出来る事なら何だって



「クラウドー、いきてるー?」





扉を開ければ見えたベッド。
もこっ、と膨らんだ白いシーツに包まってる彼。

来ましたよー、って意味を込めてコンコンと扉を叩けば返事が返ってきた。





「…殺さないでくれ…ごほっ…」





普段よりこもった声に、咳のおまけつき。

こりゃ結構きてるな…。
そんなことを思いつつ、あたしはトレイ片手に彼に近づき尋ねた。





「食欲ある?」

「……ない」

「即答ですね、おにーさん。でも残念。何かしらお腹に入れないとだよ」





ベッドの傍に椅子を持って来て、腰掛けた膝にトレイを置く。

するとモゾモゾ…とクラウドは布団の中から上半身だけ起こした。

映ったのはうつろな青い瞳と、熱を持って赤みを帯びた頬。
やあんっ!クラウドってば色っぽーい!!…とか言ってる場合ではない。

いや口には出してないから良しとするべし。






「何か食べなきゃ薬も飲めないよね。ほら、お粥作って来たからどうぞ?」





そう言いながらあたしは持ってきたトレイをクラウドに差し出した。

察しの良い方はお気づきだろうか。
そう、本日のクラウド・ストライフさん、風邪でダウンしてるのです。

そんなクラウドの為に持ってきたお粥。
差し出されたそれを見たクラウドはなぜか顔をきょとんとさせていた。





「…お粥?」

「うん。ティファいないからあんまり凝ったの出来なかったけど…」





ティファは今日はジョニーとかいう友達に用があるらしく、出かけてしまっている。

と、なれば…あたしが何とかしないでどうするのかと。
熱いうちに食べちゃってね、と笑えばクラウドは何故かあたしとお粥を交互に見比べてきた。

…なんだろう。その顔は。ていうか反応は。





「…これ、ナマエが作ったのか?」

「ティファいないって言ったじゃんか。他に誰が作るの」

「…料理出来ないって言ってなかったか」

「………あ、あのね…クラウド…」





なんというか…、どうしようかと思った。

確かにあたしは前に言ったことがある。
料理は出来ない、と。





「あのさクラウド…あたし、スラムにいた時はひとり暮らししてたんだよ?まあ…ティファに会ってからはセブンスヘブン入り浸ってたからいつも作って貰っちゃってたけど…」

「…………。」

「そもそも料理が出来るって言うのはさ、ティファみたいな人のこと言うんだよね。あたしは出来ないよ。でもひとり暮らししてたんだもん。必要最低限のことは出来ますよ」





つまり、だ。
まあお粥は必要最低限…だと思う。

あんまり凝ったものは出来ないけど、簡単なものは出来ますよって話。
ていうかその程度で、あのティファを目の前に料理出来ますとかほざくのって嘗めてんのかてめえって話じゃない!!

まあ、あたしのは一般的に見ても出来るうちに入らないとは思うけど…。





「…なるほどねえ。お粥も作れない女だと思われてたのかあたしは…」

「ちが、…十分出来るに入るんじゃないか」

「お粥ごときで何言ってるの」

「…俺は作れない」

「基準そこなの?ま、何でもいいから食べちゃってくださーい」





そう促せば、クラウドはスプーンを持って数回息で冷ますとお粥を口に運んだ。





「どう?」





お粥なんかぶっちゃけ誰が作ったって味は変わんないと思う。
でも聞いてみちゃうのは、なんとなくである。





「……正直味はよくわからない…」

「…まあ、風邪だしね」





もぐもぐ、と食べてくれたクラウド。
だけど彼は首を振った。

確かに風邪気味の舌には味なんかわかるわけがない。

それが正常だよね。
…いや異常なんだけど、風邪に関しては正常って言うか…。
って、そんなのどうでもいいわ。

でもやっぱり。
改めて見つめて思った。

こんなクラウド、初めて見たかもしれない。





「にしてもクラウドも風邪引くんだね」

「…それは一体どういう意味なんだ」

「うーん、なんとなく。それとさっきのお返し?」

「…褒めたつもりだったんだけどな…」

「クラウド、わかりづらい」

「………ごめん」

「ナマエちゃんのガラスのハートがブレイクしちゃいますよ、まったく…なんて、あはははっ!」





そんな会話を交わしながら、クラウドはひと口、ふた口とお粥を運んでいった。

やっぱり味はわかんないみたいだけど。

でも一応味見はしたからね。自分で言うのもなんですが不味くはなかったと思う。
ていうかクラウドにクソ不味い物とか食わせてたまるか!!





「…なあ、ナマエ」

「うん?」





そんなこと考えてたら、ふいに名前を呼ばれた。
クラウドはゆらゆらとまだ湯気の出ているお粥を見つめている。

首を傾げると、目があった。





「また今度…風邪が治ったら、何か作ってくれないか」

「え?」

「…その、ちゃんと味わって食べたい」

「………は?」





反応に困った。
…何を言い出すんだろう、この人は。





「クラウド、早く食べて寝よう。重症だ。頭ぐるぐるしてるんだね」

「…頭は重いけど、自分の言ってることは理解してる」

「……。」





まじ…とこっちを見てるクラウドの青い目。

ああ、少し虚ろだけど焦点はあってるし割としっかりはしてる…。
じゃあ今の意味不明な発言は何だというのだろう。





「…料理はティファが作ってくれるよ。ていうかそっちのが何百倍も美味しいよ?」

「…ティファの料理が美味いのは否定しない。でも俺はナマエの作ったものが食べたい」

「…クラウド、やっぱり早く寝た方がいいと思う」

「…本心だ」

「…………。」

「…ちゃんと食べたい。駄目か…?」





もしかしたら、わかってて聞いてんじゃないのかこの人…!

あたしは弱いんだぞ…!
めっぽうあんたに弱いんだぞ…!

クラウドにあたしが出来る事なら何でもしてあげたいと思うし、望みなら叶えてあげたい。

ああ…うん。
たぶん、惚れた弱みってこういうのを言うんだって実感した気がした。





「…ナマエ…?」

「早く寝よ、クラウド。あとでトレイ取りに来るから」

「……。」

「それで早く治して。次はちゃんと感想教えてね…」

「え」

「はい!じゃあおやすみなさいまし!」





まくしたてるように、最後は早口。

ぱたぱた、駆け出して、ぱたんと扉を閉めた。
その扉に寄りかかって一言。





「……料理、練習するかなあ…」





ティファにも、誰にも頼らずに。
ちゃんと自分だけの力で。

そっと小さく呟いた。



END




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