Grip | ナノ



ナマエと訪れたワンダースクェア。
そこで出会った猫の人形に情報収集と軽い気持ちで依頼した占い。

結果は謎だらけ。
時間の無駄だったと言っても恐らく過言ではない。

しかもそんな占いの結果は不本意だから見届けるなどわけのわからない事を言って後をついて来るその人形。

一応戦うことも出来るらしいが、占いロボットになんで戦闘機能が必要なのか。…遊園地の防衛か?まあ、そんな考えはとりあえず置いておくことにして。
はたしてコイツの存在が吉と出るのか凶と出るのか…。

そんなことを考えながら、俺たちは次のブース…バトルスクェアへと足を運んだ。





「ナマエ、待て…」

「…神羅兵?」

「…ああ」





入口の時点で視界にちらついた見覚えのある青。
それに気づいた俺は素早くナマエの肩を引き制止を掛けた。

ケット・シーのよると、闘技場に向かうにはまず長い階段を上るらしい。
恐らくその階段の前。そこにはひとりの神羅兵が立っていた。





「ん!?」





しかし、その神羅兵は突然その場に倒れ込んだ。
俺たちは慌てて駆け寄り、俺はその神羅兵の脈に触れた。





「死んでる…」





脈は無い。
すでに事は切れていた。

その姿を見たナマエが少し目を逸らしたのが見えた。

…ナマエは、どうもこういう場面が苦手なように見える。
みんな別に得意ってわけでもないが。

ぎゅっと握り締めた手は…少し震えたようにも見えた。





「…上か」





俺は兵士の傍から立ち上がり、階段の上を見上げた。
恐らく…犯人がいるとすればこの上の確率は高いだろう。





「…俺は様子を見に行く。けど、その前に…一度最初のターミナルフロアに戻ろう。ナマエはそこで待っててくれ」

「えっ!?」

「…なにを驚いているんだ」





俺の提案になぜか目を丸くするナマエ。
その態度に俺は怪訝さを見せた。





「殺人犯がうろついてる。ここが危険なのはわかるだろ。ターミナルフロアなら何かあればすぐに出口に逃げられる」

「クラウド…なんか冷静…?」

「…どういう意味なんだ、それは」

「え、あ、いや…そうじゃなくて…えっと、でもそんなことしてたら犯人逃げちゃうかも!ね!ケット・シー!」

「へ?ま、まあ…そうでんなあ…」





急に同意を求められケット・シーは少しうろたえながらも頷いた。

…確かに、ナマエの言うことも一理はある。
今こうしている間にも犯人は何か行動を起こしているかもしれない。

だけど、犯人がいるかもしれない場所にこいつを連れていく事にはどうしても気が進まなかった。





「というか…ひとりにしないで欲しいかな。だって、もしかしたら犯人はここじゃないどこかにいるかもしれないじゃない」

「…それは、」

「だから、早く行こう。クラウド、気になってるんでしょ?」





まるで見透かしでもしたかのように、ナマエは俺に言った。

もし、この犯人がセフィロスなら。
そんな可能性を見た俺の考えを、ナマエは見抜いていたらしい。

…犯人がもうここにいない可能性もゼロじゃない。
それなのに戦闘能力に乏しいナマエと離れるのはもっと危険…か。

依頼を踏みにじるようなものだな。





「…わかった。ただ約束してくれ。絶対俺から離れないようにしろ」

「うん!」





ナマエが頷いたのを確認し、俺たちは階段を駆け上った。

駆け上り、その先を見ながら俺は思った。

そう…何が起きても、ナマエの事だけは。
それは…強く、決意をする様にも似ていた。





「…っ…」

「なんや…これ…」





闘技場内に足を踏み入れると、そこに広がる光景にナマエが息をのんだのが聞こえた。
ケット・シーも辺りを見渡し言葉を失ってるようだ。

血と、生きたえた多くの神羅兵。

煌びやかな外観とはまるで似つかない。
そこにあったのは…見るも無残な光景だった。





「…無駄だ。もう、何をしても遅い…」

「…っでも…」





ナマエの手に握られていたフェニックスの尾。
それを見て俺は首を振った。

辛そうに、ナマエは俯いた。

俺はそんなナマエを気にしながら、そっと倒れる神羅兵の傷を見た。





「銃で撃たれている…セフィロスは銃など使わない」





死因は銃弾。

セフィロスの武器はあの長い刀、正宗だ。
