Grip | ナノ



―――透明な壁。
目の前にあるそれに手を伸ばして触れれば、ひた…と冷たい温度が伝わった。





「ワープでもしたかのように突然目の前に現れた?クックック…果たしてそれは事実なのかどうか」





耳につく、特徴的な笑い方。

視線の先。透明な壁の向こうに見えたのは、白衣を纏った男性。
長めの黒髪を束ね、眼鏡を光らせ、あたしを覗き込んでいる。

たぶん、あたしの瞳は揺れていた。





「クックック…、しかしそれが事実かどうかはどうでもいい。それを差し引いても、君は実に面白いサンプルだ」





サン、プル…?

届いた言葉に耳を疑った。
でも眼鏡の奥は、確実にあたしを捉えている。

サンプルって…あたしのこと…?

もっと瞳が揺れた。
それは、胸を渦巻き支配していく…得体の知れない恐怖を感じているから。

思うように体に力が入らない。
恐怖に震えて、この男性から少しでも離れたくて、ゆっくり後ずさる。

だけど背中にぶつかった。

振り返るとまた、透明な壁。
それはあたしの周囲をぐるりと囲むように張られている。

まるで理科の実験で使うビーカーだ。
……いや、実際そうなのかもしれない。

あたしは今…ビーカーの中に、閉じ込められている。





「クックック…実に、実に興味深い!実に興味深い対象だな、君は!」

「…………。」





なにがそんなに楽しいのか、わからない。

興味深い対象って…なにがだ。
あたしは何の変哲もない、至って普通の人間だ。

興味深いだなんて、言われる覚えは無い。

なのに男性は…相変わらずに笑い続ける。





「なぜここまで魔力を宿さない?これではマテリアを使う事すら出来ないだろう」

「…まてり、あ…?」





ありえない単語が聞こえた。

魔力……?
この人、本気で言っているのだろうか。

それに、この人はマテリアと口にした。

マテリアって…FF7の?
そんなのありえない…。それこそ馬鹿馬鹿しい話。

だってそれは…ゲームじゃないか。

でも目の前の人は、それをあたかも現実の様に語る。





「そうだ。魔力の数値は個人差があるものだが…、ここまで0に等しいのありえない!いや、それよりも…君は一体何だ?人となりは同じにも関わらず、なぜこんなに…クックックッ」





楽しそうに笑う男。

その時、あたしは気づいてしまった。

目の前にいる、この人のさらに奥。
何だかよくわからないけれど、そこには大層な装置のようなものが置いてあった。

でも問題はその装置じゃなくて、その装置に刻まれているエンブレム。





「しん…ら…」





刻まれていた【神羅】という文字。

…頭痛がした。
だって、神羅だなんて…。

でも、さっき…この目の前の人はマテリアとも口にした。

…そんなの、ありえない。
ありえるわけがない…。

だけど…カチン、とパズルがはまった気がした。

じゃあ…じゃあ、この目の前にいる男の人は…。

彼を見上げ、まじまじと容姿を眺めた。

束ねた黒い髪。眼鏡に白衣。
年齢は…5〜60代と言ったところだろうか。

そして…特徴のある笑い方。

もしかして…この人は…





…………宝条、博士…?





過った単語にまた頭痛がした。
ありえない、そんなの…ありえないのに。

あたしは頭で、否定の材料を必死に探してた。



To be continued


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