Melt



「お供しますよ、ボス?」

「…久しぶりに聞いたな、それ」

「あははっ」





そう笑いながら、あたしはぎゅっとクラウドのことを抱きしめた。
クラウドも優しく、でも確かに抱きしめてくれていた。

あたしの気持ちは…クラウドに届いた。

あったかい。
ああ、クラウドだ。本当にクラウドだ…。

クラウドがこんなに傍にいるなんて凄い。凄すぎる。
でも…同時に凄く幸せだ…。

きゅうとクラウドの肩のあたりにうずめた頬。
その頬が妙に火照ってるような気がする。

というか、あたしの頭の中では思いっきり鐘の音が響いてた。
分かりやすく言うとリンゴーン!リンゴーン!って感じか。いや、なんかギャグっぽいな…コレ。

でも、うん。
どうしよう…。

ああ…やっぱり、幸せだなあ…。




「…ナマエ」

「…うん?」





クラウドの呼ぶ声。

クラウドは背に回していた手をあたしの肩に移動させ、顔が見える様に少しの間を作った。

じっと瞳がぶつかりあう。
ていうか凄い見られてる、あたし。

クラウドの顔がこんな傍にある…。

それだけでも一杯一杯なのに、そんなに見つめられたら本格的にどうしたらいいかわからなくなる。





「…っ」





そんなあたしの心境に気付いているのか、いないのか。

クラウドはあたしをじっと見つめたまま、まるで壊れものでも扱うかのような指先をあたしの頬に伝わらせた。

そんな指先の感触に、思わず肩がぴくりと跳ねた。





「ナマエ…」

「…ク、ラ…」





優しすぎる呼び方。
どうしようもなく優しいその囁きは胸をじわじわさせてくる。

そしてクラウドはその囁きの間に、ゆっくりゆっくり距離を縮めてきた。

長い睫毛の瞳が細められて、ゆっくり…ゆっくり…。

顔が、近づいて…。



そして…。





「んわあああああああああああ!!??」

「んぶっ…!」





あたしのメーターが振りきれた。

ちょ、無理!マジで無理!!
いや無理じゃないけど、やっぱり無理!!

振りきれた通り越してブッ壊れたんじゃなかろうか。

とにかく物凄い勢いで限界を超えたあたしは、思わずクラウドの顔を両手で押さえつけていた。





「…ナマエ…」

「あっ…!?ご、ごめん…」

「い、いや…俺の方こそすまない…」





ハッとして慌てて手を離すと、クラウドは謝罪を口にした。
その顔は物凄く申し訳なさそうで、でも同時に物凄く後悔してると言うか、ショックそうというか…とにかくそんな顔だった。

そんな顔をされると、こっちも物凄く申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

ていうか、え、え…!?
今のって、えっと…今のって、ええ…!?

混乱が酷い。
整理をしようにも頭が落ち着いてくれない。

それほどに、今の出来事は凄まじい事だということだ。
だから混乱しながらも、頭はそれしか考えられなくなっていた。

目の前にいるクラウド。
今だってすぐ傍にいるのに、それがもっと近づいて…前髪が、あたしの顔に触れる程…。

え、ええと…それは…つまり…。
それはつまりその…!?





「ごめん…、急に…。というか、こんなすぐに…嫌に決まってるよな…」

「あ!?違う!違う!嫌とかじゃなくてねー!!?」





しゅんとしてしまった目の前のクラウドに、あたしは慌てた。

嫌なわけあるか!そんなわけない!絶対ない!
これでもか!ってくらいブンブン首を振って否定した。

いや、本当に嫌なわけがない。
嫌とかありえない。馬鹿じゃないのか、そんなん!

そう、本当に嫌というわけでは無かった。

ただ…。





「ただ…その…メーターが振りきれただけ、と言いますか…」

「メーター…?」

「あ…ええと…、恥ずかしいと言うか…。それに寝起きだから、なんかカサカサしてるし…」





自分で何言ってんのかわからない。
唇カサカサってなんだ!なに女子力の無さアピールしてるんだ!馬鹿か!馬鹿だよ!違う!だからなに言ってるの!

色々と限界点超えちゃってるあたしはもう本気でパニック状態。

ああああ、もう!どうすれって?!
頼む!誰か正解を教えてくれ!!

嫌じゃない…嫌なわけが無い…。
だって…ずっとずっと憧れてた…。

叶わない夢見てた。
そう、叶わないって思ってた。

だけど今…。





「クラウド…」

「…ん…?」





こんなにも近くに青い瞳がある。
金の髪と、白い頬…。

全部…ほんの、ほんの少し指を伸ばしただけで触れられる。

青い瞳は不安気に揺れてる。
そっと肩に触れるぬくもりからも、それを感じる。

まるで…怯えてる。
この人は…あたしなんかを、まるで壊れやすいものに触れるかのように…扱う。





「…………。」





ああ…どうしよう。
なんだか、この人に触れたくてたまらない。

たまらなく…なった。





「…クラウド…」




小さく小さく、名前を囁いて。

そっと…彼の鎖骨に手を添えて。
ゆっくりと、ゆっくりと…瞼を閉じる。

そしてそっとそっと…一瞬だけ、柔らかな頬に近づいた。





「……っ…ナマエ…?」

「…………。」





離れてみると、クラウドは目を見開いて丸くして、あたしのことをじっと見てた。

一方、あたしは顔がすっごく熱かった。

ああああ…絶対顔真っ赤だよ…。

ていうか…何をしとるんだ!?
ほっぺとはいえ突拍子なくない…!?




