チャイムのあとで

ゆるやかな風が吹く。
ふわりとゆれた、金色の糸。

バイクに跨り、携帯を見つめている男の人。

過ぎゆく女の子たちが振り返る。
ひそひそ、と楽しそうに笑いながら。

かっこいいね。誰だろう。誰か待ってるのかな?

そんな声が、耳に届く。

あたしは慌てて走ってた。
噂されてる、彼の元へ。





「クラウド!」





たたたたっ、とローファー鳴らして猛ダッシュ!
名前を叫べば、手の中で見つめていた携帯から顔を上げた。





「ナマエ」





綺麗な瞳があたしを映した。

そんな彼の元へ、あたしはとにかくダッシュする。
目の前に辿りつくと、その瞬間にガクンと肩を落とした。





「はあっ、はっ…クラ…、ウド…げほっ…」

「……大丈夫か?」

「だ、だいじょぶ…」





教室から階段を駆け下り、校門まで走ってきたあたしは絶賛酷い息切れ中。

膝に手を置き、肩を上下してぜーぜーと荒い呼吸を繰り返す。
そんなあたしを見てクラウドは気遣いをくれた。

ああ、ありがとうクラウド…。
あたしはそれだけで幸せです。ええ。





「…ふう…でも、どうしたの急に」





落ち着くために、すー、はーっ!と大きく深呼吸した後、ポケットから携帯を取り出しながら聞いた。

あたしが走ってきたのは、帰りのホームルーム中に届いたメールにあった。


―――今、校門の前にいる。


そんな、クラウドからの短いメール。

それを目にしたあたしは、「さようならー」とほぼ同時に教室を飛び出した。

廊下ですれ違ったユフィに「あれー?ナマエー?」とか言われた気がするけど、脇目もくれずダッシュした。

なんで!?どうして!?やばい注目されちゃう!
会いたい!会いたい!会いたい!!

もう、色々感情ごちゃ混ぜ状態。
思い出してもあれは酷い。

そして今に至る。





「ビックリしたよー。急に校門にいるとか言うんだもん。授業は?」

「急に休講になったんだ」

「あ、そうなの?いいなー、大学生。高校も休講とかあればいーのに」

「時間的にナマエが学校終わる時間と同じくらいだったからな。だから来てみたんだ」

「ふーん。そっか」





なるほど。納得した。

クラウドの一週間の時間割は把握してる。
ホームルームの先生の長ったらしー話の間も、あークラウドは今頃ラクって言ってた授業かー、とか考えてたし。

あたしの頭は90%クラウドで埋め尽くされてるもの!
数値が変にリアルですけどなにか!

だからとりあえず、思いもよらずにクラウドに会えて嬉しい。
ああ、やばい。嬉しい嬉しい。超嬉しいよー。

そんな感じであたしの頭が小躍りをはじめ出した頃、急にクラウドはハッと何かに気がついた様な顔をした。





「あ、悪い…」

「え?なにが?」





そして、謝られた。
少し困った様な表情を浮かべるクラウド。

あたしはそれにきょとん、とした。





「いや…先約とか、用事あったかなって」

「え?ああ…」

「急に来られても困るよな…。ごめん」





先に確認してから来るべきだった…。
そう言って、しゅん…とするクラウド。

その様子に、あたしはもうなんかメーターが振り切れそうだった。
え?なんの?そんなの察して!

あたしはすぐに首を振った。





「平気だよ。先約なんかないよ!むしろ暇すぎてユフィ誘ってカラオケでも行こうかな〜とか思ってたくらいだし」

「ユフィは?」

「誘う前だから大丈夫。ていうか廊下ですれ違った気がするけど、クラウドからメールきたからそのまま走ってきちゃった」

「無視するなって後で抗議のメールくるんじゃないか?」

「はは。かもねー」





あははー、と呑気に笑った。

ごめんな、ユフィ。
あとで謝る。今は許して。

でもユフィのことだから「どーせ、クラウドだろ?」とかバレてるかもしれない。

あいつ、なんか鋭いからな。





「………。」

「ん?なに、クラウド」





そんな時、クラウドの視線がある一点を見つめていることに気がついた。

ちょっと下の方。
あたしのスカートあたり。

え。なに。ゴミとかついてる!?
やだそんなの!女子としてどうなの!?

