Grip | ナノ



コスモキャニオンの方の厚意で修復してもらったバギー。
そして故郷までの同行と決めていたレッドXIII改め、世界を見て回ると決めた戦士セトの息子ナナキを受け入れ、あたしたちは旅を再開した。

コスモキャニオンから立ち、浅瀬を抜けてたどり着いたのはひとつの小さな田舎の村。





「なぜ…だ?」





その村を前に、いつもクールなクラウドが動揺した。

動揺は他の皆にも伝わる。
いや、というより…皆は困惑していた。

村の名前はニブルヘイム。
5年前…セフィロスによって焼き払われてしまったはずのクラウドとティファの故郷だった。





「クラウド…オイラ達に嘘ついた?」





ナナキが不安そうにクラウドを見上げる。
その言葉にケット・シーは少し咎めるような口調で続けた。





「クラウドさん、同情でもひこ思て作り話ですか?」





同情を引くだなんてとんでもない。
正直、その言い方はちょっと…と思う。

疑いたくなる気持ちもわからなくは無いけどね…。





「俺は嘘なんか言ってない。俺は覚えてる…。あの炎の熱さを…」





クラウドはすぐに言い返して手のひらを見つめ、握りしめた。
その様子に少し戸惑いを見せていたティファも加勢した。





「うん。燃えちゃった…はずだよね」





クラウドもティファもあの事件の当事者だ。

いくら今ここにニブルヘイムが存在していたとしても、この村が全焼してしまったのは紛れもない事実。
クラウドが感じた熱さも、本当に本物。

あたしはその事実を知っているから、少し言葉を添えた。





「神羅が絡んでるんでしょ。何かやましい事があるなら、復元くらいしちゃうかもね?」

「…ナマエ」






目があったクラウドに頷いた。
それは信じているよ、という合図にも似ていた。

クラウドはスパイの事で、仲間を信じると言ってくれた。
イレギュラーなあたしがいる場合でも変わらずに。

それは素直に嬉しかった。
だから、少しでも彼の気持ちが軽くなればいいと思って。

今の言葉に説得力はあっただろうか。
あたしの言葉に皆は少し納得の態度を見せていた。

まあ…説得力も何も、あたしが言っていることは事実なんだけど…。
当時から現存しているのは村はずれにある神羅屋敷だけだ。





「ねえ、そこ、ティファの家だったの?」

「うん、そうよ。本当、燃えちゃったはずなのに…すっかり元通りだなんて…」





それぞれ情報を集めることになり、あたしはティファと行動を共にしていた。

ティファは自分の家そっくりに建てられた家を見上げ、複雑な表情を浮かべている。
ここにあるのは苦い記憶だし、無理もない。

それに中には黒マントを着込んだ怪しげな刺青の人物がうごめいていた。

この村の中には何人かそういう人物がいる。
というよりは、その人物たちが本当のニブルヘイムの住人達だ。

宝条博士の実験による被害者たち…。

もしかしたらクラウドも、あたしだって…一歩間違えばそうなっていたかもしれない。
そんな風に思ったら、何だか人事に思えなくて、直視するのが怖くなった。





「セフィ…ロス…様……近くに……いる……。……屋敷……の…中……おおぉぉぉ…セフィ……ロス…様」





村はずれに続く道。
そこにも黒マントの人物はいた。

ティファによると、この道は例の神羅屋敷へと続く道なのだとか。

黒マントの人物は屋敷のある方を見て「セフィロスがいる」と呻いている。

…屋敷にいるのは本当はセフィロスじゃなくて、セフィロスの姿を模したジェノバ。
だけどこれは今のクラウドたちにとっては重要な情報に変わりない。





「ティファ」

「うん。一度、クラウドに伝えに戻ったほうがいいね」





こうしてあたしたちは来た道を引き返し、クラウドを探すことにした。

神羅屋敷にはモンスターが住み着いてる。
それに地下では特大イベントが待ち構えているわけで。

一番はもちろん、あの不老の彼。
そして黒マントの言うとおり、疑似セフィロスの存在。

だけどやっぱり新しい仲間の存在につい浮足立ってしまう。
その時のあたしの心境と言えば、正直ウキウキしてた…のは否定しない。






「クラウドー」

「ナマエ、ティファ…」





村に戻ってすぐ、クラウドはわりとすんなり見つかった。
小さな村だし、そんなに手間取るとも思ってなかったけれど。

クラウドはちょうど道具屋から出てきたところだった。
アイテムの補給と、主人への情報収集を兼ねていたらしい。





「ナマエ。道具、適当に補充したけどこんな感じで平気か?」

「あ、うん。ありがと。でも道具もいいけどクラウド、情報ゲットだよ」

「セフィロスが神羅屋敷にいるかもしれないの」

「神羅屋敷に?」





あたしとティファの話を聞き、クラウドは視線を屋敷のある方に向けた。

過去の出来事を思い出しているのだろうか。
彼は少し考える素振りを見せると「なるほど」と頷いた。





「村に住む連中にいくつか話を聞いたが、火事の事は誰ひとり知っていると言わなかった。怪しすぎるが、これ以上の情報は引き出せないだろう。神羅屋敷はセフィロスが豹変した場所だ。行く価値は十分にあるな」





