「ここ…古代種の神殿…。私、わかる…。感じるの…。漂う…古代種の意識。死んで、星と一つになれるのに意志の力で留まってる…。未来のため? 私達のため?」
目の前に立つ歴史を感じる建物。
もうどれほどの時間ここにあるのか。
あたしたちは、ケット・シーの案内により古代種の神殿に辿りつくことが出来た。
「早く、ねえ、中に入りたい!」
エアリスは急かすように神殿を指さし駆けて行った。
そんなエアリスの背中を見つめながら、あたしは改めてその建物を見上げた。
大きなピラミッド。
なんとなく、不思議な場所なのだと古代種でなくてもわかる気がする。
…ああ、もしかして、この建物自体が黒マテリアだからなのか。
でもそう…この建物は黒マテリアだ。
それを絶対…セフィロスに渡してはならない。
ここで黒マテリアがセフィロスに渡らなければ…エアリスは、あの祭壇にきっと行かない…。
今…あたしは未来を変えようとしている。
自然と、ぎゅっと手に力が籠った。
「ナマエ…大丈夫か?」
「え…?」
緊張している肩に声を掛けられた。
見上げるとあった青いクラウドの瞳。
「顔が強張ってる。やっぱり不安か?」
「ううん。大丈夫。自分から行きたいって言ったんだし」
「そうだな。でも無理をするなよ」
「うん」
クラウドに頷きながら、あたしは今朝の事を思い出していた。
そして、決意を固めてた。
黒マテリアを絶対にセフィロスに渡さない…。
それと…もうひとつ。
「………。」
あたしはじっと、クラウドの横顔を見つめた。
もうひとつは…クラウドの様子を見ておきたかった。
クラウドは…この古代種の神殿から大きく揺らぎ始める。
自分の存在に疑問を抱いて、己に恐怖を抱くようになる。
そして、自分に自信を持てなくなって…壊れてしまう。
最終的に自分を取り戻す事は出来るけど、知っているのなら、それもなんとかしてあげたい。
でもただ…クラウドについては、他にも問題があった。
「ほら、クラウド。エアリスが待ってる。早く行ってあげなきゃ」
「え、あ、ああ…」
クラウドはエアリスのボディーガードだって頼まれてたわけだし…。
あたしはトン、とクラウドの背中を押した。
そして自分は、視線の先を探すように…後ろの彼に振り返った。
「ヴィンセントも、早く行こう?」
「ああ」
振りかえり声を掛けたのは、赤いマントの彼。
神殿の中に入るのはクラウドとエアリスとあたしとヴィンセントだ。
ヴィンセントが起用された理由は単純。何があるかわからない古代種の神殿で、魔法以外で遠距離に対応出来る戦力を重宝したと言う事だ。
ユフィは女の子だし、バレットはマリンの事もあってかケット・シーの見張りを買って出た為、一番の適任者はヴィンセントだった。
「ヴィンセントと行動するの、久々だね」
「そうだな」
あたしはヴィンセントに駆け寄り、彼の隣を歩いた。
最近、ヴィンセントとは話してなかったし、久々に話したい。
それに…。
《……あんたの事が、―――》
頭を、巡る。
ああ…もう。いい加減にしろ。
いつまでも何を考えているんだ。
……いつまで甘える気なんだ。
ふるふる…と、振り払うように頭を振った。
そう、あたしはクラウドに甘えすぎなんだ。
いつも助けてもらって…昨日だってちょっと弱音みたいなの言っちゃったし…。
《もう少し…俺に、俺たちに寄りかかってくれてもいいって事だ》
もう、十分助けてもらってる。
十分過ぎるほどに。
…だから、距離を少し置く。
もう少し、しゃんとする努力する。
だいたい…元々、あまり関わっても…辛くなるだけ。
関わってしまって、助けたいと思う気持ちは…もう消せないけど。
これ以上はもう…。
…増やさないように…。
だから、助けることしか考えない。
《……あんたの事が、―――》
ぎゅっと…思わず自分の手を握り締める。
爪が、…少し…痛い。
「どうかしたか、ナマエ」
「ううん…なんでもないよ」
