ゼラニウム
「ねえ、クラウド。ナマエ、可愛いわよね?」
にっこり笑って私は尋ねる。
金色の髪の彼に向かって。
すると彼は、あからさまに怪訝そうな表情を浮かべた。
「もう。なーに、その顔」
「こっちの台詞だ」
む、と私が頬、膨らませると、クラウドはもっと怪訝な表情。
本当、なんだか失礼しちゃう、ね。
小さな宿の、小さなバー。
珍しく全員が合流した、そんな夜のこと。
私は偶然廊下で見かけたクラウドを引っ張った。
そして可愛らしい話、彼に投げかけた。
「ナマエよ、ナマエ。さっきから言ってるでしょ?クラウド、ナマエのことどう思ってるのって聞いてるの」
「どうって何だ…」
「そのままよ。可愛いって思ってるでしょってこと」
「意味がわからない」
からん、とクラウドのグラスの氷が揺れた。
ペース、早くなってる。
ちょっと動揺してるの、丸わかり。
ストレートに質問してあげてるのに、どうしてはぐらかすのかな、クラウドは。
別に普通のこと、聞いてるだけなのに。
「ちょっとくらい素直になりなさいよ。メンバー決める時、すぐナマエのこと取っちゃうくせに。明日だって、取っちゃうんでしょ?」
「取っちゃうって…。俺はバランスを考えて決めているだけであって…」
「良い口実ね」
「…あのな…エアリス、」
「なあに?」
「…………。」
からん、また揺れた。
ああ、また飲んだ。
おまけに黙っちゃった。
本当、素直じゃない。
認めてくれたら、こっちだって思いっきり応援、出来るのに。
「ねえ、少なくとも…気になってはいる、でしょ?」
「…………。」
クラウドは答えない。
無言のまま。
でもね、それって、もう答えでしょう?
それでも素直にはならないのは…。
「ねえ…クラウド、怖がってる?」
「…怖がる?」
そっと尋ねると、クラウドは首をひねった。
…クラウドって、結構自信、持ってるよね。
ソルジャーの実力…。そういう自信。
普通の人が知らない…色んなこと、知ってるし。
戦闘でも、とっても頼りになる。
でも…本当は、違う…。
違う、よね?
「ナマエに近づくこと、触れること、もっともっと傍にいくこと」
「エアリス…?」
「望んでるのに、どこかで怯えてる」
じっと見つめて、そう言った。
「…なに、言ってるんだ?」
そういいつつ、クラウドの目、泳いでた。
でもきっと、自覚してない…。
近づきたい。傍にいたい。
触れたい。抱きしめたい。
そういう感情、クラウドきっと抱いてる。
ただ、素直になれないだけ…。
それはちゃんと、わかってると思う。
……だから、ちゃんと自覚出来て無いのは………怯えてる、理由。
「ナマエに、嫌われたくない?壊すかもしれないなら、今のままがいい?」
「………。」
これ以上、ナマエに近づくこと…クラウドはどこかで恐れてる。
私、なんとなく…そんな風に感じた。
クラウド…本当は自信なんか、全然、ないんじゃないかな。
必死に繕ってるみたい。
…少しだけ、臆病な貴方…。
でも、でもね…それが。
それが貴方の、本当の心なんじゃないかって…。
「クラウド、私、貴方にその気持ち、大事にして欲しいの」
「え?」
「ううん…臆病なの、良いって言ってるわけじゃない。そうじゃなくて、そうやって感じる貴方のその心、大事にして欲しい」
「どういう意味だ」
「…ふふ、ごめん。説明、難しいね」
くすくす、笑った。
クラウド、どこか腑に落ちない顔、してたけど。
「ねえ、クラウド。怖いのわかるけど、もう少し責めてみない?男の子でしょ?」
「だから、何で俺が…」
「気づいてない?クラウド、貴方結構わかりやすいよ?いっつもナマエのこと見てる」
「なっ、」
「いいじゃない。ナマエ可愛いもの。クラウド、趣味いいわ」
「……。」
からん、
ああ、遂に飲み干しちゃった。
頬、少し赤い。
それは…お酒のせい?それとも…あの子のせい?
なんだか可笑しくて、私はまたつい笑ってしまった。
でも、すぐにその笑みの質を変えた。
「…ねえ、クラウド。私、ナマエとの付き合い、多分クラウドとそんなに変わりない。ううん、なんならクラウドの方が少し長いくらい、ね」
「…あ、ああ…?」
「でもね、同じ女の子として。女から見てのこと言わせて貰うと、ナマエ、クラウドのこと、悪く思ってないよ?」
「……え、」
青い目、驚いたように丸くした。
ほら、やっぱり。
こんなにもわかりやすい。
「自分でも嫌われてないっていうのは、わかるでしょ?ナマエの場合、それが答えなのよ。あの子、嫌いな人、自分から近づかないもの」
「なんだそれは…」
「レノとか、ルーファウスとか。絶対避けて通る、でしょ?まあ…レノ達の場合、相性、かもしれないけど」
「…あいつ等は敵だろ」
「でも、ナマエは神羅ってだけで括らないよ。神羅の全部が悪じゃない。それをわかってるもの」
「…初恋の相手がいるからか」
「お父さん、神羅のサラリーマンだったって言ってたし」
「……。」
「ナマエの、初恋、気にしてるんじゃない」
「……………。」
からん、
もう入ってない。
揺らして、そのことに気がついて、誤魔化すように口元を隠して頬付いた。
ほら、やっぱり、図星。
「だからね、少なくとも、脈はアリ、よ?」
「…だから別に興味な…、」
「ないね、なんて言わせない」
「………。」
「ふふっ、」
台詞、取っちゃったら黙り込んじゃった。
…臆病なクラウド。
ナマエは自分のこと、どう思ってるんだろう。
本人に聞いたわけでもないのに、最悪のパターン、想像してる。
あんまり手を伸ばし過ぎて、迷惑だったら。
余計な事を口にしてしまったら。
そう考えて、線引いて、それ以上踏み込まない。
「ナマエ、いつもクラウド、クラウド、って…笑ってる。凄く、貴方に懐いてる」
「…………。」
「少しくらい強引に動いたって、迷惑だとか…あの子、思わないよ?」
好きな相手なら、誰しも盲目になるものだもの。
はっきりは、教えてあげないけど、でも。
ナマエもクラウドの事、きっと好き、だから。
「……まあ、人それぞれペースとかって、あるものだから…。きっかけとかだって、必要だろうし。だから、明日告白しなさい、とか、言わないけど」
「……当たり前だ」
「あ、認めた?」
「…………。」
「もう、眉間にしわ、寄せないの」
くす、と笑えば、またクラウドは面白くなさそうな顔。
完全に、踊らされてるもんね。
そうしてるのは私、だけど。
…でも、そう。
ゆっくり…ゆっくりでいいの。
「クラウド…少しずつ、ゆっくりでいいから。ただ、その気持ちに自信、持って」
「…え?」
「誰かを大切に思うこと、それは何より強い想い、だから。ちゃんと持ってて。放しちゃ駄目」
「…エアリス…?」
「そうしたら、ナマエ、良い子だから。絶対、クラウドの味方でいてくれる。だから…きっと…」
風に舞った花弁のように…儚い。
壊れて、消えてしまいそうに見える…貴方。
ねえ…私、貴方のこと守りたいのよ。
そして、ナマエに笑って欲しいの。
「その想いは、きっと貴方の力になる」
きっと、きっと…。
END
ゼラニウムは8月11日(クラウドの誕生日)のお花。
すなわち誕生花ってやつです。
エアリスと言えばお花…という単純なタイトル付け。←