Grip | ナノ



「クックックッ……黒マテリア…。クックックッ……メテオ呼ぶ…」





肩を震わせて、怪しく笑う彼の姿。





「クラウド……俺……クラウド……どうやるんだ…」





ぼそぼそ呟く不安定な言葉。





「……思い出した!俺のやり方」





自分のやり方…。
つまり、演じ方を思い出すこと…。

自分を演じる…その時点で本当はおかしい。

でも彼自身、そのことには気が付いていない。





「ん?どうした、何か変か?」





次の瞬間の彼は、あまりに普通だった。
あまりにいつも通り…何事もない、いつもの雰囲気。

エアリスの機転によりあたしもヴィンセントも、クラウドに合わせて話を進める事を決めた。

でも…変かと聞かれれば、本当は…クラウドの様子はおかしかった。





「うん…。何でもないよ。それよりクラウド焦りすぎだよ。もう少し落ち着かないと、つまんないことで空回りしちゃうかもよ?」






そう笑いながら、あたしはその裏で…少し焦ってた。
あたし、ちゃんと笑えてるのかな…って。

クラウドが正気じゃなくなった原因、自分を演じてること。
あたしはそれがどういう事なのか、理由を全部知っている。

知っているけど、でも…正直、少しだけ…怖いと思った。

怪しい笑い方。
ぶつぶつと呟く姿は…不気味とさえ思える。

…クラウドは、こういう自分をこれから戦っていく事になるのか。

あたしは…そんなクラウドに何が出来るのだろう。





「…平気なのか」

「え…」

「顔色が悪い」

「あ…」





ずっと黙っていたからだろうか。
隣にいたヴィンセントが気にかけてくれた。

あたしは小さく首を振った。





「ううん…大丈夫。なんでもない。ちょっとびっくりしただけだから」

「…見たところ、今はもう何とも無さそうだが」

「うん…」





聞こえないように小さな声で言葉を交わす。

流石にヴィンセントだってあのクラウドの変貌は気掛かりだろう。
だけどもう今は普通のクラウドだから。





「ナマエ、ヴィンセント、奥に進んでみるぞ」

「…うん。今行くよ」





メテオの描かれた壁画を横目に、クラウドに呼ばれたあたしたちは壁画の間の奥へと足を進めた。

この奥にあるのは、この神殿の最大の秘密だ。

一番奥にあったのはひとつの台座。
そしてその上にはこの神殿の模型が設置されていた。

極めつけは、掘り起こされた黒マテリアという文字だ。

エアリスは意識を研ぎ澄まし、古代種達の意識から情報を集めてくれた。





「この神殿その物が黒マテリアだって」

「どういうことだ?」

「だから、この大きな建物自体が黒マテリア、なんだって」

「このでかい神殿が?これが黒マテリア!?それじゃあ、誰にも持ち出せないな」

「う〜ん、難しいところね。ここにあるのは神殿の模型なの。この模型には、仕掛けがあってパズルを解いていくと、どんどん模型が小さくなるんだって」





クラウドの質問に丁寧に答えていくエアリス。

そう、この模型はこの神殿を小さくさせていく。
手のひらに乗るほど小さくなるまで。

でもこのパズルの最大の仕掛けは…。





「パズルを解くのは、この場所でしか出来ないの。だから、パズルを解くと、その人はこの神殿、いいえ、黒マテリア自体に押し潰されちゃうの」

「なるほど…。危険な魔法を簡単に持ち出せないための古代種の知恵か…。持ち出す方法を考えよう。セフィロスにはたくさんの分身がいる。あいつら、命を投げ出して黒マテリアを手に入れるくらい何でもない。この場所はもう安全じゃないんだ」





