何気ない夏の日



咥えた棒アイス。
ひんやり甘くておいしい。

そうして空いた手でパラパラと紙を分けていく。

そんな時、カチャリと扉の開く音がした。





「…ただいま」

「ん、あ、クラウド、おかえりー」





棒を持って、口を自由にする。

朝から配達に出ていたクラウドが戻ってきた。
あたしはひらひら〜と棒アイスを振って座ったままお出迎えした。





「…いいもの食べてるな」

「うん。美味いよ。まだ冷蔵庫にあるからクラウドも食べれば?」

「ああ…。あとで貰う。あんたは…依頼内容の整理か」

「うん。とりあえず着日指定あるの日付別にわけてるよ。これ終わったら伝票も整理するね」

「助かる」

「んふふ、いえいえー。これも部下の務めです」

「…ふう」

「ていうかすっごい汗だねー。外暑かった?」

「…ああ。シャワー浴びてくる」

「いってらっさーい」





帰ってきたクラウドは汗だくだった。

額に雫が滴って、いつもよりファスナーを広めに空けて。
ううん、目の保養をありがとう!なんてちょっと思っちゃったの内緒だ。

クラウドは荷物だけ置くと、シャワーを浴びに再び部屋を出ていく。

あたしはそんなクラウドを見送って、依頼整理の再開。

実はこういうこつこつ事務作業って嫌いじゃない。

今日はモンスター退治とかの依頼も無いし、こんな風に用事のない日はストライフ・デリバリーサービスの事務仕事に充てる事も多かった。
ていうか今だって普通にあたしクラウドの部下してるつもりだしね。





「よし…と」





しばらくまとめて、すっきりした。
よしよし、これで一段落。

そうすると、またカチャンと扉の開く音がした。





「終わったのか」

「ん、粗方は。クラウド、さっぱりしたー?」

「ああ…」





タオルで頭を拭きながら戻ってきたクラウド。

うーん、お風呂上り姿もいいっすね!!

あたしの脳内は相変わらず絶好調です。
いやいや仕方ないって、クラウドが格好良すぎるのが悪い!

頭を拭きながらデスクの方にやってきて、あたしがさっきまとめた依頼を確認してるクラウド。

隣に来てくれたその顔を見上げて、あたしはまた目の保養でほんわ〜と小さな幸せに浸ってた。





「とりあえず、今のところ急ぎの依頼は無いな。着日指定も、わりと期間があるものが多いか」

「うん。だねー。いいんじゃない、あんま炎天下の中走り回る羽目にならなくて」

「…まあな」





クラウドはそう頷きながら、部屋の隅に置いたソファに腰を下ろす。
あたしは今整理した依頼と伝票を重ねてまとめて、棚の中に入れた。





「ナマエ」

「ん?」





すると、手が空いたところで名前を呼ばれた。
振り返るとクラウドはトントン…と自分の座るソファの隣を叩いてる。

およ。お呼びだ。
それだけで嬉しいのはもう惚れた弱みだよね、ほんと。

あたしはそれに素直に従い、ぽふっとクラウドの隣に腰を下ろした。

その瞬間、がばっとクラウドが抱き着いてきた。





「わ、と!クラウド、冷たいよー」

「…拭いてくれ」

「わは、甘えただー!まあ、喜んで甘やかしちゃうけど!」





多分でれっと笑った。
わかるわかる。自分でもめっちゃ締まりのない顔してるだろうなって。

だってさ、こんな風に甘えてくれる、そんな姿を見られるのはあたしの特権なわけだよ!

あたしは綺麗な金髪に掛かるタオルに手を伸ばして、わしゃわしゃと水気を拭きとっていった。





「よっし、こんなもん?」





毛先に滴らないくらいには水分を吸い取れた。

ふわっ、とクラウドの頭に触れたまま。
至近距離でニコリと笑う。

するとゆっくり、クラウドの顔が近づいてきた。





「んっ…」





押し当てられた唇。
お風呂上がりだからか、ちょっと柔らかくて。
…あ、ほんのりシャンプーのにおい。

すると、背中に回った手にぎゅっと力がこもって、少し抱き抱えられるみたいにソファに寝かされた。




「…ナマエ」




熱っぽい目。
見下ろされてる。

ちょっと、くらくらする…。




「…まだ、明るいよ…」

「…ダメか?」





ああ、ほんと、くらくらする…。

あたしは手を伸ばした。
そしてきゅうっとクラウドの首に腕を回して抱き寄せる。

それは何気ない、夏の日のこと。



END




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