プライスレス



「ふうっ、片付けたー!」





チャキ、と剣を収めて満足げに笑う。





「こんなもんでどーよ!ユフィ」

「ん!いい感じじゃん?」





今、あたしはユフィに付き合って街の外で戦闘を繰り返していた。

何でもここらの敵が落とす素材は結構良い値段で買い取ってもらえるのだとか。
ちょっとしたお小遣い稼ぎに良いかと思ってあたしはその話に乗った。

その際、クラウドに断りを入れたところ、資金調達なら…彼も付き合うと言ってくれた。

つまりは、クラウドとユフィと、魔物狩りに精を出してるということだ。





「結構集まったね」

「うん!これでマテリア何買えるかな〜!むふふっ」

「結局ユフィはそれなのか」

「とーぜんっ!」





いつも通りのくだらないやりとりにふたりで笑う。

でも、本当に結構集まった。
これだけあればかなりの資金になったんじゃなかろうか。

これならあたしも新しいアクセサリーとか買おっかな。
あとでアクセサリー屋さん覗いて見よう。

キャッキャとはしゃぐ。
でもそんな中で、あたしはある違和感を覚えた。

それはちょっとした静けさ…って、あたしとユフィが騒いでるから静かじゃないんだけど。
でもひとり、まったく喋ってない人がいる。

…クラウド、全然喋ってない。
っていうか会話に参加してないよね…?

まあ彼は基本的にこうわいわいする人ではないけど。
でも、ここまで何も言葉を発しないというのも違和感が残る。

そしてそんな違和感に気がついた時、事は起こった。





「…っわ」





ふわ…と、突然何か背中からぬくもりを感じた。
そしてそのぬくもりは、ぎゅっとした少しの窮屈に変わる。

その瞬間、耳元で…。





「…ナマエ」





甘い、吐息まじりの緩やかな声に名前を囁かれた。





「…っ…!?」





一気に顔…いや、体中が熱くなった。
同時に何か…腰のあたりからぞくりと這い上がるような感覚。

な、ななななななななな…っ…?!

何が起こってるのか理解できない。
ただ見えるのは、目の前にいつユフィがポカーンとした顔をしてる様子だけ。

え、な…に、これ…何、起きた…?





「…ナマエ…」

「…ひ、…」





また、囁かれた。
左耳に息遣いも伝わるくらいに。

思わずビクッと肩が跳ねる。

すると突然、喉元を指が伝う様な感覚。
それは顎をも伝い、くいっと振り向かされた。





「っ…!」





振り向いた瞬間、まじで心臓止まるかと思った。

そこにあったのは端正な青の瞳。

あまりの衝撃に頭が冴える。
此処まできて、やっと頭の整理がついた。

あ、あたし…!
今クラウドに後ろから抱きしめられてますけどなんだこの状況…!!?

意味わかんない!なんだこれ?!
え、いや理解は出来たけど、いやいや!また別の意味で理解に苦しむよ!?

え、え、え…!?
なんで、何この状況…!?

ユフィも呆気にとられてる…ってユフィ見てるよ!?

ってかクラウド!
なんでそんな色っぽいんだ!!何なんだアンタ!?!?





「………。」

「…な…にっ…」





じっと見られる。

でもやっぱり色っぽい…。
な、なんなですか、男なのにその色っぽさ…!

抱きしめられて、顔も近くて、どうしたらいいか…。

でもその時、ハッとした。

あ…?!そう言えばここの敵、コンフュ使う奴いたような…!

…もしかしてクラウド、混乱してる!?





「ちょ、クラウド…!」

「可愛いな…あんた」

「……なんっ…」





な、ななな何言ってんだ!このにーさん…!
頭おかしいんじゃないのか!…って、今は頭おかしいのか…!さすが混乱!

なんとなく事態を把握したけど、こ、これはちょっとあたしには辛いんですが…!!

だって…だって…だってえっ!!!?

なんだ!なんなの!
なんなのそれ!

そんな甘ったるい声あかんでしょ!
いや、本当は凄い嬉しいけども…って違うわ!?

あたしもコンフュ掛かってんのか!?
おいこら!!しっかりしろ!

抱きしめられて、引き寄せられて。
逃げられないように…逸らせないように、指が頬を撫でる。

…あ、あたくしにどうしろと…!





