カエルのおうじさま



ぴょこん、ぴょこん。
小さな影がひとつ、後ろからついてくる。





「………。」

「………。」





足を止めて振り返った。
見下ろすと、そこには小さな緑色。

あたしはしゃがんでじっと見た。
互いに無言で見つめ合う。

…ああ、どうしたもんかね…コレは。





「うーん…困ったねえ、クラウド」





苦笑しながらそう言えば、ゲコ、と一鳴き。

ゴンガガの森にて。
クラウドがカエルさんになってしまいました。





「とりあえず早くゴンガガで合流しないとね」





バギーで訪れたゴンガガ村。

村で情報とアイテムの収集してくれてるエアリスとティファ。
近くにあるメルトダウン魔晄炉を見に行ったクラウドとあたし。

タークスと遭遇したりとか色々あったけど、無事に魔晄炉の様子を見てきたあたしたちは村に向かって歩いてた。

でもその途中、事件は起きた。





《ゲコッ!?》

《わー!?クラウドー!?》





ゴンガガの森。
ここはカエルさんこと…タッチミーの住処だった。

まったく、どっから出てきたのか。
背後から突如現れたタッチミー。

あーゆーのまさに奇襲攻撃って言うんだね!いや感心してる場合ではない。

後ろから突進という名のカエルパンチを喰らったクラウドは見事煙に包まれて…あらいやだ。カエルさんに大変身〜!…てなわけだ。

…突進されたの自分じゃなくて良かった…。
正直ちょっとそう思ってゴメンね、クラウド。





「あたしもクラウドも治療とか変身のマテリア持ってなかったもんねー」

「………。」

「乙女のキッスも無いしね」





どうせ魔晄炉見て帰ってくるだけだしー、と軽く考えてた為、あたしたちはポーションを数個持ったくらいで森に足を踏み入れてしまった。いやあたしが回復のマテリアも持ってたし…。

まさか、タッチミーの住処だとは誰が思おうか。





「クラウド疲れない?手に乗せてもいいよ?あたしカエルとか平気だし」





カエルと人間じゃ歩幅がだいぶ違う。

カエルさんが後ろついて来てくれたり話が通じるとか何かなかなか面白いんだけど面白がってる場合じゃねーよ!って話だもんね。

気遣うように、ぴょこんぴょこん跳ねるクラウドへと手を差し伸べれば、クラウドはぷいっとそっぽを向いてしまった。
…と言っても別に拗ねてるわけじゃ無くて、遠慮してるらしい。





「遠慮なんかしなくていーのに」





クラウドは乗ってくる気無さそうだから手を引っ込めて立ちあがった。

まあ、クラウドを抱っこ…とか考えたらそりゃ確かにアレだけど。
でも今クラウド、カエルだし。

…いや、まあ普通だったら身長的にそんなこと出来ないけどさ。
けどうん、クラウド、カエルだし。

無理強いする気はないから、いいってんならいいんだけど。





「よし!じゃあ戦闘なら任せろクラウド!お守りしちゃうよ、ボス!!」





どん!と胸を叩いたら、クラウドはまた一鳴きした。

でも別に「任せたぞ」とかそんな感じな返事では無いっぽい。
幸先不安だ、とかだったら泣きますよ。

けどまあ、いつもは頼もしいクラウドと言えど、カエルになったらぺチッていう可愛らしいパンチしか出来ない。実際、あたしまでカエルにされたら悲惨なこの上ないし。

ていうか、ふたりしてカエルで生涯閉じるとか全然笑えない。





「よーし、じゃあはりきっていこーか」





少なからず緊張感は感じてる。
とりあえずクラウドは守らなきゃね。

きゅっと剣を握って気合を入れ直し、あたしは道を歩きだした。






「んー、でもさ、何でカエル直すアイテム、乙女のキッスなのかな?」





相変わらず、クラウドはぴょこんぴょこんと跳ねている。

はたから見たら独り言だろうか?
それともカエルに話しかける痛い子か?

…どっちもヤダな、それ。

でも、会話が無いってのも暇なもの。

歩いていたところで、あたしは抱いたふとした疑問を投げかけた。
ぴょこんぴょこん、跳ねるクラウドの視線があたしに合わせて上を向く。

…でもやっぱ、なんか楽しいなコレ。
カエルと意思疎通できちゃってますよ、あたし…。

いや、戻った時に睨まれちゃうから口には出さないけど。

とりあえず、振ってみたのはトード解除薬の乙女のキッスの話題だ。





「ティファに聞いたら、そーゆーお話があるって聞いたんだけど」

「………。」





ティファ曰く…魔法でカエルにされてしまった王子様がいて、お姫様のキスで魔法が解けるというお話らしい。
傍にいたエアリスも「その通りだ」と頷いていた。

それは、よくあるお伽話の中の一つ。

でもあたしは正直そこに少しの疑問を抱いていた。





「そのカエルのお話は知ってるんだけどさ、でもあたしが知ってるのとは少し違うんだよね」





なにがだ、とでも言う様にクラウド鳴いた。…たぶん。

いや、その話ならあたしも知ってはいる。
魔法を掛けられたのも、王子様が元に戻るのも同じ。

問題はその方法だ。





「あたしが聞いたのはさ、キスじゃなくて投げつけられて元に戻る…なんだよね」





魔法を掛けられた王子様は、お姫様にブン投げられて魔法が解ける。
小さな頃、あたしが聞いたのはそんな話だった。

キスとかそんな可愛らしいもんとは、かなりの勢いで遠い。

…アレ?もしかしてあたしの周りがなんか可笑しかったとか…?
いやだ、そんなの信じないよ。





「…ん?クラウド?」





その時、クラウドが若干ながら後ずさったように見えた。

心なしか、怯えているような…?

