「アーロン」

「やっと来たか」

「ごめん、待たせたね」





星の輝く静かな夜。
飛空艇の甲板で何やら想いを馳せている様な赤い背中に声を掛ければ、彼は振り向いた。





「お呼びだしなんてどうしたの?」

「いや、渡したい物があってな」

「え、なになに?プレゼント?」





その言葉を聞いて、ニコニコ笑って手を出してみた。

すると、その上に渡された何か。
それはコロン…、と掌に転がった。





「指輪?」





光を放つ、小さな輪。
それは指輪だった。

指で持って眺めてみる。
そしてちょっと顔をしかめた。

いや、貰ったもの見て何事だって話ではあるけれど。
でもちゃんと理由があった。





「うーん…、ちょっと大きい?」

「当たり前だ。親指につけろ」

「へ?親指?」





あっさり言われた。

はあ…親指…。
そう言われてみれば、確かに親指ならピッタリかもしれない。

アーロンは一度渡した指輪を私の手から取ると、私の左手を裏返して親指にはめてくれた。
…おお、ピッタリだ。





「…左の親指は意思を持ち、切り開いて現実を変える、目標に達するという意味合いがあるそうだ」

「へえ…」





今度は星にかざして、光る親指を眺めた。

そんな意味があったとは初耳だ。
しかもその意味は、今の私達には見事に当てはまる。

自分の意思で現実を変える。目標に達する…。

シンを倒して、ジェクトさんを解放して…。
死の螺旋を…終わらせるんだ。





「…そっか。なんか、心強いね」

「もう、終わりは近いからな。恐らくジェクトとも戦う事になるだろう…。思うことも多いかと思ってな」

「うん…。ちょっと、不安に思ってる部分もあったよ。…もしかして、気付いてた?」

「お前はわかりやすい」

「ははっ…」





そっか。気付いてくれていたのか。
それを知ったら、なんだか嬉しくなった。





「最後の大勝負、だもんね?」

「…そうだな」





紡ぐ未来は、もうない。

これは…最後のプレゼントだ。
指輪っていうと…浮かぶのはやっぱりそう言う意味だけど。
でもそれはもう、意味が無いから。

そういう意味も、あるんだよね?

共に願うのは…未練の断ち切り。
最後まで、貴方と意思を貫ければ…本望だ。





「じゃあ…絶対乗り越えようね?」

「ああ」




END

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