真っ白だ…。
俺は何をした?
覚えていない…。
記憶…いつからなのか…?
すべてが夢なら覚めないでくれ。
「クラウド、わかる?」
声がした。
聞きなれた、優しい声だ。
真っ白で何も見えない。
瞼を開くと、光が差し込んだ。
…あたたかい、木漏れ日の光…。
その緑によく栄える…ピンクが揺れた。
「ああ、わかるよ」
俺は頷いた。
これは…エアリスの声。
その声を聞いて、俺は先程の出来事が脳裏をよぎった。
「さっきは済まなかったな」
「気にしない方がいいよ」
軽く答えたエアリス。
だけど俺は…手の甲に残る嫌な感触に、顔を歪ませた。
「……そんなの無理だ。それに俺は…エアリスだけじゃなく…」
感触が残っているのは、手の甲だけでは無い。
…残っているのは、手のひらも。
《…ク…ラ……》
か細く聞こえた、小さな声…。
白くて細い、彼女の首に手を添えて…俺は。
耳に残る、掠れていく声…。
手に残る、嫌な感触…。
思い出すと、震えてくる。
俺は…俺は…。
「そっか…。じゃ、思いっきり気にしちゃえば?」
エアリスはそう微笑んだ。
気にするのが無理なら…思いっきり気にしてしまえ。
随分と極端な話だな、そう思った。
「ナマエなら、大丈夫。あの子、ちょっとやそっとじゃ動じないよ」
「…ちょっとやそっと、なのか?」
「うーん…。少なくとも、ナマエにとっては…そう、なんじゃないかな?」
「?、どういう意味だ?」
「ふふ、ごめん。上手く、言えないや。でも、ナマエにも、ちゃんと謝ればいい。それできっと、済むよ」
疑う様子もなく、エアリスはそう言い切った。
何を根拠に…とは思うけど、でも…今は少し、心強かった。
「セフィロスの事、私に任せて。そして、クラウドは自分のこと考えて。自分が壊れてしまわないように、ね?」
エアリスは笑う。
まるで、何も心配はいらないと言うかのように。
その時、俺は初めて今いる場所に興味を持った。
「ここは……何処だ?」
「この森は古代種の都へと続く…眠りの森と呼ばれている」
エアリスは木々を見上げて教えてくれた。
古代種の都…?眠りの森…?
ある程度、知識は付いてきた方だと思う。
だけど…そのどちらも、初めて聞く場所だった。
何故俺たちはこんなところに?
「セフィロスがメテオを使うのは時間の問題。だから、それを防ぐの。それはセトラの生き残りの私にしか出来ない。その秘密、この先にあるの。ううん…ある筈。そう、感じるの。何かに導かれている感じ、するの」
エアリスは森の先を見つめる。
メテオを防ぐ…?エアリスにしか出来ない?
秘密がこの先にある…?感じる…?
あれからどうなったんだろう。
皆は…いないのか?
…ナマエは…?
俺が傷つけて…本当に無事なのか…?
尋ねたいことは山ほどある。
だけど、どれから尋ねて良いのか…。
「じゃ、私たち、行くね」
「…え?」
「全部終わったらまた、ね?」
「エアリス…?」
追いかける。
足を動かして、駆けだす。
だけど…全然進まない。
どんどん距離だけ広がって行く…。
そして遂に、姿は見えなくなって…。
「おやおや…私達の邪魔をする気のようだ。困った娘だと思わないか?」
聞こえた、嫌悪する声。
…現れた黒と銀。
「そろそろあの娘にも…」
セフィ、ロス…。
奴のその言葉を最後に、俺の意識は途切れた。
そして…次に目を開いた時、俺は…。
「うなされてたみたいだな」
目の前に映ったバレット。
そして、ティファ。
俺を覗き込んでいたふたり。
ゆっくり起き上がって、俺は自分がベットに寝かされていた事に気がついた。
「調子はどうだ?」
「…よく、わからない」
バレットに尋ねられ、俺は額を押さえながらそう答える。
それを聞いたバレットは後ろ頭を掻きながらフン、と息をついた。
「そんなとこだろうな。ま、あんまり悩まねえこった」
「あのね、クラウド…」
「…ティファ…?」
すると次にティファが乗り出してきた。
その様子は、どことなく少し焦っている様にも見える。
ぼんやりしている俺とは、まるで対照的だ…。
「クラウド…、あのね、エアリスとナマエが…」
「エアリスと…ナマエ…?」
「ふたりが、いなくなっちゃったの」
「え…」
ふたりが、いなくなった…?
いや、正直エアリスがいなくなったと言うところには、俺はそう驚いていない気がした。
あの夢…。たった今見たあの夢は…夢だけど、きっと、違う。
なんとなく…不思議な力を感じたような…。
だから、俺が驚いたのは…。
「…ナマエ、も…?」
なあ…エアリス…。
俺、早くナマエにも謝りたいんだ…。
起きたらすぐ、謝りに行こうと思ってた。
なのに…それは叶わない…。
「…ナマエ…?」
呼んでも返ってなど来ない…。
いつもいつも…傍にあったはずなのに…。
《おい…、守りづらいからあまり離れるなよ》
《はーい。クラウドの剣の届く範囲にいます》
思い出す、聞きなれた会話…。
はじめはボディーガードだった…。
でもだんだん…傍にいてもらうための口実に変わった…。
理由はどうあれ、俺は…ナマエの存在を心地よいと感じていた。
いつも、すぐ傍にあった。
思えば出会ってから…そう離れた時間は多くない。
だけど…今。
目覚めた時…俺の傍に、あんたはいなかった。
To be continued