Grip | ナノ



「わあ…ロケットだ…!」





見上げたのは神羅26号…だっただろうか。
まさか人生で初めてロケットを見るのが、異世界だなんて思わなかった。





「…大きいなあ…」





ニブルヘイムの先にある険しいニブル山を抜け、たどり着いたのはロケットポートエリア。
そこにあるのは中心部に大きなシンボルを持つロケット村だ。

ついたのは夜で、だからよく見えなかったけど…一泊して朝になったらくっきり見えた。

ここでは最後の仲間シドが仲間になる。
ああ、早く会ってみたいな…という気持ちもさながら、物語に大きく関わってくるあのロケットを見れたことにも感動を覚えてしまう。

夢中になってロケットを眺めていると、そんな時、ふいに声を掛けられた。





「お嬢さん、あいつに興味がおありかね?」

「えっ?」





振り向くとそこにいたのはひとりのおじいさんだった。

アレ…、ここでおじいさんって言うともしかして、陸奥守吉行くれる人…?
そう思いながらも素直にコクンと頷けば、ちょっと長めのお話が始まった。

どうやらビンゴ…だったらしい。





「いやはや、すまんのう。わしの長い話に付き合わせてしまって」

「いいえ。気になっていたので興味深いお話でした」

「そう言ってもらえるとありがたいが…。そうじゃ、お礼にこれを差し上げよう」





そう言っておじいさんが渡してくれたものは、ずしっとそれなりの重さがあたしの手に圧し掛かってくる。

それは一本の日本刀。





「大事に使ってもらえるとわしも嬉しいんじゃが」





なんと…。
陸奥守吉行、本当に貰えてしまった。

でもあたし、コレ使うように見えたのかな…。そこだけちょっと疑問…。
悪いけど、日本刀なんて触ったの初めてですよ。

ダガーだってニブル山で少しクラウドに見てもらったけど、まだまだ初心者だっていうのに。

…けど、クラウドにいいお土産が出来たかもしれない。





「ありがとうございます。有難く頂きます!」





だからぎゅっと大事に握りしめ、ちゃんとお礼を言っておいた。

するとその時、ちょうどいいタイミングで彼がやって来た。





「ナマエ」

「あ!クラウド、ちょうどいいところに」

「?、何かしてたのか…って何だそれは」

「はい。プレゼント」

「…え?」





長い日本刀をクラウドの手に渡し、にっこり笑ってみた。
咄嗟に手を出したクラウドは受け取るなりきょとんとしてる。





「これ…なんだ、刀?」

「うん。陸奥守吉行って言うんだよ」

「どうしたんだ、こんなの」

「さっき、そこにいたおじいさんがね、自分の長い話付き合ってくれてありがとうってくれたの」

「随分気前がいいな」

「それはあたしも思ったけど、でもあたしたちの中で扱えるのはクラウドだけだよね?だからプレゼント」

「ああ…珍しいけど、使わせてもらうよ」

「うん」





クラウドはチャキ…という、あの独特の音を響かせながら肩に刀を掛けた。

それにしても、バスターソードもアルテマウェポンも剣って感じなのに、これはまさに日本刀だよね。
いやまあ…釘バットとかあるけど、それは置いておいて…さ。

でもこの後行くのは多分ウータイだから、陸奥守吉行はその雰囲気にピッタリ合うのだけど…って、ああ。





「そういう…ことなのか」

「…何がだ」

「え?あ、な、なんでもない!」





だからここで手に入るのか…なんて、うっかり納得してしまったあたしはクラウドに顔をしかめられてしまった。

そんなクラウドに、あたしは苦笑いするしかなかった。

まあ、そうして適当に誤魔化しながら…あたしは少し考え事をしていた。





《そうか…お前たちにはわからないのか。なるほど、形は何一つ変わりが見えないからな…。だが、その娘はお前たちとは違う》






神羅屋敷でセフィロス…もとい、ジェノバに言われた言葉。

ジェノバやセフィロスは、あたしがこの世界の人間じゃないって事に気が付いているらしかった。
それがどこで、どんな場所だとかはわかって無さそうだったけど…。

