Grip | ナノ



ごとごと揺れる、ロープウェイ。

窓の下に見えるのは黄色。砂漠である。
そこから視線を上げ、進んでく先にあるのは…カラフル。

飛んでいく色とりどりの風船。
それを照らすように煌くサーチライト。





「………。」





そんな煌びやかな景色に対し、ロープウェイの中は静かだった。

理由は先ほど通った集落にある。

コスタ・デル・ソルからセフィロスの情報を追い、たどり着いたこの地。
そこは魔晄炉の事故で神羅に焼かれた村の生き残りの人々築いた集落があった。

…つまり、バレットの故郷の話だ。

バレットの過去を聞いた面々はその空気を汲み、少し静かだった。

あたしはベンチに腰掛け、ぼんやりとライトの光を眺めていた。



…ゴールドソーサーだ。



そんなことを、心の中で呟きながら。





「うわ〜!楽しまなくっちゃ!」





ロープウェイが、デブモーグリの大きな口を抜けて辿りついた施設、ゴールドソーサー。
陽気な音楽と賑やかな光がその場の楽しそうな雰囲気を見事に作り上げている。

その空気にあわせるように、それぞれのアトラクションへの入り口を眺めながら、エアリスが笑顔を見せた。





「ね、バレットも元気出して!」

「……そんな気分にはなれねえ。俺の事は放っておいてくれ」

「そ〜ぉ?仕方ないね」





エアリスに声を掛けられても、俯いたままのバレット。

あまりのエアリスの賑やかさを気にしたティファが「ちょっと酷いんじゃない?」とエアリスとひそひそ話をするのが聞こえた。
「こういう時、変に気を使わない方がいいよ」「そうかな…」なんていう、そんな会話。

実際、バレットにとってはそれでいいことを知っていたあたしは特に気にすることもなくインフォメーションボードを見ていた。

バレットの事情を考えても、変に気を使って腫れ物に触るような事をしても仕方が無いだろうし。

…まあ、今目の前にあるゴールドソーサーという空間に意識を持っていかれていた…とも言う、かな…?

うわあうわあ…本当にゴールドソーサーだよ…!
…正に、そんな感じか。





「勝手にしろ!チャラチャラしやがってよ!俺達はセフィロスを追ってるんだぞ!それを忘れるんじゃねえ!」





すると、そんな怒鳴り声が響いてきた。
もちろん声の主はバレット。

何事も気にせず接するエアリスの「私達、遊んでくるね!」発言に爆発したようにひとり走っていってしまった。
流石に知っていたとはいえ、怒鳴り声にはビックリした。

でもそこで思い出したことがあった。
そうだ。うわあうわあ、とか内心はしゃいでる場合じゃない。





「…………。」





でも、そこでピタッと固まった。

…あたし、どうしよう…。

悩みの種は、2つの選択肢。
そのどちらかを選ぶかということだ。

ひとつは、ここにいる新しい仲間の存在。
ここではあの占い猫が仲間になる。

…会いたい。早く会ってみたい。
それが正直なあたしの感想だ。

じゃあもうひとつ。それは今出て行ったバレット。
そしてそれは…運搬船での光景を過ぎらせた。

ここにあるブースのひとつ、闘技場ではこの後…というよりもしかしたら今かもしれない。
今…多くの人が、血を見ているはず…。

あたしが行ったところで何が出来るわけじゃない。
…いや、というよりきっと何も出来ない。

出来たとして、何かしていいのかもわからない。
いや、きっとダメなんだろう。

だってそれ、運命を変えるって事だ。

現に、流れを変えたらコレルプリズンに行かなくなるかもしれない。
そうなるとバレットとダインは…。
それに今後の事を考えみてもバギーが手に入らなくなる…とか。いや、もっと先を考えれば、園長との面識が無くなってキーストーンにまで影響が及ぶかも…。

だけど…運搬船での血のにおいが頭にちらついた。





「ナマエー!なんか楽しそうなのあったー?」

「っユフィ…!」





そうこう色々考えていると、ユフィに名前を呼ばれた。
抱きついてきた彼女はニコニコと嬉しそうな顔をしている。
そしてあたしと一緒になってインフォメーションボードを覗き込んだ。

