カウンターに並んで



トトトト…というグラスに液体を注ぐ音。
それが終わったと同時に、カラン…という氷の音が響く。

並んだふたつのグラス。
それを持つのはあたしとクラウド。

カウンターの隣に座ったあたしたちは顔を合わせて互いに自然と微笑んだ。





「では、クラウドに乾杯〜」





あたしがそう口にすれば、ふたつのグラスを軽く持ち上げられる。
そしてそれぞれがグラスに口付け、その一口を味わった。

グラスをカウンターに置けば、目が合う。

ああ、もう…視線が交わればやっぱり頬が緩んでしまう。
でもきっとそれでいい。

あたしは頬を緩ませたまま、彼に祝いの言葉を向けた。





「お誕生日、おめでとう。クラウド」

「ああ、ありがとう、ナマエ」





時計の針は、まだ0時を回ったばかり。
これで今年も一番におめでとうを言えたのはあたしだ。
そんな事実に幸福感を得て、なんだか心が満ち足りた感じがした。





「うーん、たまにはこんな風にしっとりとお酒を飲むのも良いね」

「そうだな」

「ふふふっ、なんかオトナ〜って感じ!」

「その発言がオトナじゃないけどな」

「そう言うこと言わない!!」





なんだかグサッと心臓に何かが突き刺さった。ちくしょう…。
軽くむくれるあたしを見てクラウドは「ははっ」と声を出して笑う。

…まあ、クラウドが笑ってくれたなら良いかとか思うあたしはやっぱ相当きてるなと思うけど正直そんなもんはもう今更の話だ。

だってあたしはこの人のことが大好きで大好きで仕方がないから。





「うーん、でもやっぱティファにカウンター使っていいって頼んで良かったかも」

「ああ、こうしてふたりで飲むのも悪くないな」

「お。お気に召していただけましたか?」

「ああ」





そう頷いてくれたクラウドの顔を見れば、自惚れでは無く本当に楽しんでくれてるんだろうなっていうのはわかる。

今日は8月11日。クラウドの誕生日だ。

今年、あたしはティファに深夜にセブンスヘブンのカウンターでお酒を飲んでいいかと頼んだ。
別に一緒にお酒を飲んだことはあるけど、わりとティファとかバレットとか他の人も交えて飲むことが多かったし、あんまりカウンターに並んで飲むっていうのはしたことが無かったから。

だからそれは、なんとなくの気まぐれ。
でもクラウドのお気に召したのなら良かったと思う。





「あ、でも昔のセブンスヘブンでも一回だけカウンターで話したことあったよね」

「ああ、壱番魔晄炉の作戦の日…な」

「うん。クラウド、お花くれたよね。エアリスから買ったってやつ」

「そんなこと、あったな。差し出した時、あんた困惑してたよな」

「だっていきなりお花くれるなんて思わなかったもん。でも結構嬉しかったんだー、あれ」

「なら、今度は花束でも渡そうか」

「えっ?」

「あんたが喜ぶなら、俺は何でもする」

「…クラウド、もう酔っぱらってる?」

「…かもな」





なんだからしからぬ台詞をさらっと言ってる。
どうしたんだとその顔を見やれば、彼はふっとまた楽しげに笑う。

お酒のせいもあるかもしれないけどやっぱりなんだか今は機嫌が良さそうだ。
クラウドが楽しんでくれている、それだけで嬉しくなってしまうのはもう惚れた弱みなのだろう。

ええ、ええ。
もう一緒にいられるようになって何年か経ちますけどやっぱり大好きなんですよ。





「…何胸押えてるんだ」

「いやなんか息苦しくて」

「は?」

「…ナンデモナイデース」





クラウドの笑みに胸がぎゅうううっとして思わず押えたら顔をしかめられた。
でもその顔すら息苦しくさせるのだから、この男は本当にいつかあたしを悶え殺すんじゃないだろうかと本気で思ったり思わなかったり。





「ていうかさ、今日はクラウドが何かするんじゃなくてあたしが何かする日でしょ?」

「なにかしてくれるのか?」

「うーん、まあ、あたしに出来る事なら出来る限り。あたしも、クラウドが喜ぶなら何でもする!」

「酔ってるのか?」

「あははっ、かもねー!」





同じセリフを返されて「ふふふー」と笑う。まあ確かに気分は良い。
それはお酒のせいか、いや、隣にクラウドがいるからかな。

自分でも感心する。
でも何年経っても、まず一番に好きと言う感情が来る。

するとクラウドもあたしに釣られる様にふっと笑みを零した。
そしてゆっくりと手を伸ばして、そっと…あたしの頬に触れて、少し身を乗り出した。

あ、と思ったのは一瞬。

白い瞼が閉じられ、魔晄の瞳が見えなくなる。
あたしも自然と目を閉じていて、その直後、唇によく知る感触が触れた。

一瞬触れるだけ。すぐに離れる。
うっすらと瞼を開けて、また見えた魔晄色。でもまたすぐに見えなくなって、また口付けられる。
あたしは、クラウドの腕にそっと触れてその袖をきゅっと掴んだ。

何度重なったかな…。途中から、もう数えてない。
それくらいに繰り返して、終わると何だか名残惜しさを感じるのは…流石に恥ずかしいから黙っておこう。
はあっ、と息が漏れてクラウドを見上げる。するとクラウドの口からも吐息が零れた。





「…随分甘いの飲んでるんだな」

「えっ…?あー、うん、えへへ…可愛らしいでしょ」

「ナマエは、いつも可愛いよ」

「…やっぱり酔ってる」

「そうだな…。でも、だから間違いなく本心だ」





そう言いながら、クラウドはまた微笑む。

優しい。
向けてくれる笑みが、凄く優しい。

ああ、本当のぼせる。
ダメだ本当に酔いそうだ…お酒っていうより、クラウドに。

何馬鹿なこと言ってんだ、とは思う。
でも至って大真面目でもある。

しかもそれを幸せに思って、溺れてしまいたいとか思うのだからもう本当に救いようが無いなあと。





「クラウド…」

「…ん?」





愛しさが溢れかえって、どうしようもない。
だからあたしは椅子を立って、今度は自分からクラウドに唇を重ねあわせた。



END




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