こうしてあたしたちはクラウドと共に村はずれの神羅屋敷に向かうことに決めた。

でもその際にふと、あたしは射した影に気付いて上を見上げた。
そこにあったのはひとつの給水塔。

あ…これ…。

見つけたその給水塔に、あたしはクラウドとティファを呼びとめた。





「クラウド、ティファ」

「なんだ?」

「どうしたの?ナマエ」

「ふたりが話した給水塔って、コレ?」





あたしが指させば、ふたりもそれを追い給水塔を見上げた。

もっともコレは神羅の作った紛い物なんだろうけど。
でもクラウドとティファの給水塔と言えば、物語上なかなかのキーポイントだ。

あの頃のふたりって本当可愛いもんなあ…。
それを見られたって言うのは、やっぱりちょっと嬉しいファン心です…。





「ええ、そうよ。村の給水塔。登ると星が良く見えるの」

「へー。ここって空気も澄んでるし、結構綺麗に見えそうだね」

「そうなのよ。田舎の特権ね」





くすっと笑うティファに釣られてあたしも笑った。

一方、クラウドはちょっと驚いた顔をしていた。
その理由は簡単。あたしが給水塔の話を知っていたからだ。





「いつの間に給水塔の話なんか聞いたんだ?」

「え?結構前だよね?」

「ええ。私たち、仲良しだもの」





ティファの言葉に「ねー!」なんて二人で頷き合って、また笑った。





「本当だ。ちゃんと覚えてたね」

「ね。よかったわー」

「おい…何の話だ?」

「「内緒」」

「…………。」





ひとりだけ蚊帳の外のクラウド。
ああ、なんだかついつい笑ってしまう。

実際、ティファとは歳が同じであるため何かと親近感がある。
ティファも同じように思ってくれているようで、それは嬉しい限りだった。





「クラウド、ここでソルジャーになってくるって宣言したんでしょ?…あははっ」

「そうだけど、…最後の笑いは何だ」

「え、いや、青春してるなあ…なんて」

「…はあ…?」





凄い顔をしかめられた。
でも、これって青春してるなあ…としか言えない。

クラウドは、村のアイドルであり自身も憧れていたティファを勇気を振り絞って呼び出した。

これを青春と言わずになんて言おうか。そう思ったら笑ってしまった。

でも、今のクラウドが誰を見ているのかはよくわからない。

続編なんかもあるけれど、事実クラウドが誰を思っているのかは曖昧だから。
ティファとエアリスのふたりから想われるなんて、幸せモノ以外の何物でもないのに。





「……。」

「…な、なんだ。じっと見て」

「罪なお人だな、と思っただけです」

「…なあ、さっきからあんたと会話が上手くかみ合ってない気がする」





クラウドはそう言って更に顔をしかめていた。
かみ合わないのは、貴方が鈍感だからです…ってね。

でも確かに、エアリスやティファが惹かれる理由はわかる。

だって何だかんだ言いつつ、いつだって手を伸ばしてくれる。助けてくれるから。

あたしも…何度クラウドには助けられたか、と思う。

今は少し素っ気無いけど、でも自分の力一杯で寄り添ってくれる。
そう…彼は、凄く凄く優しいのだ。

だからわかる。
クラウドは格好いい人だ。

もっと社交的な性格だったら、きっとモテたのかもしれない。
神羅兵時代のクラウドって可愛いけど、ぱっとしてないような気がするし。
深く知るところまでいかないのだろうな。

だからこそ関わったティファやエアリスは彼の魅力に気がついた。
もしかしたらユフィだって悪い気はしてないのかも。デートイベントもあるし。

まあ…だからと言ってあたしには関係ない話だけど。

そもそも…この世界で誰かを好きになるとか、絶対にないもんなあ…。

…いつか別れは絶対に来る。
それなのに誰かを想っても…辛いだけだけだし。

それに…限りなくありえないけど、万一、誰かがあたしを想ってくれたとしたら。

それは本来ならあたしに捧げる思いではない。
結ばれるはずだった誰かと、結ばれなくなってしまうかもしれない。

…って、何考えてるんだろ、あたし…。

まあとにかく。だから、あまり余計なことはしない。
誰もエアリスもティファも応援しないっていうか…。でも、両方応援してる。

それを貫くのが、一番だと考えてた。

多少、影響がなさそうな事ならともかく、自分が少しでもマズイかもと思ったことはしない方がいいのだろう。





「ナマエ、行くぞ」

「うん」





もし…あたしがこの世界の住人だったらどうだったなんて…。
一瞬過った考えは、考えるだけ無駄なことだった。



To be continued


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