僕は君に甘く弱い



ディープグラウンドを目指し、突き進んだ神羅ビルの地下。

エレベーターで下へ下へとひたすら降りてきたが…、まったく…どこまで続いているのか。

かつては所属した組織の中にこんな施設があったとは…。
表情豊かではないと自覚しているが、知られざる事実の存在に少なからず驚いている自分がいた。

さて、どれほど進めたのだろう。

敵の気配が薄くなったところで、一度シェルクに連絡を取ろうと取り出した携帯電話。
プルルル…という独特の呼びだし音を数回聞いたが、シェルクは出ない。

……後で掛け直すとしようか。
そう思い、私は呼び出しを止め、携帯をしまおうとした。

が、その時…また呼び出し音が聞こえた。

しかし、今度は逆。
私が呼び出されている番だった。

ピ…、とボタンを押し耳元に当てる。





《あ、繋がった!》





すると耳に届いたのは、聞き慣れた明るい女性の声だった。





「…ティファ?」





浮かんだ彼女の名前を聞き返す。
直後、耳が痛くなるほどの声が響いてきた。





《なに!?繋がった!?うおぉーー!!ヴィンセント!生きてっか!?》





…思わず耳から電話を離した。

この大声はバレットか…。

電話越しの私にこれだけ響いているという事は、傍にいるのであろうティファにも相当響いているのだろう。





《生きてるから電話でてるんでしょ?耳元で大きな声ださないでよ!》

《だはははは!すまねぇ!》





その予想は当たっていたらしい。
聞こえた会話でそれは察した。





《ごめんね、クラウドに代わるわ》





ティファは溜め息をつくと軽い謝罪を口にし、傍にいるらしい奴に電話を渡した。





《ヴィンセントか?》





落ち着いたトーン。
言葉通り、次に聞こえてきたのはクラウドの声だった。

随分久しい。
いつぶりだっただろうか。





「ああ、クラウド。久しぶりだな」





そんな気持ちを込め、私はクラウドにそう返した。

クラウドは私にいくつかの状況説明をしてくれた。
今自分たちの把握出来ている状況のいくつかを。

そんな話を聞きながら、私の意識は電話の向こうの状況にも向いていた。

ティファ、バレット、そしてクラウドがいることはわかった。
だが、そうなればあとひとりいるはずだ。

現にその予想も当たっていたようだ。

証拠にクラウドの声の後ろでティファがそのひとりに呼びかけているのが聞こえた。
《ナマエ!ヴィンセントと連絡取れたよ!》と。





《それでシドの飛空艇が…、と、すまない。ヴィンセント》

「どうした?クラウド」

《ナマエが代わってくれって言うんだ。少し、いいか》

「フッ…了解した」





会話の途中だが、クラウドに代わり聞こえてきた明るい声。
その声を聞き、私の頬は少しだけ緩みを見せた。





《あ、もしもし!ヴィンセント?》

「ああ、ナマエ。そっちはどうだ?」

《問題ない。…あっはは!似てる?似てる?クラウドの真似ー》

「フッ…微妙だな」

《ちょ、酷っ?!》





私の返しに《結構似てると思ったんだけどなあ》と、ぼやくナマエ。
こちらとしてはモノマネよりも、そのむくれている姿の方を想像する方が可笑しかった。





《でも本当にこっちは問題なしだから大丈夫!》

「そうか。それならいいんだが」

《うん!…て、あ、ごめんごめん。クラウドと話途中だったんだよね。今クラウドに返すから》





そう言ってナマエはクラウドに電話を返したようだ。
代わって、クラウドは再び状況の説明を続けてくれた。





「シドの飛空艇が…?」

《ああ、連絡が取れなくなった。まあ、あの二人のことだから…心配はないと思うけどな》

「そうか、…フフッ」

《?、どうした?》





話の途中、つい笑ってしまった私にクラウドは不思議そうに尋ねてきた。

…それは、ただの単純な話だった。
久々に聞いた声だったが…相変わらずなのだな、と思っただけなのだ。





「いや…、クラウドは相変わらずナマエに甘いのだなと思っただけだ」

《……………。》





私の指摘にクラウドは黙ってしまった。

恐らく自覚があるのだろう。
それがまた可笑しく笑いを溢すと《…笑うな》と少し不満そうに言い返してきた。

思い返せば、いつだってそうだ。あの旅の時から。
クラウドはナマエの可愛らしい我が儘にいつも耳を傾けていた。

勿論ナマエ自身、今回のようににそんなに無理のない至って小さなものしか言ってはこないが。

でも、恐らくクラウドの心情的にはいくらでも叶えてやりたいという気持ちがあるのだろう。

クラウドはナマエに甘い。
しかし相変わらず、という表現は少し違うのかもしれない。

あれから3年…ますます、か。





《とにかく、こっちの心配はいらない。だからお前は…》

「ああ、先に進ませてもらおう」





照れくささを隠すようにクラウドは話題を戻した。

ちょうどその時どうやらティファが神羅ビルの地図を見つけてくれたらしく、別の携帯でその地図を転送してくれた。

ほう…これは有難い限りだ。

その際、そこにいる全員が集まったらしい。
4人の別れの声が聞こえてきた。





《ディープグラウンドは下よ。とにかく、エレベーターでどんどん降りるの。頑張って…》

《頼むぜ!ヴィンセント!!》

《もう、なにすんのよ!!》





ティファの声を遮り、声を被せてきたバレット。





《気をつけて、ヴィンセント!帰ったらお祝いだからね!》

《じゃあな、死ぬなよ》





そして最後はナマエとクラウド。
ふたりの声を最後に、通話は切れた。

パタン…、と携帯を折りたたみ、私は前を見据えた。





「…行こうか」





目指すは更に奥。
ディープグラウンドへ。



END


ここの電話のシーン、大好きです。
声だけなのに私のテンション最・高・潮…!(笑)
コントすぎる…アバランチ…!

ところでヴィンセント視点初。
崩壊してないことを祈ります…。





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