青に溺れた集落



「ティファー!来たよー!」

「ナマエ…」





次の日の朝、あたしたちは朝一でミディールを訪れた。

あたしは真っ先に診療所に入って、ティファに向かってぎゅっと抱きついた。

ティファは、だいぶ疲れた顔をしていた。
だから、こっちまで暗い顔したら余計に滅入ると思って、思いっきり笑って見せた。





「ふふ、何か…ナマエの顔見たら、ちょっと元気出たよ」

「やだなー、おだてたって何もでないよ!」

「おいおい、俺達もいるんだがな」





シドに後ろから頭を小突かれた。
ティファはそれを見てクスッと笑った。

今回はハイウインドはクルーの人達に任せて、全員でミディールに降りた。
クラウドとティファの事が気になってるのは全員だったからだ。






「…調子、どう?」





さて…こっからは真面目に。
あたしが尋ねると、ティファにゆっくりティファは目線をクラウドに向け、小さく首を横に振った。





「ダメだわ……。クラウド…全然良くならないの」

「……そっか」





ティファの視線を追って、クラウドを映す。
そこにいるのはやっぱりうつろな彼。

言葉通り、前回の状態からクラウドには何の変化は見られなかった。

…クラウド……。
胸の中でそっと名前を呟く。

皆もクラウドの状態にはショックがあるみたいだ。
少し周りの空気が重くなってしまう。

だからあたしは何とか場を和ませようと言葉を探してた。

でも…思いつく前に、事態が一変した。





「キャッ!?」

「うわ!?」





ぐらりっ
途端に足場が揺れた。

ティファは膝をつく、シドやあたしは壁に手をついた。
頑張って踏ん張って無いと立ってられないくらいの大きい揺れ。

なにこれ、地震…?!

急に訪れたその揺れに関係しているのかどうなのか…。
頭を抱え、怯える様に言葉を絞り出したのは、うつろな状態の彼だった。





「……奴らが……奴らが……来る!!」





言葉を発したクラウド。
頭を抱えて、怯えて呻く。





「何だってえ、クラウド!?」

「ま、まさか…これって……!?」





シドがクラウドに詰め寄り、ティファの顔が真っ青になる。

奴ら?!奴らって何だ…!
でも…クラウドの今の状態と…この場所のことを考えると…。

クラウドが此処に流れ着いた理由は、この場所でライフストリームが噴き出すから。
つまり…この揺れってもしかして…その前兆とか?

…この揺れじゃ相当な感じなんじゃ…。

これだけで顔面蒼白だよ。
だけどこれだけに留まらず、更に問題はやってくる。

響いてきたのは、とてつもなく大きなうめき声だった。





「な、なんの鳴き声だよ!?コレ!?」

「尋常じゃない大きさだよ…!まさかウェポン!?」





ユフィが喚いて、レッドXIIIが唸る。

確かにこれ…竜巻の迷宮で聞いたのに似てる…。

この状態でウェポンまで…!?

馬鹿じゃないのか…!!いや誰がとか言われても困るけど、この状況が!

こんなとこで暴れられたらヤバい。
この混乱の中でライフストリームにまで噴き出されたら…またクラウドと離れちゃうかもしれない。

なら…、あがいてみるしかない。
あたしはソードに触れ、出口に向かって走り出した。





「あ!ナマエさん!どこに行くんや!」

「外!こんなとこであんな大きいのに暴れられたらやばいじゃん!追い払う!」

「ちょ!ナマエさん!?」





ソードを抜いて、ケット・シーの制止を無視して外に駆け出そうとした。
でも…その前に一度、ティファに振り返った。





「ティファ!外は任せといて!クラウドのこと頼んだよ!」

「え!?ナマエ!?」





ティファの声を背に今度こそ外に飛び出す。

そして空を見上げると、そこにはウェポンが浮いていた。

ああ…ホントにいたよ、コイツ…。
本当、迷惑極まりない話!

