それはかけがえのないもの



「あっ、ユフィー!」





見慣れた景色の赤い橋の向こう。
ふたつの人影が見える。

こちらに笑顔で大きく手を振る女と、その隣で真逆の無愛想な表情で立っている男。





「ナマエ!クラウド!」





あたしはそのふたりの名前を呼んで手を振り返す。
それは、かつて共に旅をした仲間。

今日はナマエとクラウドのふたりをウータイ旅行に招いた日だった。





「よ、久しぶりー。長旅ご苦労!」

「うん、久しぶり!この度はご招待頂きまして有り難く存じます〜」

「ふふふー、苦しゅうないぞー」

「ははーっ」

「…あんたたち、楽しそうだな」





久々だけど、変わらぬいつものテンション。
顔を合わせてナマエとふざけてたら、クラウドからつまらない突っ込みが飛んできた。

まったく、相変わらずノリの悪い男め。

だけどナマエが「えへへっ」と笑えば、それを見て簡単に顔を綻ばせる。
わっかりやすいったらありゃしない。

そんな様子に、あたしは呆れの意味も込めて鼻で軽く笑った。





「んー、ウータイ久々!あれ、なんか露店出てるね。小間物屋さん?へー、ちょっと見てきてもいい?」

「ああ」

「あー、結構カワイイのあるよ。あたしもわりとおススメ」

「ほんと?じゃあちょっと見て来るね!」





この数日だけ出している小間物の露店。
それを見つけたナマエはウキウキとした顔で覗きに行った。

その背中を見送り、残ったあたしとクラウド。
ナマエが品物を見始めたあたりで、あたしはチラッとクラウドを見上げた。





「クラウド。今日の旅館、あっちだから。多分行けばすぐわかるよ」

「ああ。わかった」

「結構いい旅館なんだからねー。口利いてあげたユフィちゃんに感謝しなよねー」

「ああ、感謝してるよ。ありがとう、ユフィ」

「ふふん。よろしい」





クラウドに礼を言われるのはまあわりと気分いいよね。
だからあたしはちょっと得意気に笑った。

でも本当に、今日ナマエたちが泊まるのに勧めた旅館は胸を張ってオススメ出来る。

部屋も料理もかなりいい感じ。
折角来るなら楽しんで欲しいし、だから少し話をつけてみたのだ。

まあそんなわけで、ちょーっとくらいからかってもバチは当たらないと思うわけよ。

ナマエはまだ露店に夢中。
あたしはクラウドを見てにやりと笑った。





「あー、そうそう、部屋に露天風呂とかついてんだよー?あーあ、今夜はお楽しみってやつー?」

「…お前な」

「あー。折角口利いてあげたのにそう言う顔するー?部屋別々にすんぞ」

「…なんでそうなる」

「あ、それともー、ナマエだけうちに招待しようかなあ。クラウドは高級旅館、贅沢にひとりで満喫〜って」

「待て」

「こっちは久々にゆっくり女子トーク。いいじゃん、それ!おー、楽しそうだしそうしちゃおっかな!」

「…やめろ。ナマエならノリかねない…」





クラウドは頭を抱えた。

勿論そんなの冗談に決まってるじゃない。
ていうかナマエだってクラウドほったらかしになんてしないでしょ。

こうやってクラウドがナマエを溺愛してる様子は見ていて楽しいようで、でも同時に相変わらずだわーって胸やけ起こしそうな板挟みだわ。

まあ、こっちも久々に会えて話したいのは事実だけどさ。
だから夕食は一緒に食べようって話してる。





「ま、でも少しはナマエ借りるからね」

「ああ…」

「あたしは自分がいっちば〜ん♪」

「…だろうな。好き勝手された覚えしかない」

「しっつれいな。んー、まあでもクラウドとナマエだったらナマエの味方するかな」

「…皆それ言うよな。ティファもよくそう言う」

「あったりまえじゃん。ま、ナマエもからかう方があたしは好きだけど〜。ていうかクラウドだってあたしとナマエならナマエの味方するくせに」

「そんなの当然だろ」

「うっわ、腹立つわー」





ゆるーいそんな会話。
そうこうしてると、ナマエもこちらに戻ってきた。

手の中ではきらりと何かが光ってる。
どうやらひとつ小間物を買ったらしい。





「おまたせー」

「ああ、おかえりー」

「何か買ったのか?」

「うん!じゃーん!かんざし!綺麗じゃないこれ?」





戻ってきたナマエがあたしたちに見せたのは、キラキラと光る飾りのついたかんざしだった。
まあ、デザインは確かに可愛い。綺麗ってのは同意だった。





「へー、そんなのあったの。いいじゃん」

「ね!ユフィ、あとで付け方教えて」

「わかんないのに買ったわけ?」

「いいじゃん別に!ユフィに聞けばいいやって」

「フーン、あたし安くないんだけど?」

「金とるの!?」





ぎょっとしたナマエ。
クラウドも本当がめついな…みたいな顔で見てくる。

ふーんだ。

ま、でもふたりとこうやって過ごす時間、悪くないや。
それはあたしの、紛れもない本音だった。



END




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -