Grip | ナノ



「………エヘ。西へ行くっての、どう?ぜ〜んぜん理由なんかないけどね。もう、ぜ〜んぜん!」





波の揺れで真っ青になった顔で無理矢理作った胡散臭い笑顔でそう言ったユフィ。

ユフィの案を採用したわけではないものの、とりあえず近くの陸地に降りようと言ったクラウドの判断で、あたしたちは西の大陸に降りた。

でも正直あたしは上陸直後から、妙にそわそわしている彼女を見て苦笑いだった。
…だって、あたしはユフィの企みを知っていたから。

そんな苦笑いの出来事の発生は、まだ記憶に新しい。





「…ナマエ、あんた本当に良いもの貰ったな。マテリアの穴は少ないが、今の状況には最適だ」

「あ…うん、それは…よかった」





クラウドがヒュン…と風を切るように振るったのは、あの陸奥守吉行。

金髪に青目なんて容姿の彼だけど、案外着物とか着たら様になったりして…とか思ってる場合じゃないんだろうな…きっと。

いつもクールで感情をあまり表に出さない彼にしては珍しく、機嫌が悪いのがわかる…気がする。





「クンクン…北の方に逃げたみたいだよ」

「早く追いかけて、取り戻さなきゃ、だね?」





鼻が利くナナキと、その彼をそっと撫でるエアリス。

マテリアを盗んで逃亡したユフィを追う為、クラウドが決定したのはこんなチーム構成だった。

ナナキには匂いを辿って貰う為、エアリスは特技を重宝した結果らしい。
少人数なのは、ここら辺一帯は何故か神羅兵が警戒している地域であり、目立ちやすいからとの事。

そこまではわかる。彼の意見に異存はない。
でもたったひとつだけ…あたしが此処に面子として選ばれていることだけが疑問だった。





「ね、ねえ…クラウド、どうしてあたしも此処にいるのかな…?」

「どういう意味だ?」

「いや…そのままの意味だよ。あたしより他に誰か別の人を連れて行った方がいいと思うんだけど…」





そう伝えると、なぜか彼に呆れたように溜め息をつかれてしまった。

あ…あれ…。
なんだろうか…その反応は。





「あんたは…、どうしてそこまで自分に自信がないんだ」

「え、ええ…。だって、それこそどういう意味…?クラウドはあたしに戦力的な期待をしてるって言うの?」

「…人の話聞いてないのか。いつもそう言ってるだろ」

「ええ…」

「ええ…、じゃない。特に今回はマテリアがないから、あんたのアイテムの知識は重宝する」

「そうかなー…」





クラウドは今までもそこまで負担になっていないから気にするな、と言ってくれている。

それは嬉しかったし、本当にそうならいいなって思う。
でもやっぱりたかが知れてるというか、誰か本当に戦力になる人を連れてきた方がいいような…とも思う。

だってあたしはあくまで補助だし、戦う力は皆無と言ってもいいだから。





「ふふ、じゃあ、ナマエは私といるの、嫌?」

「えっ」





ふと、会話に入ってきた可愛らしい声。

それはエアリスの声で、彼女は相変わらずの柔らかい顔で微笑んでいた。
エアリスといるのが嫌だなんて、答えは勿論NO。

だから慌てて首を振った。





「え、いや全然、ていうか、そーゆーことじゃなくて…」

「じゃあ、いいじゃない。一緒に行こ?ね?」

「え、あ、…は、はい」





なんというか、完全にエアリスのペース。
上手くくるめられたと言うか…気づけばすっかりそんな感じ。

だけど…楽しそうで、明るい笑顔。
なんとなく…エアリスには適わない。そんな気がした。

ひとまず、こうして辿りつくことになったのはユフィの故郷であるウータイ。

FF7はファンタジーと言いつつも漢字とかあるし、何かとあたしの世界とこの世界の共通点は多い。
だけど、その中でも取り分け和の雰囲気が強いのがこのウータイだ。

現代日本においては観光名所にでも行かない限り、そんなに和が満ちているわけじゃない。
けど、風とか匂いとか…どことなく懐かしい感じがするような気がする。





「わー!生ダチャオ像だー…」





街の中ならモンスターの心配もない。