違う世界の人間…。
あたしが皆と違うなんて、分かり切ってたこと。

…クラウド達も気にしなくていいと言ってくれたし、だからそれは大丈夫だ。

だけど…やっぱり少し、気になった。

セフィロスはあたしをちっぽけな存在だと言っていた。
それは確かだし、否定する気もない。

別になにがどうなるわけでもないんだろうけど…。
…でも、なんとなく面倒と言うか…変な事にならなきゃいいけど…なんて少し思った。





「ところで、そこにあるのが艇長って奴の家らしいんだ。ちょっと行ってみないか?」

「艇長?」





並んで歩きながら、クラウドが指さした一件の家だった。
艇長というからには勿論それはシドの家。

クラウドはクラウドで情報を入手し、この村の顔とも言える人物だと艇長の話を聞いたらしい。





「他の皆は?」

「一応、見かけた奴には声を掛けて置いたけど、まだ皆それぞれ買い物とかしてるみたいだな。ナマエも何か用事があるか?」

「ううん、あたしは平気。じゃあ行ってみようか、その艇長さんの家」

「ああ」





もっとも、シドは今ロケットの所にいて、今は家にいない。
というか多分、留守だった気がする。

でもすぐにシエラが帰って来たはずだ。
彼女もまた重要な人。会えるというなら嬉しい。

断る理由なんてないですとも。

こうしてあたしはクラウドと艇長の家に歩き出した。












「なんでえ、お前らは?」





ノックして開いた扉。
そこで出迎えてくれた顔に、あたしは固まった。

青いジャケット、金髪にゴーグルに咥え煙草。

あ、あれ…な、なんで…?

艇長宅にて…予想外の展開。
迎えてくれたのは、今はロケットにいるはずのシドだった。





「あんたが艇長か?」

「あん?そうだぜ、親から貰った名前はシド。なんだ、俺に用か?」





クラウドが声を掛け、話し始めたふたり。

でもその内容なんか、あたしの頭にはちっとも入ってこなかった。
なぜならあたしは、どうしてシドがロケットに居ないのかをひたすらに考えていたから。

そんなの些細なことだけど、いやいやでもおかしいよね?
ロケットに会うんだよ。タイニーブロンコ貸してって言いに行くんだもん。

でも何となくツン…と、小さな心当たりがあった。

…もしかして、あたしが神羅屋敷での謎解きを早く解いちゃったから…とか?
だからクラウドたちがロケット村に到着する時間が早まっちゃったとか…。
もしかしたら夜つくんじゃなくて、朝早くニブル山を登って昼過ぎに着く…とかだったのかな?

それが本当に理由かはわからない。
根拠には弱い気もする…けど…ないとも言えない?

だけど、もしあたしが関与しているのだとしたら、それってまずいのでは…。

そうだとしたら…もっと気を張っていかないと…。

余計な事をしないに越したことは無い。
あたしはひとり、心に決意を固めていた。





「おい、ナマエ?」

「え、あっ、ごめん。ぼーっとしてた!」





その時、クラウドに顔をのぞきこまれ、はっとした。

こちらから家を訪ねておいてボーっとしてるなど失礼にも程がある。
あたしが慌てて「はじめまして」と挨拶すると、クラウドはあたしを見る目を細めた。




「…その様子じゃ、話も聞いてなかっただろ?」

「あ、あはは…ごめん」

「…セフィロスの情報は特になさそうだな。ただ、厄介な事にこれからここにルーファウスが来ることになってるらしい」

「ルーファウス?」

「ああ。シドは宇宙開発の話だと期待しているが、実際はどうだかな…」

「う、うん」





こそっと話を教えてくれたクラウド。

確かにルーファウスが此処に来るのは宇宙開発じゃない。
ただ、シドに預けてあるタイニー・ブロンコを取りに来るだけだ。

でもそんなことなど知る由もないシドは宇宙開発への期待に胸を踊らされている。





「まあ、何もねえがゆっくりしてけや。俺ァ、ちょっくらロケットの様子を見てくっからよ。そうだ、裏庭にタイニー・ブロンコっつー飛行機があるからよ、興味がありゃ見てみな。だが、汚ねえ手でベタベタ触んじゃねえぞ」





