先に待つ楽しみがあれば

「うーん…うーん…」

「…さっきから何を唸っている」





シャープペン握りしめて、頭を抱えて、うんうん唸る。

すると目の前にコトン、とペットボトルが置かれた。
それも勿論だけど、それよりも落ちてきた声。

あたしはそっちに反応してガバッと顔を上げた。





「カイン!!」





思いっきりぱあっ、て顔をしたと思う。
そりゃもう自分ではっきりわかるくらい。

だけどこれって仕方ない。
だって大好きな大好きなカインの声だったから。





「わ、ジュース買って来てくれたの!?」

「それで良かったか」

「もち!流石カイン!あたしの好みわかってるねー!」

「腐れ縁、だからな」





そう言いながらカインはあたしの向かいの椅子を引き、そこに腰掛けた。

カインはあたしのお兄さん的存在であり、大好きな人。
同時に小中高大全て一緒という超腐れ縁!
まあ小中はともかく高校からはあたしが追いかけただけとも言うけれど。

とにかく、同じ場所に通えるというだけで、あたしにとっては最大の幸せなのです。

でも今は、そんな幸せを打ち砕く…虚しい現実にぶち当たっているというか、なんというか…。





「少し休憩したらどうだ」

「うー…、そうしたいところなんだけど…」





ぐでん…とテーブルに項垂れた。

学生ラウンジ。
今、あたしはそこで猛勉強の真っ最中。

時期は期末1週間前。
大体の人が憂鬱な気分になる時期ではありますが、あたくしも叫び出したい衝動に駆られておりました。





「なんで持ち込みなしなんだーーーー!!!」

「…叫ぶな」





ていうか叫んだ。
カインにバシッと頭叩かれたけど…。

ううう…。
もう泣きたい気分だ…。

今広げているルーズリーフと参考書。
この講義の先生は鬼か何かじゃないかと思う。

これを全て頭に叩き込まなきゃならないなんて何の拷問ですか!





「その教授は毎回そうだぞ」

「ええ…。もっと早く教えてほしかったよカイン…!」

「聞かれなかったのでな」





そう言いながら、カインは涼しい顔してコーヒーを飲んだ。

ああ、絵になるよ、カイン。
格好いいよ、カイン。





「カイン、好き…!」

「…いきなりなんだ」

「率直な気持ちです」

「…いつもいつも本当に飽きんな」





そう言いながら、カインは相変わらずの涼しい顔。
完全に慣れてますって感じ。

まあ、毎日何年も言われ続ければそうもなるだろう。

あたしも自分の「好き」に重みが無いのは充分自覚している。
別にそれでいいんだけどね。どんな形でも好きが伝われば。

本当に、本当の意味での好き、だけどね。





「うーん…面倒だなあ…。暗記ってだるいよね…」

「歌詞などはすぐ覚える癖にな」

「そりゃ好きな事の方がすらすら入ってくるよ」





だから次の瞬間には、すぐにこんな風に切り替わる。
あたしはズラズラ並ぶ、見てるだけで頭の痛くなる文章に再び目を戻した。





「その教授は持ち込みこそ許可されんが、傾向は毎年変わらんぞ」

「へ?」





その時、ぱさ…、と参考書の上に数枚のプリントが広がった。
それはカインがクリアファイルから取り出したモノ。

あたしはそれを手にとってまじまじと眺めた。





「え、これ…」

「過去問だ。俺も去年、その講義を取っていた」

「え!」

「少しは役に立つかと思ってな」

「カイン……!」





きらきらきらきら!
たぶん、そんな感じだと思う。あたしの目!

あああー!!
もう、どうしようこの感じ!

これはやっぱあーするしかないよね!





「やっぱりカイン好きーーーーーーっ!!!」

「だから叫ぶなと言っているだろう!」





ガタガタン!と大きな音を立てて叫んだら、また怒られた。

ううー。
でも言わせていただきたい!
カインが素敵すぎてもう叫びださずにはいられないんだよ…!
カインが悪いんだよ、カインが!!!

この衝動、エッジあたりならわかってくれそうなんだけどな!

まあいい!今はこの過去問さまです!





「過去問…!うわあ、うわあ、ありがとう…!!」

「構わん。その代わり、朗報を期待している」

「はーい!」





なんか俄然とやる気出た。

つくづくあたしはカイン馬鹿なのだと思う。
なんていうか…こう一番の原動力というか。

カインがいれば何でもできる…!みたいな。

思えばいつだってそう。
高校受験も大学受験も。

カインと一緒に通いたいっていう気持ちが一番強かった。





「ねー、カイン。テスト頑張るから、終わったらご褒美頂戴!」

「ご褒美?」

「うん!」





にへら〜と陽気に笑った。

うーん、我ながらナイスアイディア。
先に楽しみがあれば、もっと頑張れるってなもんよ!

OKくれるまで頑張りますとも!
粘って粘って粘ってやります!





「どっか遊びに行くとか!ね!」

「ああ、そうだな」

「うっ…?」





そう、だな…?





「うええええッ!?」

「……なんだ」





ビックリしてまた奇声が出てしまった。

今度はバシッてされなかったけど、今度は今度でじとっとした怪訝な視線。
いやん、ショック…!ってキモイな、あたし。

…って、え…?

今カイン、OKくれた…?





「い、いいの?」

「お前が言ってきたのだろう?」

「そ、そうだけど…、いやあなんかアッサリだなって…いつもより」





いつもは「行こうよ行こうよー!!」って大騒ぎした上でのOKだ。
結局いつもOKくれるカインだけど、こんなにあっさりは初めてなんじゃないだろうか。

少し澄ますと、とくり、心臓が音を立てていた。
心地いい、温かいリズム。

こ、これは…ちょっと…嬉しいかも、しれない…。





「え、えへへ…」





とっても間抜けな顔してる。
でも頬が緩んだ。

だけどこれって、仕方ないよね?

嬉しいものは嬉しいんです!

そう思ってたら、ぽふっ…と優しい手が頭に触れた。





「どこに行きたいか、考えておけ」




END


大学生同士。
うーん、なんか7以前のシリーズの現パロだと個人的に少し変な感じが…!
カインがルーズリーフとかアレ…?っていうか。(笑)

そんな感じでぐるんぐるんと書きましたが、楽しんでもらえてると良いなあ…。

にしても本編の方でエッジが出てきてないのに、名前だけだけど出しちゃったと言う。(笑)

あとなんかヒロインアホっぽいですが、お城の魔道士だし頭悪い設定では無いんですけどね。
っていうどうでもいい裏設定。←
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