でもそんな楽天的な様に、眉をひそめてこっちを見ているクラウドがいた。





「おい、少しくらい羽目を外すのは構わないが情報収集もしてくれよ」

「あ、うん」

「はあ?!そんなのクラウドやればいいじゃん!」





クラウドにおとなしく頷いたあたしと、露骨に嫌な顔をしたユフィ。

いやまあ、その理由はわかる。
ここはゴールドソーサーだし、面倒なことは忘れて遊び倒したいって気持ちにもなる。

あたしだって、正直なところそうだ。
そもそも…あの7の世界の本当のゴールドソーサーだし…。





「勿論俺は情報収集するさ。なにも遊ぶななんて言ってないだろ」

「んなこと言ったって面倒だよ!興が削がれるじゃんか!」

「なに大袈裟こと言ってるんだ…」

「わかったよ!じゃあナマエ貸すから後は好きにして!ふたりでよろしく!」

「え、ええええええ?!」





ムキになるユフィとそれにいちいち答えるクラウドの攻防の末…なぜかあたしはグイッとユフィに背を押されてクラウドに差し出された。

え、あ、あれ?
わかったってなにが?





「ちょ、ちょっとユフィ!」

「じゃ!ガンバレ!」





そんな手頃な位置にいたからって!?

ユフィはスチャッと手を振り、あろう事か残っていたレッドXIIIをつれてどこかに行ってしまった。

ちなみにエアリスとティファは、ユフィとクラウドの口論に巻き込まれないうちに2人で遊びに行ってしまったらしい。酷いよ…!あたしも誘って欲しかった…!
あの2人のことだから、やることはしてくれると思うけど…。

そ、そんな…なんであたし置いてけぼり…!





「な、なにこれ…虐め…?何この押しつられた感じ…」

「押しつけられたんだろ」

「…だよね」





早い話、ナマエがやるからあたしは知らないって事ですか…。

まあ別に…情報を集めることくらいあたしは苦じゃないから別に構わないんだけど。
いつも助けて貰ってる分、クラウドの役には立ちたいとは思う…。





「まあいいか…戦闘できない分、こういうところで頑張ることにするよ」





そういえば…クラウドはきっと、このあとケット・シーに会うんだろうな。
といっても一緒に行くのだからあたしもなのだけど。

でもこうなると、また別に気になってくることがある。





「…じゃあ、行くか」

「うーん…」

「何だよ…その煮え切らない返事は」

「い、いや…あたしでいいかなって?」

「なにがだ?」

「回るの。…ここは普通さ…エアリスとか、ティファとか…」





何気なく口にした疑問。
クラウドの回る相手、あたしで良かったのだろうか。

なんか気にしてみると申し訳ない気分になる。

だけど、クラウドの返答はあっけらかんとしていた。





「別に誰でも変わらないだろ」

「なんっ…ど、鈍感…」

「なっ…」




だって普通はエアリスとかティファと歩いた方が楽しいじゃない…ゴールドソーサーなのだから。

それにエアリスとティファはクラウドのこと…。

だから何とも言えない顔をしていると、さっき鈍感呼ばわりされたのが気になったのか、クラウドは反論してきた。





「鈍感って何だ…別に、情報集めに行くのなんて誰でも良いだろ」

「いや、そういうことじゃなくて…」





なんだか話がかみ合わない。
やっぱこの人鈍感なんじゃないのか。

割と失礼なことを考えていると、クラウドはため息をついた。

そしてあたしの顔を見て、ふと思い出したように話を変えた。





「…ところで、さっき唸ってたみたいだけど、どうかしたのか?」

「えっ」





指摘されて気づいた。
あたし、そんなにわかりやすい顔してたんだろうか。

唸っていたというなら理由はひとつだろう。





「あ、うん…でも気にしないで。大したことないから」

「そうなのか?」

「うん。それより行こうよ、情報収集。ちゃんと手伝うし」





なんだか、何とも言えない気持ちだ。

でも、クラウドには何かと助けて貰ってるし…あたしに手伝わない理由はない。
それにクラウドといた方が…色んな意味で心強いような気がする。





「とりあえず…ワンダースクェアっていう所に行ってみないか。ゲームセンターのブースらしいから人もそれなりに居るだろうし、話も聞きやすいだろ?劇は鑑賞の邪魔するわけにはいかないし、アトラクションは列だろうしな」