シドはその言い残すと、あたしたちを残し外に出て行った。

少し静かになったシドの家。
あたしはちらっとクラウドを見た。





「ねえ、これからどうするの?」

「ああ…、タイニー・ブロンコ、一応見てみるか?」





タイニー・ブロンコ。
この旅でも活躍する小さな飛行機だ。

…まあ、使い方はだいぶ残念な感じになっちゃうけど…。

クラウドもそれなりには興味があるらしく、折角なら見ておこうという話になった。

裏庭への扉を抜けるとすぐ、その姿は見えた。





「わあ…」

「へえ、いいな、これ」





目にした飛行機に、あたしとクラウドは感心した。
なるほど…これがあれば確かに旅の効率は飛躍的に上がっただろうな。





「どうにかして譲ってもらうか…?」

「汚い手で触るなって言ってたし、一筋縄じゃいかないんじゃない?」

「確かにな」





クラウドはタイニー・ブロンコを見上げたまま、どうやってシドに譲ってもらうか考えてるみたいだった。

そうそう、普通はこうだよね…。
クラウドの感性は普通で安心した。

ユフィとかバレットは盗むベースだし、まさかのヴィンセントも「見張ってようか」とか言い始めてた記憶がある。
大切な仲間ながら、物騒な集団だと思う…。

するとそこへ、ひとりの女の人が入ってきた。





「あの…何か?」





振り向くとそこにいた眼鏡を掛け髪をひとつに結わいた女性。

…シエラだ。

あたしがそう彼女の名前を思い出した一方で、クラウドは彼女に答えた。





「いや、見せてもらっていただけだ」

「もしそれが使いたいなら艇長に聞いて下さい」

「ああ、ロケットを見に行くって言ってたな」

「あ…、艇長とはお会いしましたか?私はシエラと言います」

「俺はクラウドだ」

「ナマエです。はじめまして」





ぺこっ、と礼儀正しく挨拶してくれたシエラに、クラウドとあたしも自己紹介をする。
シエラは顔を上げると、あたしたちの顔を見て少し拍子を抜かしたようだった。





「神羅の人達じゃないんですね。私、宇宙開発再開の知らせが来たのかと思って」

「ルーファウスが来るらしいな」

「ええ。艇長は朝からそわそわしてますわ」





そう言いながら、そんなシエラもどこかそわそわしているようにも見えた。

彼女はエンジニアであり、彼女にとってもロケットは思い深いものなのだろう。
いや…彼女が一番気にしているのは、シドの事なのかもしれない。





「あの…クラウドさん、ナマエさん」

「はい?」

「なんだ?」

「艇長、何か言ってました?」

「いや」

「…そうですか」





現にこうしてシドのことを口にした。
その少し寂しそうな顔はクラウドにも印象づいたらしい。





「どうしたんだ?」

「いえ…、本当に宇宙開発再開の知らせなのかと思って…」

「…違うと思うんですか?」

「わかりません…。ただ…」

「…なにかあったのか」

「……。」





クラウドが尋ねるとシエラは俯いてしまった。
そしてぽつぽつと過去にあったあの出来事を寂しそうに教えてくれた。

酸素ボンベのチェックで満足が得られず、そのチェックを発射ぎりぎりまで行ったシエラ。
その行為がロケットの発射を妨害し、それ以来宇宙開発の計画は遠のいて行ってしまった過去。





「私は…あの人の夢を潰してしまったんです。私はあの人の償わなければならないんです…」

「「……。」」

「あ…ごめんなさい、突然こんなこと」





シエラはそう一言小さく頭を下げると「失礼します」と中に戻って行った。

その切ない背中に、少しだけ沈黙した。

でも、あたしたちはここからどうするか考えなきゃならない。

多少順番は狂っているものの、物事はとりあえず問題なく進んでいる。

あたしが変に助言するよりクラウドに決めてもらった方が自然に事は動くだろう。
だからあたしはクラウドに指示を仰いだ。





「ねえ、クラウド?」

「…そうだな。考えたんだが、選択肢はふたつだな」

「ふたつ?」

「まず、ロケットまで行ってシドを説得するがひとつだ」

「ふたつめは?」

「このままコイツに乗って村を出る」

「ええ!?」





真顔でそんなこと言いだしたクラウドにちょっと反応に困った。

あ、あれ…。おかしいな…。
クラウドは普通の感性の持ち主かと思ってたのに…貴方もそっちサイドだったのか。

とりあえず、困惑しながらも言葉を返した。





「え、えーっと…泥棒?」

「…平たく言えば、そうだな」

「平たくしなくてもそうだよね…」

「けど、こいつには神羅のエンブレムがついてる。今更俺たちが神羅のものをどうしようと関係ない気がしないか?」

「ま、まあ…ハイウェイでのバイクとかトラックも盗んだようなもんだよね」

「それに、ルーファウスが絡んでいるなら早めにここを出たいしな」

「あー…うん、なるほど」





クラウドの並べる言葉には説得力があるというか、なんというか…。
思わずコクコクと頷いてしまった。

とりあえずクラウドはPHSで連絡を取り、他の皆をシド邸の裏庭に呼んだ。

概要を話した結果、意見はふたつめの案への賛成が多数。

マトモに「借りられないの?」と言ったのはティファとナナキだけ。
あと立場的な問題があるケット・シーが少し渋ってたくらいだった。





「つーかさ、もう面倒だし出しちゃえばいいじゃん!ほら、エンジンどこだ?」

「ちょ、ゆ、ユフィ…!」





ユフィはタイニー・ブロンコに乗り込むと適当に動かそうとし始めた。
あたしは慌ててそんなユフィを追いかける。

な、なんだかルーファウスもパルマーも皆無視しちゃいそうな勢いなんだけど、ダメじゃないそれ?!




