Grip | ナノ



「旅の人かい…。おんや? あんたのその目の輝きは…ソルジャーさんだね?」





アイテムや武器。必要なものをある程度買い揃え、いつもながら情報収集を始めることにしたあたしたち。

幾人かの村人に話を聞いているうちに、とある老夫婦がクラウドを見てそう言った。





「ああ、元だがな」





クラウドがそう答える一方で、あたしはその老夫婦の事が気になっていた。

ゴンガガ村でソルジャーのことを知っている人と言えば…それは恐らく彼の両親だという結論に達するのは…とても容易なことだから。





「あんたうちの息子を知らないかい?」

「ザックスっちゅう名前なんだが」





ああ、やっぱり。
その言葉で確信を得た。

じゃあここは…ザックスの家。






《夢を抱きしめろ。そして、どんな時でもソルジャーの誇りは手放すな》





思い出した台詞。

強くて明るくて、頼もしくて。
クラウドの親友であり、エアリスの初恋の人。

そして…ニブルヘイム事件の当事者。

現にザックスの名前を聞いて、ティファとエアリスの瞳が揺れたにあたしは気がついた。
…知っていた、と言った方が正しいのかもしれないけど。





「こんな田舎じゃ暮らせないとか言い残して都会へ行ったまま…もう、かれこれ10年近く…」

「ソルジャーになるっちゅうて村を飛び出したんだ。あんた、知らないかい? ソルジャーのザックス」

「さあ…、知らないな」





クラウドは首を横に振った。
…嘘。本当は、凄く知ってる人のにね。

だけどそれを思いだしたら、クラウドが壊れてしまうかもしれないから。
自分を守るため…いわば自己防衛なんだよね、これ。





「ザックス…」





そんなクラウドに変わるように、彼の名前を呟いたのはエアリスだった。
意味深な態度を見せたエアリスに、ザックスの両親は問いかけた。





「娘さん、知ってるのかい?」

「そういえば6、7年前に手紙が来てガールフレンドが出来ましたって書いてあったけど、あんたかい?」

「そんな…」





エアリスは何を語ることなく、家を出て行ってしまった。
そして、それはティファも同じ。





「…ソルジャーのザックス…」





ティファも考え込むように、エアリスを追うような形で外に行ってしまった。

残されたあたしとクラウド。
クラウドは不思議そうな顔をして、あたしに問いかけた。





「ふたりとも、どうしたんだ?」

「……わからない。けど、追いかけよう?」

「ああ…」





とりあえず、ザックスの家でこれ以上の情報もないだろう。
クラウドもふたりの様子は気にしていたし、ともかくふたりを探すことにした。





「エアリス…」





風になびくピンクのリボンと柔らかい栗色のツイスト。
まず見つけた背中にクラウドが声を掛けると、エアリスはゆっくり振り返った。





「……この村にザックスの家があるなんて知らなかったから、びっくりしちゃった」

「知ってる奴か?」

「いつか話さなかった?あ、ナマエには言ってないよね。…私、初めて好きになった人。ザックス…ソルジャー・クラス1ST。クラウドと同じ」





エアリスは優しく微笑んだ。

…クライシスコアを思い出すに、エアリスは本当にザックスが好きだったんだろう。
一緒に過ごして、一緒に笑って…ただ、そんな時間が愛おしかった。





「クラス1STなんて何人もいない筈だ。でも俺は知らないな」

「別に構わないの。昔の事だしね。ただ、行方不明だから心配なだけ」

「行方不明?」

「5年前かな。仕事で出かけてそれっきり。女の子が大好きな奴だったからね。何処かで知り合った子と仲良くなっちゃったのよ、きっと」





5年前の仕事。
ニブルヘイムの事件がすべて…。

エアリスはそのことを知らない。
まさかクラウドが語った過去の中にザックスの姿があったなんて思っていないだろう。

クラウドの中にザックスに似た何かを見てはいるんだろうけど…。

そして…口ではこんな風に言ってるけれど、本当は…。
本当は、そんな薄情に思ってるはずはないのだろう。

だけど、そうでも思わないと、浮かんでしまうのは最悪のシナリオ。
もしかしたらエアリスは気がついているのかもしれない。だけど、確信があるわけじゃない。
エアリス自身に確信がないのなら…無理に引きずり出す必要はない。

