本音は本望です

「あ、アーロンだ!」





トートバックを肩に掛け直し、曲がった角。
すると見えた、見慣れた後姿。

声を掛ければ大正解。





「ナマエか」





振り返った男がひとり。
サングラスの奥で、あたしの姿を見つけて捉える。

ヒールのパンプスでちょっと走りづらいけれど、あたしはタタッと駆け寄った。





「今帰り?今日は早いね」

「ああ。今日は外に出ていたからな。そのまま帰って来た」

「直帰ってやつですね!」

「お前はいつもこの時間か」

「うん。寄り道しなければ大体ね」





並んで歩くと、影も並んだ。

なんだかアーロンとこんな風に道を歩くなんて新鮮だ。
いつもはもう少し遅いし。

これは…なんだか珍しくてちょっと面白いかもしれない。





「でもね、今日はレポート書かなきゃなんだよねー。だっるーい」

「レポート?」

「そう。期日、明日まで」

「……何故ぎりぎりまでやらんのだ、お前は」

「追いつめられないとやる気出ないんですよ!ふん!」





なんか哀れというか、呆れというか…そんな目で見られた。

なんじゃい、その目は。
だからむしろ開き直ってやった。

ええ、自覚はしてますよ。
夏休みの宿題とか、お尻に火が着くタイプですけど何か!

いやまあ…忘れてたとも言うけどね…。





「大丈夫!遅くても2時間くらいで終わらせる!」

「……レポートを、か?」

「なにさ!その顔!大丈夫だよ!5限だし!」

「…………。」

「おいちょっと!その目やめろ!おっさん!アダッ!?」





ガツン!と頭に鈍い音が響いた。

つうう〜っ…!
本当に凶暴です、このおじさんは…。

すぐ暴力に訴えてくるよ、本当…。
頭を押さえてじろっと睨んだ。





「暴力反対!なにすんの!」

「フン」





フンじゃないし!
何鼻で笑ってんだ!こんちきしょうめ!

頭を擦りながら、はあっと溜め息ついた。





「一応ねえ、資料は借りて来たんだよ…。まだあんまり読んでないけど…」

「それで2時間とはどういうことだ…」

「そんなもんじゃないの…?」

「……………。」

「ねえ、お願いだからその目やめてくれないかな!?」





凄く凄く胸にグサッとくるというか…。

うん、早い話、すごくショックなのね。
だから止めてほしい。本当に。

そんな思いを知ってか知らずか、アーロンは次の溜め息を最後にその目をやめてくれた。





「……まったく、うちに寄れ。夕飯くらいなら出してやる」

「え!」





ぴん、と背筋が伸びた気がした。

ちなみに、あたしは大学に入ってから独り暮らしをしている。
だから夕食作るのだけは面倒だな〜とは思ってた。

レポートやってたら遅くなっちゃうし。
最悪カップラーメンでもいいかな、…というか。





「即席麺辺りで済ましかねんからな。お前は」

「うーわー…、エスパー?」

「…図星か」





馬鹿者、と頭を軽く引っ叩かれた。
今度は痛く無かったけども…。





「うーん…、じゃあお言葉に甘えちゃおうかなあ」

「味の保証はせんがな」

「とか言いつつ、美味しいよね。アーロンの料理。あたし好き」

「…そうか」

「うん。照れた?」

「お前はもう少し種類を増やせんものか」

「ほっといてよ!ていうかアーロンが悪いんじゃん!何でもほいほい作っちゃうから!」

「人のせいにするな」





あ、あれ?
にししー、と優勢に立ってたはずなのにいつの間にか逆転されてる。
そんでもって物凄いハートをグッサリ傷つけられた気がする…!

お料理ヘビーローテーションで悪いか!うわああああ!!

………なんか、アーロンの方が色んな意味で上手なのだと知らしめられた気がする…。

でもこれではやっぱり悔しいのも事実…。





「ふ、フン。いいもんね!アーロンが全部やってくれればそれで解決だ!」

「…人を扱き使う気満々か」

「光栄でしょ?」

「その自信はどこから出てくる」

「さあねー」





トントン、とパンプスを鳴らして少しだけ駆け出す。
アーロンを追い越して、ニッと笑いながらくるっと振り返った。

すると、アーロンも小さく笑みを溢していた。





「まあ、他に貰い手も無さそうだしな」

「さら〜っと酷いこと言うね?」





少しだけ頬をわざとらしくふくらませて。
でも緩んでくるのは仕方ない。





「別にそれで十分ですけどね〜」



END


大学生と社会人。

アーロンは料理上手そう…。
ティーダの面倒見てたくらいだからそれなりには出来そうかなっていう。
そもそも10年ザナルで独り暮らしだし。

あと最後の方についてですが、連載の《光の河》ていう回で「貰い手があると良いがな」って台詞を書いたので。
本編じゃ絶対言わせられない事を書いてみた次第です。(笑)
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