「ああ!動いたよ!」

「え…!」





ユフィがブイっとピースしてきた。
乗り物弱いのに自らエンジン掛けちゃうなんて、なんだか勇者だこの子…!

だけど、何故動いたかわからないのなら止め方だってわかるはずない。

それを察したクラウドは全員に呼びかけた。





「構うな!乗り込め!」





その指示で今にも浮かび上がりそうなタイニー・ブロンコに全員が飛び乗った。

こんなに大勢で乗ったら落ちちゃうんじゃ…なんて心配もなんのその。
プロペラが回転し、何事もなく浮かび上がったタイニー・ブロンコはシドの家の屋根を飛びぬけ、颯爽と空へと飛び立った。





「ケッ! 最初は飛空艇、次はロケット。今度はタイニー・ブロンコか。神羅カンパニーは俺様から宇宙を奪っただけで足りずに今度は空まで奪う気だな!…って、おおお!?」





その時、家の前でルーファウスと衝突しているシドの声が聞こえた。

シドは目の前に現れたタイニー・ブロンコに目を見開き、すぐさま慌てて追いかけてきた。
そして流石FFの槍使いというジャンプで機体に飛び乗ってくる。

パルマーとの戦闘が無くなっただけで、後はそう変わりなく未来は動いたらしい。
つまり、下にいるルーファウスは兵に銃撃を命じた。





「うわああああ!撃ってる撃ってるー!!!」

「ナマエ!伏せてろ!」




向けられた銃声に恐怖する。
思わず叫んで目をつむると、クラウドの手が触れてあたしの頭を下げさせた。

弾は誰かに当たることはなかった。
だけど、このタイニー・ブロンコが空を仰ぐのはこれが最後。
弾はあたしの記憶通り、機体の尾翼を破壊した。





「さあ、でっけぇ衝撃が来るぜ。チビらねえようにパンツをしっかり抑えてな!」





少しばかり下品ではあるが、シドの言葉で全員が揺れに備え各々掴まる。
あたしもタイニー・ブロンコにぎゅっとしがみ付いて衝撃を待てば、バシャーン!!と大きな波が立った。

本当…大地に墜落なんてことにならなくて本当に良かったと切実に思った…。






「こいつはもう飛べねえな…」





尾翼に触れて状態を探り、シドはため息とともに肩を落とした。





「ボートの代わりに使えるんじゃないか?」

「ケ!好きしろい!」





妙に現実的は言葉をさしたクラウドに、シドは舌打ちしながらヤケクソに言った。
そして懐に手を伸ばすと、煙草を取り出し咥え、あたしたちを見渡す。

面識があるのはあたしとクラウドだけ。
そんなシドはあたしとクラウドに尋ねてきた。





「おい、こいつら全員お前ら連れかよ?」

「ああ、そうだ」

「そう。全員仲間だよ」

「仲間って…。何だってんだ、こんな大所帯で。お前らこれからどうする気だよ?」

「セフィロスという男を追っている。神羅のルーファウスもいつか倒さなくちゃならない」





簡潔に物事を説明するクラウドに、シドはいささか興味を抱いたようである。
煙草の灰を海に捨てると、何か面白い事でも見つけたようにニッと笑った。





「何だかわからねえが…面白そうじゃねえか!俺も仲間に入れろ!どうせ神羅とは切れちまったし村は飽きちまった!」





ひとり意気揚々とやる気になっているシド。

シドはセフィロスに何の恨みもないし、本当に勢いだけでの参加だ。
というかやっぱりこのゲーム…勢いで仲間になる人多すぎる…。





「みんな、どうだ?」





クラウドが意見を求めると、皆は特に異存はなさそうに頷いた。
恐らくクラウドが反対を口にしなかった時点で、クラウド自身が構わないと思っている意図を察しているのだろう。





「ナマエは?」

「うん。シド、さばさばしてるし、こういう性格の人嫌いじゃないよ」

「うっし!決まりだな!」





あたしが反対するはずないじゃないか。
最後にあたしが頷けば、シドは豪快に笑った。





「よろしくな、クソッタレさん達よ」



To be continued


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