「うん、そうだね」





ワンダースクェア…じゃあ、あの猫の登場か。

じゃあ彼を仲間にしたらすぐ、闘技場に行くように話そう。
そうしたら、もしかしたら間に合うかもしれない…。

それがあたしに出来る最善だと思った。
だって…これがあるべき道なのだから。

ただ…やっぱり、運搬船での血の色が、少し頭にちらついていた。










「ヘイ・ユー!暗〜い顔してますな〜!」





そんなあたしの気持ちなどまるでふっ飛ばすかのように聞こえてきた陽気な声。

ワンダースクェアにて、デブモーグリの大きなぬいぐるみとその上に乗っかる王冠と赤いマントの猫に迎えられた。

…おおお…。
本物だ…本物のケット・シーに会えた…!

なんとも単純なのは百も承知。
だけど、目の前にしたその愛らしい姿に思わず感動を覚えてしまった。





「とと…暗い顔や思たけど、案外そうでもなさそうやなあ…。お嬢さん、そんなにキラキラした目で見られると、なんやボク照れますわ」

「え!あ、いや、可愛いなあって思って…」

「ほんまですかー?どうもおおきに!しっかしお嬢さんもえらいべっぴんさんやなあ」

「へっ、あ、ありがとう…お世辞でも嬉しいよ」

「お世辞じゃあらへんで!」





猫は嬉しそうに笑った。

…すごいな、ぬいぐるみなのに表情豊か…。

手を伸ばして触れてみると、また嬉しそうに笑う。
なんだかとてもファンシーな光景だ。

でも凄く可愛い。

やっぱりメインキャラであるこの猫の登場は、あたしにとって感動するなという方が無理な話だった。





「…お前、なんなんだ」





その時、ため息をつきながらクラウドが入ってきた。
表情は呆れているというのが適当だろうか。





「あらら、すんません!ボクは占いマシーンです。名前はケット・シーや!」





その青い目に見られると、ケット・シーはぺこりと頭を下げて愛らしく名乗った。

…本当は神羅のスパイ、なのだけど。
よくよく考えればこの出会いも仕組まれているものなのだろう。

そんなこと、口に出すわけにはいかないけど。

ところで、クラウドの気を引いたのは彼の占いマシーンという肩書きだった。





「どうですか〜?みなさんの未来占うで〜。明るい未来、愉快な未来!あっ、悲惨な未来が出たら堪忍してや〜!」

「占うのは未来だけか?」

「バカにしたらあかんで!失せ物、失せ人何でもございや!」





任せろという具合にケット・シーは胸を張った。

クラウドは、セフィロスのことを聞くんだよね。確か。
良く考えるとクラウドって占いとか信じる方なのか。

なんだか少し意外なような。
いやでもそうでもないのかもしれない。





「なら、こいつのこと占ってもらえるか?」

「へ?」





するとクラウドは親指でくいっとあたしを指した。

え…あ、あたし…?
急に指されて少し固まった。





「え、クラウド?セフィロスのこと聞くんじゃないの?」

「ああ。それも勿論だけど、あんたについての情報はまったく言っていいほど無いだろ。ナマエの場合記憶の問題でもあるし、何がきっかけになるかはわからないしな」

「そんなの…あとでもよかったのに…」





正直、そんな発想まったく頭になかった。
そもそもはあたしが故郷のことを忘れてるっていう話が嘘だからっていうのもあるのかもしれないけど…。





「…ありがと、クラウド」

「いや、気にしなくていい」





そんなこと、考えてくれてたんだ…なんて、ちょっと思った。





「お嬢さんのことですな。任しといてください!」





了承したケット・シーは、デブモーグリの体を大きく揺らして占いを始めた。

でも、記憶どうこうっていうのは嘘でも元の世界に変える方法は探さなきゃならない。
確かにこれで何かヒントを得られる可能性があるなら。

そう考えて、あたしはクラウドの厚意に甘えておとなしく占いの結果を待った。





「さ、どうぞ!」