効率的な問題を見てそれぞれ別行動でユフィを捜索することになり、あたしも皆から離れ街をのんびりと散策していた。

いや、のんびりしてる場合じゃないのはわかってる。

でも隠れ場所を知っているかくれんぼの鬼って言うのはどうも…。
しかもロケット村で起きた出来事を見るに、物語を早く進め過ぎるのもどうかという話になってきた。

今でこそ大きな動きはないけど、致命的に大きなズレでも出たら大変だ。

…いや。
…そうじゃ…ない…か。





「…………。」





ふと、視線がダチャオ像から落ちた。

そう…そうじゃなくて、致命的なズレなら…。
…いや、致命的なズレ…起こしたらどうなるのかな…。

セフィロスを倒せなくなる…?
でもそれは、皆がいてさえくれれば何とかなる気がする。

現に今の時点でちゃんと最後のシドを含め、9人の仲間が揃った。

9人の仲間…。
だから、そのまま9人で最後まで…。

エアリスがここにいるままに…最後まで走れたら…。





「ナマエ!」

「…へ」





その時突然、ぽんと肩を叩かれた。

声から察するにたぶん彼だ。
振り向けば案の定、そこには金髪があった。





「あ、クラウド」

「何をぼーっとしてるんだ」

「あー…ごめん。ちょっと考え事してたの」

「…悩み事か」

「へ?」

「…最近、ぼんやりしてることが多い」





悩み事、と言えば悩み事なのかもしれない。

でもそんなに指摘されるほど、ぼんやりしてるのだろうか。
それはまずい。不注意にも程がある。気をつける様にしないと。

とりあえず適当に誤魔化して、本来の目的に話を戻すことにした。





「なんでもないよ」

「そうか…?」

「うん。それよりユフィは?見つかった?」

「ああ…そのことで、ちょっと協力してほしいんだ」

「協力?」





くいっとクラウドが指したのは、かめ道楽の前にある大きな壺。

どうやら屏風の裏や、タークスとの小競り合いやらは済んでしまったようだ。
それほどの時間が経っていたとは。あたしはどれだけウータイの街並みに夢中になっていたのかと自分でもちょっとビックリ。

まあそれは置いておくにして、つまりはあの壺の中にユフィは隠れてる。
クラウドがそれを揺らして飛び出したところで皆で追い詰めてしまおうというアレだ。





「もうエアリスたちには声を掛けてある。鬼ごっこもこれで終わりだ」

「わかった。任せといて」





シンプルな作戦だけに、目だけの合図で事が進む。

エアリスとナナキと一緒に定位置にスタンバイする。
それを確認したクラウドが壺を揺らすと、ユフィはすぐさま壺を飛び出して来た。





「わわっ」

「こーらっ!」

「ユフィ!」





逃げようとした道にいたエアリスとナナキに睨まれ、ユフィはクルッと道を変える。そしたら今度はあたしの番だ。





「すとーっぷ!」

「げっ…今度はナマエかよ…」

「ナマエですけど何か!」





バッと手を広げて道をふさげばあからさまに嫌な顔。
まあ、本当に嫌な顔したいのはクラウド達の方なんだろうが。





「もう逃げられないぞ、ユフィ」

「わ…わかったよ…。あたしが悪かった…。あんた達の勝ちだ。マテリアは全部返すよ…」





最後にクラウドに肩を掴まれ、完全に囲まれたユフィ。
抵抗を無駄と悟った彼女は大人しく降参して手を上げる。





「マテリアはあたしの家にあんの。こっちだよ、ついてきて」





そんな風に言いながら、本当に悔しそうな顔をしてるユフィは案外役者さんなんじゃないかと思う。

腹の中ではくすくす笑ってるのかな、この子は。
この後に待っている展開を考えると、ユフィって結構腹黒いよなあ…なんて、苦笑いが零れた。








「…小さい頃から聞かされてた。あたしが生まれる前のウータイはもっと賑やかでもっと強かったって…。見たでしょ、今のウータイを。これじゃただの観光地だよ…。戦に負けて、平和を手に入れて、でも、それと一緒に何かを無くしちゃったんだ。今のウータイは」





