素晴らしき日



突然、何気ないことの意味を深く考え、それに感動したり感心したりすることはないだろうか。
あたしは今、そんな気持ちに心が震えている真っ最中だったりします。





「8月11日…」




ソファにゴロンと寝そべりカレンダーを見て今日の日付をぼんやり呟く。
そしてテーブルのところでパラパラと今月の伝票を眺めているクラウドに目を向けてみる。

ちなみに簡単に整理をしているたけであって今日は配達の予定はない。

まあそんなわけでお仕事の話はともかくとして、今日8月11日は彼、クラウドのお誕生日です。





「クラウド〜」

「ん?」

「お誕生日おめでとー」





寝っ転がってクッション抱いたまま。
なんとも間の抜けた体制でのお祝いの言葉。

するとクラウドは「ん?」の時点では伝票に向けたままだった視線をあげてこちらを見てくれた。
ただその頭には完全に疑問符が浮かんでる。そんな顔だった。





「なんだ、唐突だな。日付変わった瞬間にも言ってもらったぞ」

「うん〜 。まあそうなんだけどね〜」





よいしょ、と体を起こしてソファに座り直す。

まあね、クラウドの言う通り0時にも言いましたとも。
その時はもう今か今かと秒針気にしまくってね。いざ12を指した瞬間にはそりゃもう思いっきりの笑顔で「おっめでとー!」とか言ったもんですよ。0時にうるせえよってね。うん、ごめん。

ってね、そんな風にしちゃうくらいこの日は特別な日付なわけよ。
そりゃそうだよ。だってクラウドの誕生日だもん。

そう、特別で大切で。
そんなことはわかりきっている。

でも、なんかこう…。
今カレンダーを見ていて、凄く…うん、改めて思ったのだ。





「今日、クラウドが生まれた日なんだよね」

「…誕生日ってそういう日だからな」

「うん。そうだね」





なんだか馬鹿っぽいやり取りだ。
何を当たり前のことをって感じね。

クラウドの誕生日は特別な日。
そんなこと1年中思ってる事だ。

でもさ、なんだか今は特に。
改めてと言うか…なんだか凄く思うのだ。





「なんかさ〜こうやって一緒にいられるのとか、あの旅をしたのも生まれてきたからこそで、ぜーんぶが8月11日に繋がってるわけだよね」

「まあ…そう言われればそうだが」

「う〜ん、なんかやっぱり今日って特別なんだなって今凄く感じてると言うか」





多分クラウドはピンと来て無さそう。
あたしも、なんでこんなに心に響いてるのか不思議だ。

まあ確実に言えることは、だ。
あたしは今目の前にいるこの人がこの星の誰より愛しいのだ。
大好きで大好きでたまらない人なのです。

うん。なんかふつふつ盛り上がってきた。





「いやなんかもうさ、ホント改まって考えてクラウド生まれた日とか素晴らしすぎじゃね的な」

「…う、ん?」

「いやうん、最高だな、8月11日!どうしようクラウド!なんかめちゃくちゃ高ぶって来たよ!」

「お、落ち着いてくれとしか言えないんだが…」





ぐんぐん昇り詰めていくテンションにクラウドは若干引いている模様。
抱きしめていたクッションもなんかえらい力で抱きしめてぶっつぶしていた。おおう…。

少しだけ我に返ったあたしはクッションを膝の上に置き、ポンポンと形を整えた。

そうしていると、クラウドは伝票を引き出しへと仕舞い、カタンと席を立った。
そしてあたしの座るソファへ歩み寄り、ポスッとその隣に腰を下ろした。





「なんか…変な感じだな」

「なにが?」

「自分のことでここまで楽しそうにして貰えるの」

「今更じゃない?あたし、いっつもわちゃわちゃしてる自覚あるよ」

「はは…、まあ、だからいつも変な感じがしてる。ナマエが騒ぐから、俺は…」

「…クラウド?」





俺は、と言い掛けてクラウドは口を噤んだ。
あたしはクラウドの顔を見つめ、どうしたのかと首を傾げる。

するとクラウドはちらりとこちらを見てきて、目があったからあたしはニコッと笑ってみる。
それを見たクラウドは「いや…」と少し戸惑いながら続きをゆっくり口にしてくれた。





「…俺は、自惚れそうになる」





小さな呟き。
あたしは少し目を見開いた。

クラウドはこっちは見ずに、下を見ている。

だからあたしはソファを立ち、クラウドの前で膝をついた。





「…自惚れて、いいんじゃないの?」





クラウドの手にそっと触れて、またふっと笑う。

だって、あたしは本当にこの人が大好きだし。
この人のことを何より尊く思っている。





「…途方もないくらいだぞ?」

「ふふっ、なにそれ。どれくらい?ううん、どれくらいだって別にいいよ!だってクラウド格好いいし!」





絶えず笑顔でいる。
いや、笑顔でいられる。

するとクラウドも小さな笑みを浮かべてくれた。





「…変な奴だ」





クラウドは笑みを浮かべたままあたしにそう言うと、こちらから触れていた手を上から握り直して引き寄せた。
あたしはそれに身を任せて立ち上がり、ぎゅっと彼の首に腕を回した。





「クラウド、おめでとう!」



END




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