「ありがとう」





結果が書かれた紙を手渡された。

占いなんてまともにやって貰ったの初めてかもしれない。
少しドキドキしながら、あたしは結果を開いた。





「…あれ?」

「どうした?」




開いた結果。
見てみて、何かの間違いかと瞬きしてみた。

…でもやっぱり変わらない。

聞いてきてくれたクラウドに、あたしは紙を裏返して見せた。





「まっしろ」

「白?」





そこには何も書いていない。
ただ、真っ白が広がっているだけだった。

なにこれ、とケット・シーを見ると、彼は頭を掻いていた。





「あ、あれ、おかしいな…。なんでしょコレ」

「やあ、あたしに聞かれてもなあ…」

「壊れてるんじゃないのか?」

「そんなことあらへん!もっぺんやってみますわ!」

「あ、じゃあ次はセフィロスって人の居場所にして貰えるかな」





ムキになるように占いを再開しようとしたケット・シーにあたしは慌ててお願いした。

だって元々はセフィロスのこと占って貰うわけだし。
変に時間をとるのは気に掛かったのかもしれない。





「 …中吉。活発な運勢になります。周りの人の好意に甘えてひと頑張りしておくと夏以降にどっきりな予感 」

「お、おかしいでんな… もっぺんやりましょか 」





出てきた結果を読み上げたクラウドの冷たい視線に焦るようにケット・シーはまた体を揺らした。





「忘れ物に注意。ラッキーカラーは青?…ナマエ、行くぞ」

「え」

「まってーな!もっぺんやらせて!」





わたわたするケット・シーと呆れかえるクラウドの図はなかなか面白いものがある。

そういえばケット・シーの占いはこんな感じだった。
占いは当たるも八卦、当たらぬも八卦だなんて言うけれど、彼の占いの信憑性は結局のところはっきりしないんだよね。

ケット・シーにとっては泣きの一回。
最後の占いの結果をクラウドは受け取り、まさに彼の口癖通り興味のなさそうな顔でその紙を開いた。

でも、最後の結果はまともだったはず。





「何!?」





現に彼は、はっと目を見開いた。

確か…書いてあるのは【求めれば必ず会えます。しかし最も大切なものを失います】だったかな。





「クラウド、どうしたの?」





わかってはいるものの、あたしはクラウドに聞いた。
クラウドはそれに応えて結果を読み上げてくれた。





「求めれば必ず会えます。しかし、大切な人が見えなくなるでしょう」

「え…?」





クラウドは困惑していた。あたしもしていた。
でもあたしの困惑はクラウドとは違う意味だろうと思う。

大切な人が…見えなくなる?
最も大切なものを失うじゃなくて?

な、なんだろう…それ…。

それも気になる。
でも、もっと重要なのはこっちだろうか。

…確実に文章は変わっていた。





「ええんか、悪いんかようわからんなぁ…こんな占い初めてですわ。気になりますな〜。ほな、行きましょか」





意味は違えど、考え込むあたしとクラウドをよそにあっけらかんとそう言ったケット・シー。
…よくよく見てみると、なかなか強引だよね。リーブさん。





「占い屋ケット・シーとしてはこんな占い不本意なんです。きっちり見届けんと気持ちが収まらん。みなさんと一緒に行かせてもらいますわ!」

「…ナマエ、どう思う」

「え…、あたしに聞くの?」

「どないに言われてもついてきます!」





ぐいぐいっとクラウドに詰め寄るケット・シー。
クラウドはデブモーグリの巨体に圧倒され、若干顔が引きつってる。

彼は表情の起伏が少ないから、ちょっと珍しい。

こうして占いロボット・ケット・シーは仲間になった。
…というかついて来るようになったの方が…しっくりは来るんだけどね。



To be continued


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