「…や…だった…?」




相変わらず、どうしていいのかわからない。

やっと絞り出せた台詞はそんなもの。
いやでも突然しちゃったし、ていうか明らかびっくりしてるし。

聞くべき台詞…ではあるのかもしれない。





「…嫌なわけ、ないだろ…」

「へ…きょわあ?!」




ぎゅっと、思いっきり抱きしめられた。

ていうか変な声出た!
ていうかなんだ!なにごとか…!!?





「と言うより…反則だ…」

「へ…は、反則…?」

「…どうにかなりそうだ」

「え、そ、そんなに嫌でした?!」

「……何でそうなる…」





く、クラウドに拒否られたら泣くっていうか、もはや早くメテオ降ってこいってなるんですけど?!

そんなあたしの心配をよそに、クラウドは耳元で呟いた。





「俺も…していいか?」

「えっ!」





目の前にクラウドの顔。
また、クラウドの手が頬に触れる。

すると、頬からなぞる様に額に触れて、そっと前髪を掻き分けた。

お、おれ…も…?





「っ…」





思わずきゅっと目を閉じる。
すると額に、クラウドの唇が触れた。

…お、おでこ…!

かああっ…と身体中が熱くなるのを感じる。

顔を隠したい…。
でも隠せる場所もない…。だけどやっぱり色々やばい!!

ちょっと…半分くらい勢いもあったかもしれない。ええい自棄だ!みたいな…。
そんな勢いで、あたしはもぞっ…と目の前にあるクラウドの胸に頭を押し付けて埋めた。

そうしたら、まるでそれを許してくれるかのように、クラウドが頭を撫でてくれた。

それには少しホッとした。

でもやっぱり心臓が働きすぎてどうにかなにそうなのは変わらない。





「…うう….、心臓爆発しそうだ…。…ていうかしたわ、ナマエちゃんご臨終…」

「おい…縁起でもないこと言うな」

「だって…もう、うううう…」

「はは…っ、まあ…俺も…胸が一杯一杯だ」





ますます顔が熱い…。
でも、自分もだと言うクラウドが気になって、そっと顔を上げてみる。
するとクラウドは嬉しそうに、幸せそうに…その頬を綻ばせていた。





「…………。」






そう…本当に嬉しそうに。
そしてクラウドは、人差し指を自分の唇に立てた。





「じゃあ…こっちは、全部終わらせてから…教えてもらう」

「へっ…」

「うん…そうだな、その方がもっとやる気も出るな」

「そ、そんなんで…?」

「ナマエとだから、な」

「……え!?」

「それとも…やっぱり、嫌か?」





少し不安そうな顔。
あたしは慌てて首を振った。





「い、嫌なわけっ……ない、よ…!」

「…ナマエ」

「い、今だって…その、ちょっと緊張しただけだし…」

「………。」

「ていうか、自分でも惜しい事しちゃったんだろって、何言ってんだ、あたし…!」

「…ふっ、」





頭が沸騰して何かわけのわからない事を口走ってる。

おかげで笑われた。
何言ってんだ、マジであたし何なんだ!?





「確かに…」

「はい!?」

「そんなんで…って、聞きたくなるな」

「へ…」





そう言ってクラウドは笑う。

そんなんで…って、まあそりゃ…相手がクラウドだから。

あたしがそう抱く感情を、クラウドも持っていてくれるのなら。
…それって、なんて嬉しい事なんだろう。

それなら…必要な言葉は、ひとつだけ。





「…クラウドと…なら」





そう何とか言葉を絞り出すと、クラウドはふっと微笑んで、また抱きしめてくれた。





「…じゃあ、またひとつ。約束だが増えたな」

「……うん…」





もっともっと、貴方の事が知りたい。
だからすべてが終わったら、たくさん、たくさん話をしよう。

つい先、そう交わした約束に…また、ひとつ…積み重なる。

少し、頬が緩んだ。

うう、胸の中が…いっぱいいっぱいだ…。
……嫌な感じじゃないけど、息苦しい。

甘い、甘ったるい時間。
甘すぎて、本当…溶けそうだと思った…。



END


なんか甘い話が書きたかったんだと思う。←

甘いってなんだ。私、書けねえ!練習ですごめんなさい!

最初はちゃんと口にする予定だったんですけど、本編で入れてないのに本編の番外編で入れるのは何だかなー…とか思って。
!(笑)




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