちゃ駄目。
あたしはそう呼びかける。
自分の相手、間違えちゃダメだよ。
そして…時が、来る。
「エアリス…こっち来て…!」
「…っナマエ?」
あたしはクラウドの手を離し、祈るエアリスの手を無理矢理引いて傍に立たせた。
ずっと待ってたこの瞬間。
エアリスのリボンに付けられた白いマテリア。
それが、淡くグリーンに光り始めた。
それを見た瞬間に手を引いた。
きっと、あたしは酷く焦ってた。
もう、きっとここには…。
そう思った時だった。
ひゅ…と、風のように目の前に現れた…黒。
「セフィロスッ!!!」
突然目の間に現れたセフィロスの姿に、クラウドは大剣を構えるとあたしとエアリスの前に立った。
そして、クラウドの叫びとほぼ同時に、他の皆にも緊張が走った。
「……少々、予定が狂ったか」
「何!?」
小さく呟くセフィロス。
クラウドは剣を握ったまま、じっとセフィロスを捉えてる。
「ナマエ…」
「エアリス」
「…!」
エアリスはあたしの肩に触れ、そっと自分の後方に押しやろうとしてくれた。
でもあたしはそれを払い、逆に彼女を後方へ押しやった。
…きっと、大丈夫。
だってほら、セフィロスが目の前にいるのに…エアリスが生きてる。
未来は、ちゃんと変わってる。
だから、早く…!
「エアリス!早く、皆のいるところへ。早く逃げるの…!」
彼女の背を押し、急げと促す。
皆も「早くこっちへ!」と叫ぶ声が聞こえてる。
あたしたちの前にはクラウドがいる。
だからその隙に早く、と。
でも、セフィロス…いや、ジェノバを目の前にしたクラウドは…。
「クラウド…いい子だ」
「何を…っぐ…」
「……っ」
はっ、と息をのむ。
振り向きざま、クラウドが頭を押さえたのが見えた。
隙が生まれたクラウドをジェノバは突き飛ばして、そして…。
「愚かな異物よ…。その古代種を庇うのなら、望み通り、先に逝かせてやろう」
「…っ…」
キラッ…と正宗の先が光る。
あたしの目の前に、セフィロスがいた。
目を見開いた。
だけど、声も出なかった。
死。
頭に過ったのはその一文字。
それ以外ない。ただ、真っ白で。
「ナマエッ!!!」
クラウドの声がした。
皆の声がした。
やら、れる……!
そう思った瞬間、強く腕を引っ張られた。
「…っ!?」
ぐんっ…と引かれ、勢いに放り出された体。
その視界に映ったピンク色と、柔らかく揺れたツイスト。
あたしと入れ替わるように、そこにいた……エアリス。
バシャンッ!!!
冷たさが全身に走った。
空気が遮断され、勢いのまま沈んでく。
視界がぼやけて、良く見えない。
だけど…最後に、鮮明に…あたしの目に映った最後は…。
長い刃に貫かれた、愛らしいピンク色だった。
To be continud