きっと君にまた会える



「…………ない」



青ざめた。
ぽんぽん、とポケットに触れる。ポケットはぺったんこだった。

ない。ない。…ない!!!

ぽんぽんぽんぽん、いくら触っても無いもんは無い。


…財布落とした………!





「財布ぅう〜!!!」





思わず喚いた。
あの中にはコツコツ貯めたあたしの全財産がー!!!

あたしはきょときょと辺りを見渡しながら来た道を戻って財布を探した。
そりゃもう隅から隅まで。

だから前をちゃんと見ていなかった。
それが仇となった。

ガンッ





「ふげっ!?」

「うわっ」





響いた鈍い音。と同時に額に走った激痛。
額に何かがクリティカルヒット。

しかもかわいさの欠片も無い「ふげっ!?」なんて悲鳴。

でも自分以外の声もした。男の人の声。
多分あたしはその人とぶつかったんだろう。
つーか「うわっ」ってあたしよりよっぽど可愛い反応。

…ん?ていうか待って。今の声って…。

あたしは痛みで蹲っていた。
ずきずきする額を抑えてしゃがみこんで。

でも今した男の人の声をあたしは知っている気がした。
だから額を抑えたままゆっくり顔を上げた。

そこにいたのはひとりの神羅兵さん。
マスクをしてるから顔はよく見えないけれど。

でもあたしはぱっと頭に浮かんだその人の名前を呼んだ。





「クラウド?」





あたしを心配そうに見下ろしていたその人。
名前を口にすれば、彼はゆっくりとそのマスクを取った。

見えたのは想像した通りのつんつんした金色の髪。

ほら、やっぱりクラウドだ!




「クラウド!」




その顔を見てあたしはパッと表情を明るくした。
でも一方で、クラウドの方は驚いたように目を丸くしていた。





「どうして俺の名前知ってるんだ…?」

「え?」





聞き返される。
あたしは首を傾げて、逆に聞き返した。




「だって、クラウドじゃない?」

「それは…、まあそう、なんだが。というかあんた、額大丈夫なのか?」

「え…?あ、うん!なんかもう平気!すごいねクラウド!クラウドに会えた衝撃で吹っ飛んだ!」

「……吹っ飛ぶ、のか?」





クラウドが困惑しているのが見て取れた。
んはは!そんなお顔もドストライクだよ!クラウドー!!!

目の前にクラウドがいる。それでわりとあたしは大抵の事どうでもよくなるんですよハハハ!
自分でもちょっと変なテンションになって来てるのは自覚してる。だけどどうもやっぱり胸に溢れて溢れて溢れかえっちゃってるこの想いは止まりません。





「まあ、大丈夫ならいいけど…」

「うん!大丈夫!」





クラウドは心配してくれた。ああ、優しいなあ優しいなあ。
あたしはそんな気遣いにもニコニコニコニコ。

だけどそこでハッと思い出した。





「そうだ!財布!」

「財布?」

「そう財布!落としちゃったの!クラウド、見てない?」

「え…、いや、歩いてた限りでは見てないけど」

「そっか…」




しゅーんとちょっと落ち込んだ。
これはもう誰かに拾われて中身ネコババされちゃったパターンなんだろうか。

はぁ…とため息をつく。
するとそんな風に落ち込んだあたしを見てクラウドは「あっ」と何かを思い出したように声を上げた。あたしは首を傾げた。





「どうしたの?」

「いや、そういえば最近よく、物が無くなるって噂があったような」

「え?」

「誰かが話してるのを聞いただけだけど、鳥が巣に持ち帰ってるって」

「と、鳥!?」





するとその瞬間、バサバサッと言う羽ばたきが聞こえた。

ハッと見ればある建物の屋根の隙間から鳥が飛び出した。
ま、まさか…犯人はあの鳥か!!

すると兵士さん、その鳥が飛び出した所の真下に駆け寄った。
そして近くにちょうど良く建っていた街灯に上り始める。

って、あたしこの展開、なんだかすごく知ってる気がする!





