此処にいるだけで

(※『もし…』っぽいです)





「あ。クラサメ先生ー!」





放課後。
見つけた姿に手を振りながら駆け寄った。

ぶんぶん、と大きく振った効果はあっただろうか。
先生はすぐにあたしの姿を見つけてくれた。





「探しちゃいましたよ、クラサメ先生」

「そうか」

「はい!」





基本無愛想な先生は、いつもの通り無表情。

けれどあたしは対照的だ。
これでもか、というくらい顔を綻ばせて頷いた。

でもこれは別に狙っているわけでは無く、自然とこうなってしまうだけである。

なぜって単純。
あたしはクラサメ先生のことが大好きだからだ。





「、あれ?」





とりあえず、あたしはクラサメ先生を眼中に入れ過ぎなのだと思う。
そこまで来てやっと、クラサメ先生の奥にいたクラスメイトの存在に気がついた。





「サイスと、セブン?」

「!」





彼女たちの名前を口に出せば、なぜかクラサメ先生はピクッと反応した。
顔はマスクで隠れてて表情は読み取り図らいけどわかる。





「先生?」





不思議に思って顔を見上げた。
すると先生に肩を掴まれ、なぜか後ろを向かせられた。

え?、え?

わけがわからなくて首を回してまた見上げれば、先生はグイッとそのままあたしの肩を押した。





「ナマエ、いくぞ」

「へ?」

「…今は取り込み中だ。そっとしておいてやれ」

「は、はあ…」





取り込み中?
サイスとセブンが?

いまいち状況がつかめていないまま、言われるがままに歩きだすとクラサメ先生は「それでいい」とでも言いたげに頷いた。

だけど後ろからは「あああああっ!!!違ううぅぅー!!!」というサイスの叫びが聞こえてきた。

……あれはいったい何だったのだろうか。
よくわからないが、先生が良いというのだから良いだろう。

あたしたちはそのまま、テラスの移動した。






「はい!今日のぶんです!」





テラスのベンチに座り、持っていた包みを先生に差し出した。

その中身はタッパに詰めた夕ご飯。
まあ、簡単なおかずである。

お昼はお弁当、3時にはお菓子、そして夕食。
クラサメ先生にコレを届けることは、あたしの日課と化していた。





「……毎日毎日、いいと言っているだろう」

「だって、先生今忙しいんでしょう?やること一杯なんですよね?ご飯作る暇とかないでしょう?」

「そんなことは…、」

「嘘です。カヅサさんとエミナ先生に聞きましたもん」

「…………。」





そこまで言えば、クラサメ先生は黙りこんだ。
やりました、勝利です。

でもこれは本当の話。
あたしたちのクラス、0組はちょっとした特殊クラスだ。
その担任とくれば、やることは沢山あるのだと思う。

あたしがその負担を少しでも減らすお手伝いが出来るなら、そんなの願ったりかなったりだ。





「気にしないでください。好きで作ってるんですから。趣味ですよ、趣味。それともお口に合いませんか?」

「…そんなことは言っていないが」

「良かった。じゃあやっぱり気にしないでください」





そう笑って、あたしはタッパを先生に押し付けた。

そして「うーん」と体を伸ばし、ベンチから立ち上がった。
テラスから見渡せる景色。それは広い大地だ。

その景色を見ながら、あたしは呟いた。





「…クラサメ先生。私、最近変な夢見るんです」

「……夢?」

「はい」





ここのところ、よく見る夢。

その夢の中には、皆が出てくる。
クラスのみんな。クラサメ先生。カヅサさんにエミナさん。





「毎日って、変わり映えなくてつまらないですよね。毎日同じことの繰り返し。勉強して部活して」

「そういうものだ。だが、それがいつか懐かしく感じる時が来る」





クラサメ先生がそう言うと、すごく説得力がある。
この人は、多分そう感じているんだろうな…そう思えるから。

でも、わかってる。

だからあたしは頷いた。





「わかってます。勉強して、部活して、皆とくだらないこと話して、…誰かに恋をして」





そう言いながら見つめた先は、クラサメ先生。

その意味、先生は気付いてるのだろうか?
別に気づいてくれなくてもいいけれど…。





「そういう日常って、実は凄く幸せなことなんだろうなって思うんですよ。…その夢見ると」

「…随分と深い夢を見ているのだな」

「…どうなんでしょう?」





深い、のかどうかはわからない。

ただ…、夢とは思えないほどリアルに感じる。
周りの人も、その関係も、なにもかも似ているのだ。

ただ…ひとつだけ。
ひとつだけ大きな違いがある。





「…戦争してるんです、あたし。いや、あたしたち」

「戦争?」

「ちなみに先生はあたしたちの指揮隊長なんですよ?」

「私が隊長、か」

「はい。隊長からの指揮を受けて、武器を手にとって、目の前にいる敵を倒していく。血なまぐさくて、嫌な夢です」





酷い時には、泣いている。

小高い丘の上で景色を見ている時、誰かのお墓の前で佇んでいる時。
そのふたつの情景の夢を見ると、必ずと言っていいほど起きて泣いている。
朝から自分で引くくらい。

夢の中で、あたしは悲しんでなどいないのに。
ただ…ぽっかりとした喪失感に襲われ、それが妙に悲しくて泣くのだ。





「あ、ごめんなさい。こんな話されても困りますよね?」





我に返った。

なんて暗い話をしてるんだ。
しかも他人の夢の話なんて聞いても面白みの欠片も無いだろうに。





「気にすることない。担任として生徒の悩みを聞くのは当然のことだ」

「…クラサメ先生」





本当に、良い先生だと思う。

厳しくて無愛想に見えるけど、きちんと向き合ってくれる。
クラサメ先生を担任に持つ事が出来た0組は、きっと運が良いのだろう。





「じゃあ、生徒の楽しみ奪わないでください。あたし、料理、本当に好きで作ってますから」

「じゃあ、の意味がまったく見えないが」

「細かいことは言いっこなしです!」





へへ、と笑った。

たぶん、あたしは実感したいのだと思う。

誰の為に作っているのか。
その時間と、交わす会話と、タッパが空になる事。





「クラサメ先生」

「なんだ?」





掛ければ返ってくる声。

貴方がここにいること。
ここに存在している、そういうことを。



END


高校生と先生、というよりは「もし…」って感じですかね。
ていうか「もし…」です。(笑)

あの映像、なんで隊長喋らんの…!
エミナでさえ喋ってるのに…!
あとなんでカヅサおらんの…!

でも0組はみんな可愛い。

後書きじゃないですね。(笑)

本編はやっぱ戦争なんで暗いイメージなので、こっちだともう少し積極的でもいいかな…と思ったり。
線は引いちゃってますが。

あんまりそういう感じ出せて無いけど…。(汗)
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