どんな形であれ、元気でいて欲しい。
それだけだと思ったから。




「ソルジャー1STって事は、その人も強かったんだね?」

「ナマエ…」





だから少し逸らした彼の話題に触れた。
するとエアリスは優しく微笑んだ。





「ふふ、うん。よく助けてくれたよ。困った顔すると、いっつも何とかするって自信たっぷりに言ってくれるの」

「へーえ、格好いいね」

「ふふ、どうかなー?でもね、だから、いーっぱい我が儘言っちゃった」

「わがまま?」

「んー、いや…あれはささやかな希望ね」





エアリスはどこか楽しげに笑う。



ささやかな希望は23個。
でもザックスはきっと覚えきれないから、ひとつにまとめます。

もっと一緒にいたいです。




エアリス希望を、ひとつに纏めた願い。
エアリスのその笑顔を見て、あたしはそんな事を思い出した。

だけど…それは、なんとか出来なかったお願い。

それでも今、この瞬間にザックスの人柄を一番わかっているのはエアリスだ。
エアリスはザックスが誰かを裏切るような人間じゃないこと、わかってるはずだから。





「うん…そう。とっても優しい人だった。一緒、いると…いつも笑顔になれた」





そう言ったエアリスは、懐かしそうに微笑んだ。

エアリスはクラウドを好きだと言った。
でも…今でもザックスは、エアリスにとって特別には変わりないのだと思った。








「ティファ」





次に、ティファに声を掛けにいった。
ティファはどちらかというと、村の出入り口の方向にいた。

ティファはクラウドの声に、ぴくっ…と少し大げさに反応した。





「知っているのか?」

「い、いいえ、知らないわ!」

「…いかにも知ってるって顔してるぞ」

「知らないんだってば!」

「わ、わかったよ」





強く否定するティファに、クラウドはしぶしぶながら折れ追及を止めた。

ザックスは…クラウドが自分だと語った昔話にぴったり当てはまった人。
ニブルヘイムにソルジャーとして訪れた、本来の男の子。

クラウドだけには言ってはいけない。
ティファの中で、たぶんそういう思いがあるんだろう。

だから話を逸らすように、他の話題を探していた。





「…でもさ、ソルジャーになるっ!なんて言い残して村を出たなんてまるでクラウドみたいね」

「あの頃は、そういう奴がたくさんいたんだろうな」

「そんなたくさんの中からソルジャーになるなんてクラウド、偉い偉い。尊敬しちゃうなぁ…」

「運が良かっただけさ」

「謙遜しちゃってぇ!」





交わされる幼馴染みの会話。

ソルジャーになるなんて偉い…。
運が良かっただけ、かあ…。

なんだか、事情を知ってると…少し、ね。





「ナマエ、どうかしたの?」

「ううん、どうもしないよ」





エアリスに聞かれ、首を振った。

だけど…クラウドとティファの、こんな弾む会話を目の前で見ちゃうと…やっぱり思うことはある。
事情を全部知っているだけに…何だか少し胸が痛んだ。

だって…みんな悩んだり、苦しんだり、色んな事を抱えて思ってる。

ゲームの世界…か。
だけど、みんな、ここにいる。

此処に在る想いは、全部本物…。

助けてくれるし、気遣ってもくれる。
だからこっちだって返せるものがあるなら返したいと思う。

ゲームだけど…ゲームじゃない。

この世界に来てすぐ思い知ったことではあった。

でもなんだか改めて…そう感じた気がした。



To be continued


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