なんだか、今更だけど…少し不思議に思った。
いや、恐怖にも似てる…のかな。

目の前で起きて行く出来事は、あまりにあたしの知っている通りに進んで行く。





「じゃあ、どうするの?」





エアリスが尋ねる。
この後は…そろそろ、PHSがなるはずだ。

あたしがそう思った直後、静かな空間に似合わない電子音が響いてきた。





『もしもし〜 クラウドさん。ボクです。ケット・シーです〜』





クラウドがスピーカーにしてくれて聞こえてきた声。
…それは勿論、ケット・シー。





『ボクの事忘れんといてほしいなぁ。クラウドさんの言うてる事はよぉ、わかります。この造りモンの身体、星の未来のために使わせてもらいましょ』





ケット・シーはぬいぐるみ。
正体はリーブのインスパイアという能力。

現状、クラウド達にはケット・シーに頼る以外の方法はない。
だけど昨夜、彼がスパイだと発覚したばかりだ。





「セフィロスに黒マテリアは渡せない。でも、神羅にも渡せない」

『でもなぁ、クラウドさん。どないしょうもないんとちゃうか?まぁ、信じてみいな』

「………。」





クラウドは少しの間考え込む。
ちょうどそんな時、あたしは彼と視線がぶつかった。





「…ナマエ、どう思う?」

「え、あ、あたし…?」

「ああ」





どうしてここであたしなんかに話を振るのやら…。

でも、この場で選択するべきなのは…。
黒マテリアをセフィロスの手に渡らせないためには、ここで放置するわけにはいかない。
それにケット・シーは…本心から裏切り者、というわけじゃない。





「…任せてみてもいいと思う。そうするしかないのは事実だし、ここで裏切る気なら…わざわざクラウドに連絡してくる必要はないよね?」

「それもそうだな…わかった」





クラウドは頷き、ケット・シーに了承を返していた。

…この選択が間違ったものではないと知っているから、アレだけど…。

あたしの意見のままに従って良かったのかな?
クラウド自身、それしかないとはわかっていたんだろうから…後押し程度の参考だっただろうけど。





『よっしゃ!ほんな、任せてもらいましょか!ほんな、みなさん、はよう脱出して下さい!出口のとこで待ってますから!』





ケット・シーはいつもの明るい声でそう言い通話を切った。

その指示に従い、あたしたちは出口に向かった。
時計の間の針が6時を指し、一直線に道を示してる。

その先にあった扉からは、ケット・シーが跳ねて飛び出してきた。





「お待ちどうさん!!ケット・シーです〜!後の事は任せてもらいましょ!」





沢山あるケット・シーの代わり。
だからこそ買う事の出来た今回の役割。





「ほんな、みなさん、お元気で」





ぽん、ぽん、と跳ねて行く後ろ姿。
その姿はなんとなく切なく感じてくる。

そんな様子にエアリスはクラウドを軽く小突いた。





「ほら、クラウド…何か言ってあげなきゃ」

「……苦手なんだ」





クラウドは困ったように後ろ頭を掻く。
一方ケット・シーも振りかえり、同じように困ったような表情を浮かべた。





「ん〜、ようわかりますわ〜。ボクも同じ様な気持ちですわ」

「そうだ!ねえ、占ってよ!」





漂ったのは切ない空気。
そんな空気を払うように、エアリスはポンと手を叩きながらケット・シーにそう提案を上げる。
それを聞いたケット・シーはにっこりと笑みを浮かべ、名案だと言うようにその案に賛同をした。





