もっともっと誇れるように



カウンターに座り、隣り合う。

くいっ、とカクテルを飲み干す俺。
でも、なんとなく…何とも言えないんだが、この状況。

何故なら、じーっと見られてる。





「………。」

「………なんだ」





我慢が出来なくなった俺は、飲み干したグラスを置きながら隣に視線を向け尋ねた。

グラスの中で、残った氷がカラン…と音を立てる。
その音を聞きながら、目の前の彼女は物凄く楽しそうに二コリ、と微笑んだ。





「いや…似てるなあって」

「…まあ、本人だから、な」

「ですよね。…えへへー」





俺を見つめ、へらへら楽しそうに笑うナマエ。

…ああ、可愛い…。
その笑みを見て心底そう思ってしまうのは、もう惚れた弱み…としか言いようがないのだろう。





「瞳の色違うけど、でもあの時のお兄さんなんですよね?」

「ああ…、瞳の色は、色々あって…。魔晄を浴びるとこうなるんだ」

「魔晄?へーえ。まあ、綺麗だから何でもいいかな。お兄さんの価値、瞳の色じゃないしね!」





ニコニコと、ナマエはただひたすらに何処か楽しそうだった。
俺の顔を見ては、俺が口を開くたび、凄く嬉しそうに笑う。

それは…、その、初恋の相手との再会を喜んでいるから…だ。





「なんか凄いなー。あれから7年経ってるのかー。ミラクル起っちゃってるなー!」

「ミラクル?」

「だってそうでしょ?」





初めて出会ってから7年。
一緒に旅をして、隣に立つことが叶ったのは2年前。

しかし、今この瞬間の会話は、それらの事を踏まえると違和感しか残らないだろう。

事の始まりは、そう…俺が今日の配達を終え、セブンスヘブンの扉を開いたところまでさかのぼることになる。




――――今日は件数が多く、すっかり遅くなってしまった。
マリンやデンゼルはもう寝ている時間だろう。

俺は疲れた肩を落とし、フェンリルから地に足をつけた。

扉を開けて、ナマエが「おかえり」と笑ってれるのが仕事終わりの楽しみだというのは…人に言ったら笑われるだろうか。

けど、…誰に何と言われようと嬉しいんだから仕方ないだろ。
そう思いながら、俺はセブンスヘブンの扉を開いた。





『あっ』





扉の奥に見え見慣れた後姿。
俺の開いた扉の音に気がつくと、こちらに振り向く。

ああ、その姿を見たら少しだけ、疲れが飛んだ気がした。

俺は自然と待っていた。
いつもの微笑み、いつものあの言葉。

振り向いたナマエは俺を見るなり目を見開いて…。





『あああああああッ!!!会いたかった!!!マイヒーロー!!!!』

『!?』





……物凄い勢いで叫んだ。

おい、夜中だぞ。
…という考えも少し過ったものの、それどころじゃない。

来ると思っていた「おかえり」は何処へいったんだ。
突然の絶叫にビクついた心臓を落ち着かせナマエを見つめると、ナマエもナマエで俺の事をじっと見つめていた。

……ちょっと待ってくれ。
なんなんだ、そのキラキラした視線は。





『……クラウド、おかえりなさい…。あはは…驚いたよね』

『…ティファ……?』





キラキラした眼差しのナマエの後ろには、ティファが苦笑いを浮かべていた。





『…とりあえず、どういう状況か説明してくれ』





――――こうしてティファに説明を求めた俺は、大方の状況を把握した。

昼間、マリンとデンゼルと遊んでいたナマエは、ふざけ過ぎて頭をぶつけたらしい。
それで軽い脳震盪を起こしたとか。

しばらくそっとさせて様子を見る限り、特に健康状態については問題は無かったそうだ。

そう、健康問題については…な。





「お兄さん、クラウドって言うんだね。しかもティファの幼馴染みとは…」





相変わらず、ニコニコ笑うナマエ。

問題は、そう…記憶の方にあった。

ティファやマリンの事は覚えていた。
しかし、デンゼルの事は覚えていなかった。

また、バレットの事は覚えているのに、レッドXIIIやユフィの事は覚えていない。

他にも話を聞いた結果、今のナマエは7番街スラムで生活していた頃まで戻ってしまったと言う事が発覚したらしい。





「いやぁ、あたしの英雄がティファの幼馴染みなんて世の中って狭いねえ」

「…そうだな」

「あはは!でもなんかうれしー!」





つまり、俺についての記憶にも障害が出ている事になる。
それは2年前の旅の記憶はすっぽり抜け落ちてしまっているということ。

手を伸ばすことを許された…あの時の記憶を、ナマエは失ってしまったということだ。

その事実には、少しだけ寂しい気持ちを覚えた。

でも…唯一の救いはあった。
それは7年前の、本当の初めての出会いの事はちゃんと覚えていてくれているということ。
それも…ちゃんと、特別な記憶として。





「お兄さん、あたしのこと覚えててくれたんだね。あーんなちっぽけなことなのに。なんか凄い」