黙ったあたしを見て、そんなに口数の多くないはずなのにヴィンセントは声を掛けてくれた。
ヴィンセントは…過去の経験から、自ら他人に対し深くかかわっていく様な事はあまりしないだろう。
気には掛けてくれるけど、一度首を横に振ればそれ以上突っ込んでは来ないというか。
あまり詮索するような事はしない。
だからヴィンセントといるのは…結構楽だったと思う。
「あっ!ツォン!」
神殿の中に入ると、ツォンが腹部から血を流し蹲っていた。
その姿を見つけたエアリスは目を見開き、そして目を逸らした。
痛々しい傷…。
これは、神殿の中でセフィロス…正確にはセフィロスを模したジェノバにやられたもの。
…あたしも、見るのが辛かった。
ただ、今回の場合…彼が助かる事を知っていた分、少し気持ちは楽だった。
「くっ…やられたな。セフィロスが…捜しているのは…約束の地じゃない…」
「セフィロス?中にいるのか!?」
ツォンの呟きにクラウドが反応する。
その大きな反応を見たツォンは悪態をつくように顔を歪めた。
「自分で…確かめるんだな…」
「……。」
「くそっ……エアリスを…手放したのがケチ…の…つきはじめ…だ…。社長は…判断をあや…まった……」
ツォンは力の入らないであろう拳を握りしめ、自棄になるように床に叩きつける。
その言葉にエアリスは首を振った。
「あなた達、勘違いしてる。約束の地、あなた達が考えてるのと違うもの。それに、私、協力なんてしないから。どっちにしても、神羅には勝ち目はなかったのよ」
「ハハ…厳しいな。エアリス…らしい…言葉だ」
ツォンは薄く笑みを零した。
幼い頃から見てきたエアリス。
口ではケチのつき始めとか言っているけど、本当はエアリスの縛られた行き方を…彼は気にしていたのかもしれない。
「…ナマエ?」
クラウドに呼ばれた。
その理由はあたしがツォンに歩み寄ったからだ。
あたしは彼の傍にしゃがむと、ことん…とポーションを手を伸ばせる距離に置いた。
すると、ツォンに睨まれた。
「…ナマエ、だったか。何のつもりだ」
「使うか使わないかは、貴方の自由です…」
ツォン…か。
確か彼は、2年後…他のタークスの面々と一緒に、ルーファウスの傍に立っていたよね。
ツォンは、この先も生きて…未来に生きる人。
こんなところで死ぬ人じゃない。
…すんなり手を出す事が出来たのは、それを知っていたからなのかな…。
なんだか、ずんと胸に押しかかる。
あたしは天秤にかけているのか、ひとりの命と…世界を。
…そんなの、比較出来るものじゃない。
していいわけがない。
そう、わかってる。
「貴方の自由だけど…でも、自分が助けられるなら…助けるものじゃないですか?」
言葉を掛けたのはツォンに対してじゃなくて…本当は、あたし自身にだったのかもしれない。
そうだよね…。
助けられるなら、手を伸ばす…ものだよね。
これではっきりわかった気がする。
「ナマエ…」
「エアリス…」
エアリスがそっとあたしの肩に触れた。
それは複雑な感情だろう。
エアリスの本心は、ツォンの死など見たくないだろうから。
…あたしも、エアリスの死は見たくない。
目の前にいる人…。
自分の手が届くのなら、あたしは…助けたいと思う。
「ナマエ…」
「うん…それじゃ」
クラウドに声を掛けられ、あたしは立ちあがった。
そして背を向け、そっとツォンの前から退いた。
「待て…」
でも背を向けたその時、ツォンはあたしを呼びとめた。
足を止めて、ゆっくり振り向く。
するとツォンは、小さく頭を下げた。
「…すまない。感謝する」
「…いいえ」
短いお礼。
あたしは小さく首を振った。
お礼は…本当はあたしが言いたいくらいなのかもしれない。
彼は、気付かせてくれた。
助けたいって思う気持ち。
うん…。
こちらこそ、だ。
「いくぞ…」
クラウドがキーストーンを手にする。
祭壇に置けばまばゆい光が溢れ、あたしたちを神殿の中へ導く。
古代種たちとの知恵比べ、開始。
To be continued