ああ。…ははーん。
そこで勘づいたあたしは、ふざけてニヤっと笑った。





「投げつけて、みる?」





にこっと笑ってそう言うと、凄い勢いで首を横に振られた。

おお、カエルって首振るとか出来るんだね!
え?論点違うって?まあ中身はクラウドなんですけど。

でもそんなに怯える事もないのにね。





「冗談だって。投げるわけないじゃん!まあ、クラウドが可能性に賭けたいってなら話は別だけどさ」





そう言うと、また首を振られた。

…うーん。あたしそんな嫌らしい笑い方したんだろうか。
お願いだからやめてくれ、って言われてる気がする。たぶん。





「あはは、大丈夫だってばー。クラウドにそんなことしないよ。ナマエちゃんはクラウドさんの従順な部下ですもん!」





そうだ。クラウドにそんなことするわけがない。
親愛なるボスにそんなことしません!

レノとかだったらともかくだけどね。

うん、あの赤髪スーツ野郎だったら「うおりゃああああ!」だよ。
いっつもいっつも人のことおちょくりおって…あんにゃろう!日ごろの恨みは怖いのよ!





「うーん。でも何でキスだったり投げつけだったりするのかな?地域で違うとか?」

「………。」





そこで、疑問が戻った。

首を傾げながらクラウドにも聞いてみる。
…返事は謎だけど。





「ミッドガルだと、投げつけると戻るで伝わってるとか?ティファはニブルヘイム育ちだからそっちの方だとキスなのかな?ということは、クラウドもそっちで聞いてた?」

「………。」

「あー…でも、エアリスはスラム育ちだって言ってたしなあ…。え、やだ。本当にあたしの周りだけ?!」

「……………。」





あたしの周りだけ投げつける!?
なんだあたしの周り物騒か!

こりゃ戻ったらユフィとかレッドXIIIにも聞いてみよう。
それでもキスって言われたら凹みそうだなあ…。

ていうことはやっぱキスが有力なのかな。

アイテムだって『乙女のキッス』だし。

……と、言う事は…だ。





「ちゅーしたら戻ったりしてね」

「……!」





そう言ったらカエルクラウドに変化があった。
いや、正確にはピクッと動いたように見えた気がした。





「それで戻ったら画期的だよね。ていうか乙女のキッスいらないじゃんね!」





そうだよ!いらんよ!乙女のキッス!
じゃあなんであるんだよ!乙女のキッス!
存在意義はいかに!?





「…あれ?クラウド、何で固まってるの?」





ピクッ、と反応したきり動かないクラウド。
彼はあたしを見たまま固まってる。

………何故。





「あ。もしかして何か考えてるの?そりゃクラウドだって誰彼構わずするのは嫌だよね」

「………………。」





そりゃねえ、クラウドだって好きな人じゃなきゃ抵抗あるよね。うん。

あたしは絶対嫌だよ。
コルネオの件…ていうかアイツは誰でも特にかもだけど、とにかくアイツの時に悟ったね、あたしは!

うん…、そうだ。
…あたしの場合なら…うん、クラウドがいいなあ。
ていうかクラウド以外なんて想像したくないなあ…。

……いいじゃないか!妄想するのは自由だろ!
誰にも迷惑はかけて無い!あたしの勝手だ馬鹿やろー!

…まあ、そんな暴走脳ミソは落ち着かせて…。





「でもここで固まらなくても。どーせ試しようは無いんだし」





うんうん。そうだ。
そんなとこ考えたって、意味はない。

そう、試しようがないのだから。





「乙女探してる暇あったら合流した方が早いもんねえ」

「………………。」





エアリスかティファがいれば話は繋がるけど。
あ、ユフィもああ見えて結構可愛いとこあるし。

いや、いてもしないだろうが。





「まあ、ともかく早く戻ろ。カエル状態嬉しくないもんね」

「…………。」





ちょいちょい、と固まってるクラウドに手招きして、あたしはまた歩き出した。

さあさあ、早く戻ろうね。
クラウドだって雑談なんかより早く帰りたがってるはずだもんね。










「……………。」

「なに、クラウド?」

「いや…、」





あれから、無事エアリスとティファと合流。
補充されていた乙女のキッスで無事にクラウドは元の姿に戻る事が叶った。

うーん、なんでコレでもとに戻るのかも不思議なもんだよね。

バギーに戻って乙女のキッスをまじまじ手にしてると、クラウドが何か物言いたげな顔をしてるのに気付いた。

あたしは首を傾げる。





「どしたの?」

「………なんでもない」

「うん?」





クラウドは前に向き直って、バギーのハンドルを握った。
あたしは道具袋に乙女のキッスをしまい、クラウドの顔を覗いた。





「クラウドー?どうしたのってばー」

「…何でもないって」

「えー?」

「や、本当にいいから…、…気にしなくていい」





結局、クラウドは教えてくれませんでした。



END


あの童話、投げつけるが本来の話らしいですね。
てゆーか私がちっちゃい頃に読んだ絵本は投げつけるだった故の疑問。

逆にキスするっての見たこと無い。
嫌がられて投げつけられるんでしょ?

余談、クラウドがカエルになると私は喜ぶ。←
クラウドはカエルになるの嫌いらしいが。(笑)




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