もはや中毒
「…うう…ごめんね、クラウド…」
「いいから喋るな」
身体が重たい。
むしろ内側の方からじわじわ気分が悪い。
呟いた声も、喋らなくていいと言われるほどにか細いものだったろう。
「きもちわるい…」
うっ…と押えた口元。
数分前までは元気に走り回って剣を振り回していたと言うのに。
じゃあなんで今はこんなにグロッキーなのか。
その理由はとっても簡単だ。
「うう…まさかバイオ使ってくるなんて…」
ボソボソ嘆く。
あの時、振り返った瞬間にブワッと喰らった毒魔法。
思い出したら余計に気分が悪くなる。
そう。あたしは今、敵に喰らったバイオによって毒状態になってしまっているのでした。
「うう…本当油断した…まじでスミマセン…」
「…良いって言ってるだろ」
「…ハイ」
すぐ傍…というか、本当に間近に聞こえたクラウドの声。
あたしの足は今宙に浮いていて、クラウドが歩くたびに微かに揺れる。
なぜならば、今あたしはいわゆるお姫様抱っこというやつをされているからだ。
そう。他でもないクラウドに。
とんでもない状況だ。
うん、いつもならそりゃもう脳内カーニバルだろう。
ひゃっはー!?!?やべええ!!!
ていうか体重!!でも乙女の夢−!!!いや乙女とか厚かましいわ!?
的な。
そんなあれな状況ですよ。
「悪いな。毒消し、まだ残ってると思ったんだが」
「…ううん…あたしが油断しただけだから…」
でもちょっと、今はだいぶグロッキーと言いますか…。
そんなカーニバル繰り広げたら頭痛がすると言うか…。
だから今やっちまったよね…気持ち悪…。
本当なら大丈夫だよ、なんて叫びたいけどそんな元気も無く…。
《ご、ごめん…クラウド…》
《ナマエ…!?》
喰らった直後、立ち上がる事もままならないそんな風に蹲ってしまった。
つまりはクラウドの厚意に甘えるしかないなのが正直なところだった。
「ここらはもうモンスターも少ない。出たところで大したことも無いからそんなに気にしなくていい」
「……うん」
気遣いの声を掛けてくれるクラウドは優しい。
こんな状況でもしっかりきゅんとするのはやっぱり惚れた弱みってやつですね。
それにしても本当、お姫様抱っこだよ…。
クラウドに抱えられて、胸に体を預ける感覚。
なんでお姫様よって言われればそれは単純な話。
クラウドのお背中にはでっけー剣があるからおんぶは無理ってことです。
そういえばジュノンでイルカジャンプした時もこうやって抱えられたっけ。
あの時はぎゃーぎゃー騒いでたなあ…。
しかし実感すれば実感するほどなんだか本当、凄い状況だ…。
ドキドキはするけど、でも不思議と落ち着く。
そのあたたかさに浸りたくて、あたしはふっと目を閉じた。
「…ナマエ?眠いのか?寝ても良いぞ」
「……ん」
目を閉じた様子に気が付いたらしいクラウドはそう言ってくれた。
あたしはコクンと小さく頷いた。
でも、そうしながらもあたしは眠ってしまうのは勿体無いな…って思った。
いや、気分は悪いけど…。
なんだろう。この相反する感じですよ。
このぬくもりはあたたかくて、優しくて。
出来る事ならもっともっと浸っていたいなあ…とか。
呑気な気はするけれど、そんな欲が顔を覗かせる。
「………。」
…ちょっとだけ、いい、かな…。
頭が重い。
身体が重い。
そのだるさが手伝って、コテン…とクラウドに体を預ける。
するとクラウドはそのまま受け止めてくれた。
…なんだか、少し…楽だ。
物凄い安心感というか、ホッとするというか。
我ながら、あたしってばクラウドに絶対的な信頼置いてしまってるよなあ…と。
そんなことを思い知る。
「…クラウド、ありがとー…」
「…気にするな」
小さく小さくお礼を言えば、クラウドは優しく返してくれる。
その声すらも、なんて心地が良いのだろう。
もはや中毒…なーんてね。
END