そう思って慌てて凝視した。





「なあ…、スカート短くないか?」

「へ?」





しかし、口を開いたクラウドから出てきた言葉はそんなのだった。
…心なしか、眉間にしわを寄せているように見えるのは気のせいだろうか。

指摘され、あたしは再びスカートを凝視した。

まあ、そりゃ長くはないだろうが。普通だと思う。





「そう、かな?皆こんなもんだよ?ユフィだってこんくらいだし」

「………。」





なぜ無言…。

普通だと思うんですが…。
あんまり長すぎてもおかしいし…。





「ねー、クラウド。そんなことより早くどっか行こうよ!」





スカートの話は投げやって、あたしはクラウドを促した。

ていうか、さっきからコレ、ずっと気になってた。
さっきからずーっとずーっとむずむずしてた。

だってね、凄い今注目されてるんだよ!

相変わらず女の子たちはクラウド見てきゃっきゃっしてるんだよ!
気付いてますか!?クラウドさん!!





「あ、ああ。どこか行きたいところあるか?」

「どこでもいい!とりあえずここから離れたい!」

「はあ…?」





訝しい顔をするクラウド。
ああもう!そんな顔も大好きだけど!…って違うよ馬鹿!!

だってクラウドは格好いいんだよ!
超格好いい顔してるんだよ!整っちゃってるんだよ!

ユフィが「ヘタレじゃん」とか言ってたけど、黙らせたよ!
そこもクラウドの魅力だもん!って何か話ずれてるよね!?

とにかく!
きらきらだよ!王子様だよ!マイヒーローだよ!
バイクとか凶器なんだよ!本当!





「とりあえず、乗るか?」

「うん!乗る!」





とりあえず走り出してくれ!
そんな思いでクラウドの愛車フェンリルの後ろに跨った。





「掴まらないと落ちるぞ」

「ああ…、うん…」





でもここで一旦我に返った。
ていうか、これは…いつもなんだけど…。

跨って、そのあと。
クラウドの腰にしがみつく時、いつもなんか緊張する。

後ろ乗るのなんてもう何回目かわかんないけど、毎回ドキドキする。
何度やっても慣れる気がしない。






「ナマエ?」

「う、うん」





意を決して手を伸ばす。
前でクロスさせ、ぎゅうっとしがみ付いて、頬を背中に押し付けた。

その瞬間、グルル…と狼が唸りを上げた。

あああああ…!!
どきどきするー…!!!





「無いのか?行きたいところ」

「えっ、うーん、クラウドは?」

「いや、特には。ナマエに合わせようと思ってた」

「そっか」





走り出したバイク。

流れる風が、熱を冷ましてくれる。
でもその熱を感じることが、すっごく幸せ…だと思う。





「じゃあ、ケーキ食べたいな!ケーキバイキング!」

「ケーキ?あんたも好きだな」

「うん。好き!クラウド、嫌だ?」

「そんなことない」





抱きついた背中越しに交わす会話が幸せでたまらない。





「でも本当に…どこでもいいよ」





寄せた頬に、瞼を閉じて噛みしめる。

クラウド、クラウド。
会いに来てくれてありがとう。

本当に迷惑なんかじゃない。
それだけで本当にすっごく嬉しいんだよ。

真っ先に来てくれたんでしょ?
こんなに嬉しいこと、あるわけないじゃん。





「クラウドと一緒なら、どこでもいいよ」




END


高校生主人公と大学生クラウド。
これは純粋に本編の年齢に合わせてみました。

もうちょっと言うと、両方3年生。
被らないふたり。(笑)
大学入れば被るか。1年だけ。

年齢で考えると…ユフィは1年生かな。レッドも出したかったけど、それは無理があるか…と。(笑)
ティファは大学2年、エアリス4年ってとこかしら?
あとはふつーに働いてますもんね。←
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