ユフィの家の地下室。
マテリアが隠してあると言うこの部屋で、ユフィは涙声で肩を震わせていた。

…本当、この子役者さんだなあ…。
実際に目の当たりにして、ユフィの演技には感服した。

と、言っても…言っている事に嘘はない。
これはユフィの本音なのだろう。

ユフィは強いウータイが好きだった。

根は悪い子じゃない。
ただちょっとばかり、したたかと言うか…物欲が強すぎると言うか…。





「だからあたしは…マテリアがいっぱいあればきっと……だから、だから…」

「悪いがユフィ。ウータイの歴史にもお前の感情にも興味はない。俺達に重要なのは今俺達のマテリアをお前が持っているという事だ。マテリアさえ返してくれればそれ以上お前を責めるような事はしない」

「わかってる。そんなのあたしだってわかってるよ…」





流石に泣かれるとクラウドも強くは責められない。
興味はないと言いつつ、多少は同情している部分もあるのだろう。





「可哀想、だけど…」

「ちょっと言い過ぎたかな…?」





エアリスとナナキなんて、完全に同情の色が滲んでる。
ああ、ふたりは本当に優しいな…と思う。

あたしはと言うと…本当、正直どう反応していいか悩むところだ。

いや、頑張ってるのは偉いと思うんだよね。
ちゃんとウータイの事考えて、ひとりでも行動してるんだから。





「そこにヒック……スイッチ…左のレバー…マテリア、ヒック……隠して…」





ユフィに言われたとおり、部屋の奥にあるレバーに手を掛けたクラウド。

あ、クラウドも素直だな。ちゃんと左のレバーに触れてる。
まあどっちも同じ結果のレバーだけど…なんて、ね。

その記憶通り、クラウドが左のレバーを操作した瞬間、天井から凄い勢いで檻が降ってきた。

ガシャン!!





「きゃ!!」





驚いたエアリスが悲鳴を上げる。

ていうか知ってたあたしもあまりの勢いに結構びっくりしたよコレ…。

クルッと振り向いたユフィの顔には涙の跡なんてちっとも残ってない。
そこにあったのはしてやったりな満面の笑みだけ。





「ハッハッハーッ!そう簡単に人を信用するなって事!!マテリアはあたしの物!残念でした!マテリア取り返したかったら自分達で捜してみれば?そう、マテリアを見つけるにはカネにものを言わせなきゃ。エヘヘ…カネだよ、カネ。わっかるー?じゃ〜ね〜!」





わざとらしく小生意気な表情を浮かべて、ひらひら手を振り去って行くユフィ。

クラウドが慌ててレバーを戻せば檻も上に戻っていく。
閉じ込められたことで、優しかったふたりも流石に堪忍袋の緒が切れた。





「もう、怒った!ちょっと可哀想って思った私、馬鹿みたい!」

「オイラもオイラも!ユフィの奴〜!!」

「……追うぞ」





あ、クラウドもなんか怒ってるかも。
声こそ静かだったけど…いや、静かだったからこそよくわかるのか。





「あはは…。鬼ごっこ、第二ラウンド開始…だね」





むしろ本番はここからだ。

次に出てくるであろうはウォールマーケットのあの人。
あたしはまだ生で見たことはないけれど、なんとなく厄介そうな想像だけはついた気がした。



To be continuedued


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