でも、なんとかしなきゃ。

キッ、とソードを構える。
すると傍で、巨大な手裏剣と銃弾が飛んだ。





「なーに、ひとりで突っ走ってんのさ」

「…無茶をするな」

「ユフィ、ヴィンセント…」





ユフィとヴィンセントだけじゃない。
ティファとクラウドを除いて、皆も出てきてくれたらしい。





「馬鹿か!一人じゃ無謀に決まってんだろーが!」

「でっ…!」





バシッと…シドには頭叩かれたけど…。
でも、確かにひとりじゃ無謀だし、有難い。

とにかく、こいつを何とかしなくちゃ。

ぱちん、とはめたのは雷のマテリア。

ずっとずーっと愛用してきたんだから。
すっかりあたしに馴染んでる。





「さあ…あたしのこと怒らせたら怖いんだよ?目にモノ見せてあげよーじゃん!」







皆が少しずつ、叩いてくれている。
その間に、あたしはマテリアにありったけの魔力を込めていった。

さあ…怒りの稲妻いっちゃうよ!





「サンダガッ!!!」





勢いよく放った雷の上級魔法。
きらめいたそれは強く降り注いで、ウェポンの巨体を貫いた。

何度かの物理攻撃で傷つけられた体に上級の雷。
流石に効いたのか、ウェポンは空に飛び上がって逃げていく。




「ちくしょーめ!逃げるってのかよ!」

「あいつ、いつか絶対ぶっ飛ばしてやるからなあ!」





シドが怒鳴ると、それに便乗したようにユフィが得意のしゅしゅしゅをした。
一方で戦いに集中してたから気付かなかったけど、揺れの方も収まってた。





「何とかライフストリームも収まったようですな」





収まった揺れに、ふー…と息をつくぬいぐるみ。
でもやれやれと額を拭う仕草を見せた直後、ぼてっとデブモーグリの上から転げ落ちた。

その理由は、ぐわん…とグラついた足元だ。





「…ちょ、もしかしてコレって…」





あたしは黒猫を拾い上げて、デブモーグリの上に戻してあげた。
でも今度はあたしの体がよたって、なんとか踏ん張った。

また、揺れてる…?まさか再開した…?





「ち、まさか……!!こ、こりゃ、やべえ…!ストリーム本流の吹き上げか!?さっきまでの奴なんか比べもんにならねえくらいどでかいのが来るぞ!!」





シドが叫んだ。

その通り、揺れが再開した。
しかもさっきのなんか軽く上回る酷さのもの。





「ダメだ!逃げろッ……!!」





皆に向かってハイウインドに走れと指示を出すシド。

でもあたしは首を振った。





「待ってシド!クラウドとティファが残ってる!」

「馬鹿野郎!!人の事心配してる場合か!?いつストリームが吹き出すか…!」

「でも…!」





あの状態じゃ…クラウドは自力で逃げだせない…。
ティファひとりじゃかなりの負担だ…。

ふたりが…巻き込まれたら…?

浮かんだ考えに、さ…と、血の気が引いた気がした。

そう思ったら、体が勝手に動いてた。





「…っクラウド!ティファ!」

「馬鹿!ナマエ!!」





ふたりがいる診療所に向かって走り出した。

クラウドとティファを置いてなんか行けない!
だってふたりは、ふたりがいなくなったら…あたし…!

大好きなふたり。
クラウドもティファも、大切で、大事で。

ふたりがいなくなる。
ふたりまでいなくなったら…!

ゾッとして、怖くなって。

でもシドに腕を掴まれて、止められてしまった。





「放してシド!嫌だ!助けに行く!」





そう言ってシドの手を振り払おうとした。

でもその時、シドはあたしの肩を掴んで一度自分に向き合わせると、ばちん!とあたしの頬を叩いた。

じわっ、とした痛みにハッとさせられた。





「冷静になれってんだよ!くそ…!時間がねえ!あいつらが大事なら今は逃げろ!話はそれからだ!」

「あ…」




ぐっ、と掴まれ引きずられる。

シド…、でも…あたし…。
クラウド…ティファ…。

あたしは振り向いて、叫んだ。





「いやあああああ!!クラウドッ!!ティファあああ!!」





喉が痛くなるほどの叫び。

避難して、そのあと見えた光景は…。
噴き出したライフストリームに崩れていく地面。

淡い色に包まれて溺れた、ミディールの村だった。



To be continued


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