Grip | ナノ



「久しぶりだな…神羅兵の服…」





神羅ジュノン支部。
俺はその一室で、懐かしい神羅兵の服装に袖を通していた。

事の始まりは、アンダージュノンで聞いたパレードの音楽。
昨夜助けた少女プリシラの話によると、その音はルーファウスの歓迎式典のものなのだという。

ルーファウスがここに来たということは、恐らくヤツは海を超えるつもりだという結論に達する。
つまりそれがさす事実は、セフィロスも海の向こうなのではないかということ。
しかし、神羅にばれずに上の街に行くのはまず不可能だ。

そこで提案されたのがイルカのジャンプを利用し、上の町に面する柱に飛び移るというものだった。
しかし柱の下には高圧電流が流れている。

危険極まりないというのに、その実験体にされたのは俺だった。

言い出しはバレット。
ティファやエアリスは心なしかそっけなかった気がする。
ユフィやレッドXIIIは然程興味なさそうに。

比較的まともな考えを持っている思うナマエにさえ「クラウド頑張れー」と、のほほんとした表情で言われてしまったのだから、もう打つ手は無い。





「…はあ」





上着を通したところでため息が出た。

…うまくいったから良い物の、失敗したらどうしてくれるつもりだったんだ、あいつら。
というより俺を何だと思っているのだろう。

なんとなく、理不尽さを覚えた。

ところで何故神羅の制服など着ているのかというと、それは単純に俺が神羅の兵士だと勘違いをされたからだ。
有無も言わさず「早く着替えろ」とロッカールームに押し込まれてしまったという話。

しかし神羅ビルの一件で顔は割れているし、神羅の兵士にまぎれるというのは好都合だった。
だから俺は、こうして大人しく着替えることを決めた。





《大丈夫。大丈夫。クラウドなら出来るよー》





ふと、穏やかな顔してそんなことを言っていたナマエを思い出した。

本当に…なにを根拠に大丈夫と言っているのか、と思わされる。

俺の中での彼女の印象は、変わった奴というのが正直なところだ。

いや、比較的に見て物の考え方はまともだ。
気を使いすぎなところもあるが、よく気がつく。

つまりは、良い奴なのはわかるのだ。

ただ、人が良すぎるというか、妙に平和ボケしてるというか…純真すぎるというか、天然…なのか?

…格好良い、とか…。
何故そう本人を目の前に平然と言ってのけられるのだろう…というか、な。





「変な奴…だよな、やっぱり」





カチャ…とベルトを締めながら、俺はそう呟いた。

ただ…故郷に関しての記憶が曖昧だとか、マテリアがまったく使えないだとか、いくつか気になる点はある。

昨日も…よく敵の技の弱点なんか…。
まあこの点に関しては洞察力があるといえば、それまでなのだが。

でも…今のところ、それを詮索しようという気持ちは俺の中には無かった。

もし何かあっとして、言いたくないのなら、言わなくてもいい。
人には誰にだって隠したいことはあるものだろう。

それに…記憶に関しては俺も人のことを言えない。
俺だって、あの時ニブルヘイムであった出来事の記憶は曖昧だから。

疑心を、まったく掛けなかったわけじゃない。
でもきっと…そんな考えのほうが強かった。

そう、不思議と…信頼に値する何かを、ナマエという空気は持っていた。

それがあったからこそ、得体の知れなかったナマエに、エアリスもティファも助けの手を伸ばすことをしたのだろう。





「こりゃ〜!いつまでかかっちょるか!さっさと出て来い!」





その時、俺を神羅兵と勘違いした隊長の怒鳴り声が聞こえた。





「ああ、今出ます」





最後に残ったマスクを取り出しながら適当に答える。

…パレード、もう始まってるみたいだし確かに急いだほうがいいかもな。
そう思い、俺はマスクを抱えてドアに手を掛けた。





「…神羅の制服、か」





手を掛けた際に見えた、己の着込む青い制服。
体を動かすたびに肌に触れるその生地に、なんとなく懐かしい気分を覚えた。

本当、随分久しぶりだ…。





「初めて袖を通したとき誇らしく思ったっけ」





懐かしい気持ちが疼く。
ニブルヘイムを飛び出して、神羅の制服を着たとき…ああ、俺はミッドガルに来たんだって気がした。

でも、そんなの最初のうちだけだ。





「いつからだったか…こいつを着るのがたまらなく嫌になったのは」





いつのまにか、そんな誇らしい気持ちはどこかに消えた。

求めるのは…もっと強い存在。
強く焦がれ、憧れていたソルジャーの存在。


…まあ、もう、そんなのどうでもいいけどな。

だって、俺はちゃんとソルジャーになった。
いや…そもそもそれ以前に、もう神羅とは何の関係も無いのだから本当にどうでも良い話だ。

懐古するのはこのくらいにして、本当にそろそろ出よう。





「…行こう」





マスクをかぶり、俺は扉を開いた。



To be continued


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