「柔らかいな…」

「…っ」





こっちまで混乱に掛ったんじゃないかと錯覚しかけた頃、唇にふに…とした感触。

クラウドの親指の腹が、あたしの唇に触れた。
下唇をそっと…撫でる様になぞる。

こ、これは…ちょ…。





「もっと…」

「っ…も、!?」





もっと…!?もっとって…何だ!?
そう思ったのもつかの間だ。

少しずつ、近づいて来る。
彼の青色が、あたしの視界を埋めていく。

少しずつ…少しずつ…。

頬に、彼の金色も触れた。
息が…もう直接届いてしまいそう。

もう…もう…っ。

その瞬間…、あたしはぎゅうっと目を閉じた。そして…。





「のわあああああああああーーーーッ!!!!」

「っ…!」





絶叫と共に…どーん!と、物凄い勢いでクラウドの体を突き放していた。





「ちょっ…ナマエ…?」





今まで何をしていたのか。
ずっと黙っていたユフィが戸惑いながら声を掛けてくる。

一方あたしは、バクバクとしてる心音を収めるかのように呼吸を繰り返し、押さえつけた勢いで座り込んだクラウドを見下ろしていた。

…だ、だって…色々とダメでしょ…。

正直なところ、勢いに任せて押さえつけてしまったところはある。
でも結果的にそう間違ってもいないと思う。

ユフィの前だったって言うのもある。
でも、そうでなかったとしても、混乱のままに…ってのは、なんか違う…。

それはクラウドの意思じゃないし…。
って、クラウドがそんな意志持つの、ありえないんだけど…って言ってて虚しくなってくるからやめましょう。





「…ナマエ…?ユフィ…?俺は…」

「クラウド…!」





ちょっと勢い余っただろうか…。
焦りすぎて思いっきり突き飛ばしすぎたか…。

でもその衝撃でクラウドの混乱は解けたらしい。

ああ…よかった…。

でもそんな安心もつかの間。
背後からぞわ〜っと嫌な予感を感じた。

すっごく嫌だったけど、恐る恐る振り返ってみる。
するとそこには、にへら〜っと嫌らしい笑みを浮かべているユフィがいた。





「うわ〜…こりゃ〜何か凄いもん見ちゃった感じ〜?」

「!、ちょ、お前まさか…!」

「さ!帰ったら皆に報告だね!」

「やめろー!!!!」





がしっと腕にしがみつき、やめなさいと懇願する。
しかし彼女はニヤニヤと。その笑みムカつくなこのやろう!!





「お、おい…ふたりとも?俺は…」

「全部あたしに任せろクラウド!ボスを羞恥に晒させはしない!!」

「は…?」




ひとり全然事を理解出来ていないクラウドは困惑している模様。

あたしはそんなクラウドにびしっと親指を立てて見せる。
訳なんかわからなくていいの!むしろわからんでいい!

あたしはやらかしそうなユフィを説得するべく奮闘した。





「ユフィ!ユフィ様!本当やめよう?ね?ね?」

「にひひ…ナマエってば顔真っ赤〜!良かったじゃーん!でも惜しい事したねえ、あのままいってたら確実に…」

「やめろって言ってるだろー!!!ね、お願い…!やめよう!ね?」

「ナマエってばあたしの事わかってないなあ?何か物を頼む時には、それ相応の頼み方ってのがあるでしょー?」

「ぐっ…!」





愛らしくニコーッと笑うユフィ。
でもその笑顔が今あたしには底抜けに憎たらしく見える。

こんにゃろう…!
人の足元見くさってからに〜…!!!

でも今回はクラウドにも大きく関わってくる問題。
…となれば、あたしは出来る事をするしかない。





「さっきの素材…あたしの分全部あげるから手を打ってください…」

「んふふー、よし、乗った!!」





…交渉成立。
ああ…結構頑張ったんだけどな…。

ガクッとうなだれるあたしを残し、上機嫌で街への道を戻って行くユフィ。

一方、そんなあたしを気遣うように、いまいち状況を読みこめていない彼が声を掛けてくれた。





「ナマエ…、なんだったんだ?ユフィの奴…。というか、何があったんだ?」

「…クラウド…」

「ん?」

「………っ」





あ、やばい…。
今無理だこれ…。

クラウドの顔を見るのが気恥ずかしくて、あたしは視線を逸らすように目を伏せた。

勿論そんなあたしの態度に、クラウドは疑問を残しただろう。





「ナマエ…?」

「な、なんでもないから…あんま、気にしないで…」

「何でも無いように見えない…というか、俺、なんか記憶が曖昧なんだが…。もしかして、何かしたのか?」

「だ、だから、本当、何にも気にしなくて大丈夫だって…!そ…その方が…助かる、から…」

「助かるって…俺は一体…」

「クラウド!世の中には知らない方が幸せな事だってあるんだよ!?」

「……わ、わかった…」





あたしの剣幕は相当だったのかもしれない。
クラウドは目を数回瞬くと、少し戸惑いながらも頷いてくれた。

絶対顔真っ赤。だから顔があげられない。
クラウドは何一つとして理解できてなさそうだけど、あたしの様子からとりあえず引いてくれた。

…ああ、まじで助かった…。
とりあえず一安心で、胸をほっと降ろす。

……でも。





「………。」

「……?」





ちらっと、ちょっとだけクラウドを見上げて見る。

混乱とは恐ろしい…。
クラウドがあんなに血迷った行動に出るとは…本当、恐ろしすぎる。

あの瞬間だけあたしが絶世の美女にでも見えていたのか、まったく。

思い出すだけで何もかも顔が熱くなりそうな事ばかり。
でも…まあ。





「…安いもん、かな…」

「……?」





クラウドは相変わらずわけわからないって顔してる。

でも…実際、現実には起こり得ない体験っていうか…。
クラウドに抱きしめてもらって、囁かれて…あんなに傍に、近づけたのは…。

ユフィに渡した分くらいじゃ安いくらいって言うか…。

いや、価値なんかつけられない貴重な思い出、貰っちゃった…のかもね。



END




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