「…まあ、思い出した…って方が正しいかもしれないけど、な」

「うん?」

「ちょっと色々諸事情があってな…。でも、俺にとっても大切な思い出だったんだ。それは嘘じゃない」

「ふーん?よくわかんないけど、そう言って貰えるのは嬉しいな!」





無邪気なナマエの言葉に、何だか少し申し訳なくなった。

…本当、ナマエは覚えていてくれたのに、何で記憶から消したんだろう…。
自分の弱さに、改めて腹が立った。





「クラウド?どーかした?」

「いや…なんでもない」

「そう?でも、思い出してくれたって事は完全には忘れてなかったって事だよね?じゃなきゃ思い出すとか無理だし。うーん、でもやっぱ不思議かも。本当、そんな大した出来事じゃないのに。どうして大切だって言ってくれるの?」

「……俺でも誰かの役に立てるんだって、教えてくれたから…かな」





ミッドガルに来ても、ソルジャーになれなかった俺。
自信がどんどん薄れて、どうしようもなく胸の中がぐしゃぐしゃしてた。

でも、ナマエは「ありがとう」と言ってくれた。
これでもかと言うほど、感謝してくれた。





「んー…なんか大袈裟じゃない?」

「そうか?それはお互いさまだろ」

「あー、まあそう言われると言い返せないねえ。考えれば考えるほどちっぽけだもんね。それもたかだか数十分の話だし。でもだからこそ余計嬉しいかも。自分にとっての大事な記憶、相手も大事だって思っててくれるとか凄いよ。ていうかここまでくると奇跡?」





ナマエは、本当に嬉しそうだった。

その笑顔を見て、思った。

俺がもしジェノバに負けていなかったら、再会した時、こんな会話をしていたのかもな。
…もしかしたら、もっともっと早くナマエの手を掴む事が出来たのかもしれない。





「それに、本当凄い。クラウド、あたしの恋人さんなんでしょ?」





俺の瞳を見つめ、そう聞いてきたナマエ。

えへへ、と少し照れながら。
でも真っ直ぐに聞かれたから、俺は少し戸惑った。

…だって、ナマエには記憶がないのだから。





「…嫌じゃないか?」





記憶がないのに、誰かと恋人だと言われるのは…どんな気分なのだろう。

普通、困惑しそうなものだ。
だから不安だったけど、いや…だからこそかもしれない。

俺は、思わずそう聞いていた。





「どうして?全然嫌じゃないよ?」

「…えっ」





でもナマエは、むしろきょとんとした顔をしてそう言った。





「ちょっと感動した!ていうかあたしってばよくやった!って感じ?だってあたし、貴方が初恋なんだもん!…って、面と向かって言うと、なんか恥ずかしいね!」

「…ナマエ」

「むしろ、クラウドこそあたしなんかでいいの?」

「…当たり前だろ」

「……うっわ…、すっごい照れる…!熱くなってきた…!」

「…あんたが聞いて来たんだろ」

「あははっ…、そーだね!」





咄嗟に素直に答えて、何だかこっちまで熱くなった。

けど、いつだって思うんだ。
俺なんかで本当に良いんだろうか、って。

俺は…こんな風に、ナマエに感謝されたり思って貰えるほどの価値があるのだろうか、と。





「うーん、でもやっぱあたしの目に狂いは無かったって確信した、かな?」

「…え?」





少し沈んでいると、ナマエはそう言いながら笑っていた。
それは、少しふざけるような笑みで。





「あたし、クラウドに憧れてたんだもん。それにたぶん、イイ人だな〜って思わないと、その、こういう関係にはならないだろうし…。13歳のあたしもなかなか見る目あるなあ、ってね?」

「……ナマエ」

「あー!早く思い出したい!てか何で忘れてんの、あたし!話ししてたら思い出したりしないかな?クラウド、手伝ってくれる?」





ナマエは、どうして俺なんかを特別にしてくれたのだろう。
初めて出会った時から、全力で俺なんかのことを唯一の存在にしてくれた。

情けないのに、いつも格好いいと笑ってくれる。
ナマエがそう思ってくれるなら…俺は、本当にそれで十分で。

ずっと…そうあれたらいいと、本気で思える…。

だから…もう少し、誇れるようになりたい。
ナマエにも、…自分にも。





「ああ。じゃあ、何から話そうか」

「んー、やっぱ2年前してた旅についてかな?ティファに聞いたんだけど、仲間も一杯いたんでしょ?」

「そうだな。じゃあ、まずはミッドガルでの事から、順に話していくか」

「よろしくおねがいします!」





こうして俺は、2年前の旅の話を一夜かけて話していった。

だけど俺も疲れてたし、セブンスヘブンを手伝っていたナマエも疲れていたようで、気づいたらふたりしてカウンターで爆睡していた。

…まあ目が覚めた時、ナマエの記憶は戻ってたから…良しとしよう。



END




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