「クラウド!」

「うーん…暗くて良く見えないな」





クラウドは街灯によじ登ったまま、鳥のいない巣に手を伸ばしてゴソゴソと中を探してる。

あたしはその様子を下から見上げて見ていた。

するとクラウドは何かをグッと引っ張り出した。

クラウドの手に握られていたモノ。
それには見覚えがあった。




「あった!それ!あたしの財布!」

「これか?…って、うわあ!?」

「っクラウド!」





その時、クラウドは手を滑らせて街灯から落っこちた。

だけどあたし、やっぱりそうなることを知ってた。
だからその瞬間走り出して、落ちてくるクラウドに向かって手を伸ばした。

まぁ、受けめるとかは出来なかったけど。

多少衝撃を和らげるくらいの手伝いはできたと思う。





「バカッ!危ないじゃないか!」

「えへへっ」





クラウドはお尻から落っこちて、あたしもその場に座り込んだ。

危ないって怒られた。
でもあたしは笑った。

だってなんだかすごく嬉しかったから。





「…笑ってるなよ」

「あはっ、だって心配してくれて、優しいなあって思ったから」

「…普通だよ。…さっき額もぶつけて、また傷増えるぞ」

「ほら、優しい!」

「……。」





クラウドは黙った。
あんまりにあたしが優しい優しい押すから言葉をなくしたともいう。

でもその時クラウドは自分が持ったままだった財布の存在を思い出し、あたしに渡してくれた。





「まあ…ほら、これ」

「あ、うん、ありがとう!」

「いや…まあ、ぶつかったお詫び。見付かって良かったな」

「うん、本当にありがとう!」





ぱっと笑顔になった。

やっぱりクラウドは優しい。
いつだってそう。





「やっぱりクラウドはヒーローだよね〜」

「えっ…?」

「結構自分のこと卑下するけど、でもいつも精一杯に手を伸ばしてくれるもん。そう言う人、あたしは英雄って呼んでも良いと思うんだ」

「英、雄…?」





ニコニコと笑いながら、あたしはクラウドにそう言う。
するとクラウドの顔は少し照れたように赤みを帯びた。

そう。いつだってそうだよ。
クラウドはいつだって優しい。

今、目の前にいるクラウドは神羅兵の格好をしている。
あたしの思い出の中の、大好きなお兄さんの姿。

この時だって。
それに、また再会したその後でも。





「あっ…そろそろ行かないと、休憩終わる…」





その時、クラウドはマスクを抱えて立ち上がった。

神羅兵の姿のクラウド。
あたしはそれを見ていて、ふっと思う事があった。

ううん、実は何度か思ったことがある事。





「あ、ちょっとだけ待って!」

「えっ…?」

「あのね、あたし、名前を聞いておけば良かったな〜ってずっと思ってたんだ」

「名前…?」

「うん」

「誰の?」

「貴方の」

「…知ってるじゃないか?」

「あは、今はそうなんだけどね!」





うん、いやもう何度もクラウドクラウドって呼んでるけどさ。

でももしね、あの時に。
もしも、あのお兄さんにお礼を言った時、最後に名前を聞けていたら。

そうしたらきっと、確信…とまではいけるかわからないけど、でもきっと、もう少し。





「次に会えた時、もう少し違ったかなあって思って」

「え、次…?」

「うん、次」

「次って…」

「あはは!本当びっくりしたよ〜!また会えるなんて思わなかったから」

「また、会える…のか?」

「うん!きっと!きっと、また会える!」





笑顔でそんなことを言うあたしにクラウドは首を傾げていた。
そんな様子にあたしはまたへらっと笑ってた。





「あたしはナマエって言います!貴方は?」

「…クラウド」

「うん!クラウド、財布見つけてくれて本当にありがとうございました」

「ナマエ…」





クラウドはあたしの名前を呼んでくれた。

でもその時、何かがおかしくなった。
ゆらっとした感覚。

あれ…って思った時、また名前を呼ぶ声。





「ナマエ」





なあにクラウド。
そう聞こうとして、でもその時わかった。

この声、今目の前にいるクラウドじゃない。

声は確かにクラウドだけど。





「ナマエ」





3度目の声で確信した。
ハッと意識する。これ、夢だ!





「ナマエ」

「ううん…クラウド…」





ゆらっと肩を揺らされた感覚。
あたしはゆっくりを目を開けた。

すると目の前に映るはまた金髪のツンツン頭。





「ナマエ、やっと起きたか?買い物、行くんだろ?」

「んん…ごめんごめん、昨日ちょっと夜更かししたから眠くなっちゃって」





起こしてくれたクラウドはバイクのキーと手にしていた。
そう。あとで一緒に買い物行こうって約束してたんだ。

あたしはそれまでちょっとデリバリーサービスの伝票の整理とかしてて。
でも気が付いたら机に突っ伏して眠ってしまっていた。

いや整理は終わってるけどね、一応。

あたしはぐーっと腕を伸ばしてふわっと欠伸を一つした。
ああ、本当机で結構ぐっすりいってしまったな。

そう思いながら自然とクラウドに目を向ける。
その時多分、結構じっと見てしまったんだろう。





「どうかしたか?」

「ううん」





じっと、そんな視線にクラウドは軽く首を傾げた。
あたしは首を横に振った。

いや、夢見てた。
クラウドの夢。

あれって多分、初めて会った時のこと、だよね。





「クラウドの夢見てたの」

「俺?」

「うん。俺」





シチュエーションは、初めて会った時のことだ。

でも、よく考えると色々おかしい。

名乗ってないのに現実ではクラウドのこと知ってるからクラウドの名前普通に呼んだりとか。
あたしは一度見た出来事なのに、それに関してまったく疑問抱いてなかったり。
自分が子供の姿をしてたのかさえ、目が覚めてしまえば曖昧だ。

うん、色々ちぐはぐ。
まあ夢ってそんなもんだけど。

だけど、あの日、こうしたかったな、ああすればよかったな…そんな風に思っていたことを、色々と出来たような気がする。

そして、未来。
あたしの目の前には、今、こうしてクラウドがいる。

ああ、続きだ。

その姿を見て、ふっと笑みが零れた。





「ふふっ、ほら、また会えた」

「は?」





夢の話。ホント、変な話。
そんなこと言われたってクラウドに伝わるわけない。

案の定、クラウドは意味わからないって顔してた。





「…もしかして、寝惚けてるか?」

「あははっ!かもね!」

「いや、かもってなんだ…」

「あはは!ごめん!」





いや本当に意味不明だよね。
あたし自身そうは思う。

でもね、本当、また会いたいって、ずっと思ってた。
あの時のお兄さんに、また…って。

だからきっと、また会えて嬉しいって、心の奥底ではずっと感じてる気持ちで。

今更な話かもだけど、でもずっとそう思ってる。





「クラウド」

「ん?」

「ふふっ、大好き」





笑って伝えた。

うん、凄く突拍子無い。
だからクラウドは目を丸くしてた。

でもね、ただ、そう伝えたくなった。



END


意味不明なお話で申し訳ない。
リメイク発売目前記念。

コンセプトとして、また会えるっていうキーワードでお話が書きたくて。

だからメタな話をすると、クリア後から見て、また会えるねって言うお話になってます。

いやあ本当意味不明になってしまいました。(爆)
でも体験版やっててまた会えるね〜って思ったんですよね。





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