それ以外の武器を使ったなんて聞いたことがない。

ましてや刀ではなく銃など。

見たところ刃物による傷は無さそうだ。
こうなるとこの事件にセフィロスは無関係だと考えて良いだろう。

…なら、いったい何が。





「クラウド!ケット・シー!来て!」





その時、ナマエの呼ぶ声が聞こえた。

振り向けばナマエは闘技場の受付に倒れる係員の傍にいた。

手にはエクスポーション。
あふれ出る血を塞ごうと必死になっているようだった。

なぜならその係員には、まだ意識があった。





「おい、何があったんだ!」

「う…う…片腕が銃の男…」





俺は急いで駆け寄り、事を確かめようとした。
尋ねて返ってきたものは犯人の特徴。

片腕が銃。

それを聞いて頭を過った人物がひとりいた。





「…違うよ、バレットじゃない」

「あ、ああ…」





ナマエが静かな声で言った。

俺だって疑ったわけじゃない。
でもこの状況に真偽を知る材料は乏しすぎる。

だけどナマエはハッキリと言いきった。

…仲間を信頼している、と言うことなのだろうか。
それほど…仲間を信じていると、頼っていると言う事か…。

もし俺が疑われたとしても、ナマエは味方をしてくれるだろうか。

…一瞬、そんなことを考えた。
いや、そんなことを考えている場合じゃないんだが。





「そこまでだ!大人しくしろ!」





その時、背中の方で怒声を浴びせられた。
振り向けばそこには海パンの男が数名の警備員を引き連れ俺達を睨んでいた。

…か、海パン…。
その姿に一瞬戸惑ったが、その男の剣幕は凄まじいものだった。





「クラウドさん!園長のディオさんや!」

「園長…」





ケット・シーの説明でその男の正体を知った。

園長だというディオは間違いなく俺たちを睨みつけている。
その理由は恐らく…この光景を背後に考えれば想像するのは容易だった。





「お前らが殺ったのか!?」

「ち、違う!俺達じゃない!」





俺は否定しながらナマエを背に隠した。

もっとも、言葉だけでは誤解を解くことは出来そうにはない。

どうすればいい…?
どうすればこの状況を打破できる?

俺が必死に考えいると、傍にいたデブモーグリの体が跳ねた。





「はよ逃げな、やばいで!」

「お、おい!」





ケット・シーは跳ねながら奥のフロアに逃げて行った。

逃げたら疑われるんじゃないのか!?
そう思ったものの、どう足掻こうとこの状況ではそう結果は変わらなそうに見える。





「クソ…!ナマエ、逃げるぞ!」

「あっ…クラウド…!」





俺はナマエの手を掴み、ケット・シーを追いかけ奥のフロアに逃げ込んだ。

一か八かだ。
このゴールドソーサーに一番詳しいのはアイツだし、賭けてみるしかなかった。

だけどそんな淡い期待も、すぐに打ち砕かれることとなる。





「あ、あかん…」

「なに!?」





逃げ込んだ奥。

闘技場の向こうの扉から、何か機械が俺たちに迫ってきた。
それを見て後ずさるケット・シーの姿に挟み撃ちにされたことを知った。





「ここまでだな」

「待て、話を…」





追い詰められて、なんとか事情を話そうとするも、向こうは聞く耳など持ってはいない。
俺はナマエの手を掴んだまま後ずさりした。

ディオの合図で捕縛用の機械が俺達を囲み、どんどん迫ってくる。





「…あっ…!」

「ナマエ…!」





ナマエが捕まると手が離れ、さらに奥のフロアにナマエを連れていく。
見れば、ケット・シーも既に捕えられていた。

俺も、逃れることは叶わず…すぐに捕えられた。





「おい!少しはこっちの話を聞け!」

「聞く事はない。下で、罪を償うのだ!やれ!」





機械は俺たちを掴んだまま…フロアにぽっかりと開いた穴の中に飛び込んで行った。

下で罪を償う。
何があるのかはわからない…。

まさかいきなり死罪なんてことはないだろうが。

やっぱり…ナマエは逃がすべきだったか。
…ともかく、ナマエは何としても守らないと…。

ナマエは、ナマエの事は…。

穴に落とされながらも、俺はそんなことをひたすらに考えていた。



To be continued


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