「そうやな〜。それも、久しぶりですねぇ。わくわくしますなぁ〜。当たるも〜ケット・シー。当たらぬも〜ケット・シー。ほんな、何占いましょ?」

「そうねえ…」





可愛らしく笑いながら何を占ってもらうか考えるエアリス。
確か彼女が占ってもらうのはクラウドとの相性だった。





「じゃあ、クラウドと私の相性!」





思った通り、エアリスはクラウドの隣で楽しそうに笑っていた。

クラウドは驚いたのか、少し目を見開いてる。
…今はいないけど、ティファがいたらティファにも反応があったっけ。





「そりゃ、たこうつくで。デート1回やね!ほんな、やりまっせ!」





ケット・シーは体を揺らし始めた。
占いの動作、楽しそうに…踊るようにリズムを刻む。

この結果は…明るい未来だったかな。

でも、その結果は…。
あたしはFF7をプレイする度、ここでいつも思うことがある。





「…お前はいいのか」

「うん…?」





ぼんやり、揺れるケット・シーを見ているとヴィンセントに小さく声を掛けられた。
あたしは隣に立つ彼をゆっくり見上げる。





「占いしないのかって?うーん、あたしは前に占ってもらった事あるからね」

「…この質問は、適切では無かったか」

「うん?」

「大丈夫なのか?」

「え…?」





言いなおされた言葉にあたしはきょとんとする。

言い直したってことは…占ってもらわなくて大丈夫なのか…ってことじゃないのかな?
意味が良くわからなくて、あたしは首を傾げた。





「えっと…何が?」

「…すまん。どう聞けばいいのか、私も曖昧だ」

「…うん?」

「しかし…先程からずっと、どこか、あのふたりを不安そうに見ている」

「え…」





ヴィンセントが言いたいのは、つまりあたしがクラウドとエアリスを見て何を思っているのかという事か…。

さっきのクラウドの件を見てか…。
…はたまた、もしかしたら、妬いているのか…とかかな。

まあ…後者に関してはハズレだけど。





「…何でも無いよ。大丈夫。ありがと、ヴィンセント」





そう言いながら、小さく笑った。

だけど、ヴィンセントのその指摘自体は、的確なのかな…。
あたしは…これから起こる事を考えて、息苦しさを感じてる。

ただ…そんなに顔に出ていたかなって。







「ええ感じですよ。おふたりの相性、ぴったりですわ!エアリスさんの星とクラウドさんの星!素敵な未来が約束されてます!」





ケット・シーはふたりの相性を語った。
この占いの真実は…ケット・シーの中だけ…?

読み上げられた瞬間、エアリスと目があった。

あたしは反射的に微笑んでいた。
でもエアリスは笑みを返してくれることはなく、どこか探るようにあたしを見て目を細めていた。

…な、なんだろうか、その反応は。

少し気になって首を傾げてみたけど、エアリスは教えてくれる気がなさそうだ。
今はケット・シーのことが優先だから、とりあえず深く探ることはしなかったけど…。

でも…そっか。
占いの結果はやっぱり…明るい未来、か。

このまま、あたしが何もアクションを起こさなければ…その結果は外れるんだと思う。

ケット・シーの占いって、当てにならないのかな。
それとも…これは、ケット・シーの優しい嘘、なのかな。

あたしはいつも、このシーンでそんなことを思う。

ねえ、あたしがうまく動けたら、この未来は実現するのかな?
それともまた別の未来になるのかな…?





「…やっぱり、占ってもらおうかな。ケット・シーあたしも占って!」

「ええですよ!何にします?」





駆け寄ってお願いすると、ケット・シーは快く頷いてくれた。

…あたしが占って欲しい事。





「じゃあ…あたしのこれからの運勢、見て欲しいな」





そっと、笑いながら頼んだ。

これからのこと…。
これから、あたしは大きな大きな勝負に出るから。

もし、悪かったとしても気にはならない。
だって…大変な事だって思うから、その結果は頷けるもの。

もし…良い結果だったら。
少し、希望が持てるような気がする。

どちらにせよ、頑張ろうって背中を押す為に使わせてもらおう。





「わかりました!ほな、いきますよ!」





大きな体を揺らし、ぬいぐるみが揺れて踊る。





「はい!出ましたで!」

「ありがとう」





いつかのように結果の出た紙を渡される。

ああ、なんだか少しドキドキするな。

かさ…と、ゆっくり広げて見る。
するとそこにあったのは…。





「ナマエ…?」





少しだけ、黙ったあたしにクラウドの声がした。
他の皆も気になるようで、あたしに注目が集まってる。

あたしはゆっくり顔を上げて苦笑いした。





「まーた、真っ白」





ぴらっと見せたその紙は、いつかのように、また何も記されてはいなかった。





「あ、あれ!?また!?お、おかしな話やな…」

「また?もしかして、前、同じ結果、出たの?」

「ああ…。どうしてナマエを占う時だけ結果が出ないんだ…」

「そ、そないな事言われても!ボクにもさっぱりー…」





エアリスとクラウドが訝しい顔をして、ケット・シーが焦ってる。
その様子がおかしくて、あたしはつい笑った。

何も記されていない小さな紙…。

でも、これは…もしかしたら、そう言う事なのかもしれない。





「案外、これが正解なのかもしれないね」





ぽそっと呟くと、皆、意味がわからないって顔してた。
それもおかしくて、あたしはまた笑った。

…白い、何も書かれていない紙…。
これは、描く未来が定まっていない証拠…なのかも。

それならやっぱり、あたしは未来を変えられる…かもしれない。





「ありがとね、ケット・シー」

「ナマエさん…」





お礼と一緒に笑いかけると、ケット・シーも笑ってくれた。





「なんやかんやでも…ナマエさんに笑いかけてもろーての出発なら、最高の門出やなあ」

「大袈裟な…」

「大袈裟あらへん!…じゃあ、スパイのボクの事信じてくれて、おおきに!ほんまに、ほんまに……行ってきます!」





一度、ここにいる全員の顔を見渡すと、ケット・シーはひとり神殿の奥に跳ねて行った。





「頑張って、ケット・シー!!」





エアリスが優しい声でその背中に声を送る。

代わりがいるとしても、ここにいた…一緒に旅した確かなケット・シー。
彼がくれた小さな希望の紙を…あたしは大切に、そっとポケットにしまい込んだ。




To be continued




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