初恋ヒーロー



5年前。
13歳だったあたしは、その時ヒーローに出逢った。




「…………ない」




青ざめた。
ぽんぽん、とポケットに触れる。ポケットはぺったんこだった。

ない。ない。…ない!!!

ぽんぽんぽんぽん、いくら触っても無いもんは無い。

…財布落とした………!




「財布ぅう〜!!!」




いやああっ!
あの中にはあたしの全財産がー!
懸命にコツコツコツコツ…貯めたあたしの1000ギルー!13歳にとっての1000ギルをなめるなよー!

きょときょと、と下を見ながら歩いていく。隅から隅まで通った道を。

だから前なんて見ていなかったんだ。
それが仇となった。


ガンッ!




「ふげっ!?」

「うわっ」




額にガツーンと何かがヒット!…と言うかぶつかった。「ふげっ」て言っちゃった。可愛くない…。誰かにぶつかったんだろうか。自分以外の声もしたな。男の人の声だった。でも「うわっ」だった。あたしの「ふげっ」より可愛いじゃん。

とか色々考えていたが、実際一番頭に過っていたのはコレだった。

超痛いッ…!!!

ガンッていったよ。すごい音したよ。
当たりどころ変だったんだ!
だってメチャクチャ痛いもん!

額を押さえてうずくまる。




「だ、大丈夫か?」

「………うううう」




頭をさすりながら、そっと顔を上げる。

そこにいたのは心配そうにあたしを見下ろす神羅の兵士さんだった。
いや、マスクで顔見えんけども。

しかし、なるほど。あの装備の胸当てに頭をぶっけたんだな!痛いわけだ。だって堅そうだもん!ちきしょうめ!
心のなかで毒を吐く。

しかしこんなことしてる場合じゃない。
だって誰かに拾われちゃったら大変だよ!あたしの財布!

きょときょと。
辺りを見渡す。

すると兵士さん、声をかけてきた。




「……悪い。赤くなってるな」

「え?……別に平気です。痛いけど」

「やっぱ痛いんだな…」

「大丈夫ですよ。死にやしません」

「大雑把だな…」

「うーんうーん…」




兵士さんどっか行かないのか。

いや、あたし的には財布第一。ぶっちゃけ返事も適当に返してた。

もう行ってくれて構わないんだが。

しかし兵士さんは尋ねてきた。




「………何か、探しているのか?」

「あ!兵士さん、この辺で財布見ませんでした?」

「財布?落としたのか?」

「はい。今そーさくちゅーなんです」

「捜索中…」




もしかしたら見かけてたりして!
はたまた拾ってたりして!

なんて淡い期待を抱いて兵士さんに尋ねてみる。

拾ってて中身無かったらナマエちゃんスペシャルパンチ!喰らわしちゃうけどね。




「財布…見てないな」

「……そっですか。かれこれもう1時間くらい探してんですけど。もーネコババされちゃったかなあ…。はあ…」

「…………。」




溜め息をついた。

見つかっても中身、きっとないだろうな。
1000ギル抜かれてポイッ、だ。

すると兵士さん、突然「あっ」と声をあげた。

あたしは首をかしげる。

兵士さんは言った。




「そういえば…最近よく、物が無くなるって噂があったような」

「え?」

「誰かが話してるのを聞いただけだけど、鳥が巣に持ち帰ってるって」

「と、鳥!?」




すると聞こえたバサバサッと言う羽ばたき。

ある建物の屋根の隙間から鳥が飛び出した。
ま、まさか…泥棒は鳥さん…?

すると兵士さん、その鳥が飛び出した所の真下に駆け寄った。
そして近くにちょうど良く建っていた街灯に上り始める。

って、ええ!?




「えええ!ちょ、兵士さん!?」

「うーん…暗くて良く見えないな」




兵士さんは街灯によじ登ったまま、鳥さん不在の巣に手を伸ばす。
そしてゴソゴソ、と何かを探してる。

あたしはその様子を下から心配して見ていた。

すると兵士さんは何かをグッ、と引っ張り出した。

兵士さんのグローブをした手に握られていたモノ。
それには見覚えがあった。




「あー!それ!あたしの財布!」

「これか?…って、うわあ!?」

「あっ」




兵士さん、なんと手を滑らせた。

そこからはもう想像通りだ。

ドシーン!!!
大きな音が響いた。

あたしは思わず目を瞑った。
そしてそっと目を開けると、そこに映っていたのは「いたたた…」と、お尻をさすってる兵士さん。




「だ、だいじょーぶですか?」

「あ、ああ…なんとか。…これ」

「あ…」




兵士さんが差し出してくれたのは、あたしの財布。

直ぐ様確認。中身もばっちり1000ギルあったよ!やったよ!いやっふー!
と、小躍りする。

……とと、これじゃあ、あたし馬鹿丸出しじゃんか。

慌ててお礼を言おうとしゃがんで兵士さんに向き合った。

するとそんな時、兵士さんは「ふう…」と言いながら、あの神羅のマスクを取って息を吐いた。

その時初めて見えた、金色の髪と緑色の瞳。
それは、幼いあたしの目に深く焼き付いた。

初めて目が合った。




「あ、あの、ありがとうございました!」

「いや…まあ、ぶつかったお詫び。見付かって良かったな」

「はいっ!」




ぱあっ、と自然と笑顔が溢れた。

いい人だなあ。この人。
なんだかヒーローみたいだ。

こーゆーのなんて言うんだっけ?
よくニュースで聞く言葉。

えーと……。
しばらく悩んでいると、ピン!ときた。




「あ!英雄だ!」

「……えい、ゆう?」




ぱん!っと手を叩きながら言う。
いやあスッキリスッキリ!

なんてひとりで喜んでると、兵士さんはよくわからない、って言いたげな顔をしてた。

ニュースでよく聞く名前は―――英雄セフィロス。

会ったこと無いし、セフィロスのことはよく知らない。
ただ名前だけなら知らない人はいないと思う。

現に兵士さんもこう尋ねてきた。



「英雄って…セフィロスか?」

「ううん。んー、あたしはセフィロスが英雄って言われても正直ピンとこないけど…。どんな人か知らないし。あたしから見たら、兵士のおにーさんの方がよっぽど英雄だよ」

「えっ…」




ニーッ、と笑ってそう言うと、おにーさんは照れたように、少し頬を赤くした。




「あっ…そろそろ行かないと、休憩終わる…」




すると、おにーさんはマスクを抱えて立ち上がった。

あたしは慌てておにーさんに言った。




「おにーさん!本当にありがとうございました!」




この日、あたしには、あたしだけの英雄が出来た。


金色の髪。

緑色の綺麗な瞳。


忘れない。
唯一無二の、あたしの英雄。



To be continued


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