相反する感情






「繋がったのか?」

「エース…」

「その顔じゃ、やっぱり駄目だったみたいだな…」





COMMを見つめていたあたしに、エースが声を掛けてくれた。
その声に振り向くと同時に、彼はあたしの言いたいことを察して首を振った。





「うん…、全然繋がらない」

「まったく、どうなってるんだか…」





ミリテス皇国領のとある森の中。
あたしたち0組は、全員でそこに息を潜めていた。

なぜそんな状況になっているのかというと、事の始まりは…あたしたちが指令を受けた魔導アーマーの破壊任務にあった。

あたしたちは与えられた任をこなし、皇国の兵器の破壊に成功した。
しかしその矢先、停戦になったという知らせを受けた。

敵地にいたあたしたちは、そのまま白虎に滞在。
その間に蒼龍の女王が暗殺され、直前に女王と謁見していたあたしたちにその容疑が掛けられてしまった。

その為の逃亡。
あたしたちは追ってを払いながら、朱雀領を目指していた。





「カリヤ院長やクラサメ隊長…何事もなければ朱雀についてるはずなのに」

「ジャマーのように何かに通信を妨害されてるんじゃないかってさ」





会談の為に皇国に訪れたカリヤ院長。その随伴員だったクラサメ隊長。

連絡を取ろうと、何度もCOMMに呼びかけをするものの、反応は無い。

マキナやレムが魔法を使えていることから朱雀クリスタルの異常とは考えにくい。
だからといって全員のCOMMが故障してるとも考えられない。





「隊長たち…無事だと良いんだけど」

「記憶があるんだ。生きてはいるだろ」

「まあ、そうだけどさ…」





はあ、と小さく息をついた。

すると、そんなあたしをエースが何か物言いたげな顔で見ている事に気がつく。
怪訝に眉を寄せ、首をひねった。





「なに?」

「いや…ナマエって、なんか隊長を擁護すること多いよなって思って」

「擁護?」

「うーん…肩を持つって言うのか?」

「ん?あたしは別に思ったこと言ってるだけ」

「でも、抵抗とか持ってないだろ」

「エースは隊長、嫌い?」

「…得意では、ない」





それを聞いて改めて、ああやっぱりな、と苦笑いがこぼれた。

指示は的確。戦闘センスもある。
でもあの無口な性格と厳しさ、初対面の意地。

認める部分もあるが、苦手意識も拭えない。





「隊長、ああ見えて優しいよ?トンベリが証拠じゃない?」

「なんでそこでトンベリが出てくるんだ?」

「良い人じゃなきゃ懐かないでしょ、フツー」





単純な話だ、と笑った。

抱いている己の本心は…、いくらエース達と言えど口にするつもりは無かった。

照れくさいという思いや、秘密にしておくことがなんとなく楽しいという気持ち。
そういうものもあるが他にも立場上のことなど、理由は色々だ。

でも好意を抱いている以上、その人を高評価されれば嬉しくなるものだし、その良さをわかって貰いたいという感情も湧く。

あたしは初めてのこの感情を楽しんでいた。

最も、今はそんなことを考えている場合ではないが…。





「こっちから連絡が届かない様に、向こうからも連絡が出来ないのかもね」

「この状況下じゃ何もわからないな」





あたしはCOMMに指をそっと這わせた。
でも、その仮説があっているのだとしたら…今頃、朱雀は大騒ぎになっているのだろうか。





「ねえ、エース」

「ん?」

「朱雀にも、あたしたちが女王を暗殺したって偽情報、伝わってるかな」





捕まってしまったら、それを否定することすら出来なくなる。
だからあたしたちは逃げているわけだが…。

あのハゲ…いかんいかん。
軍令部長あたりが騒ぎたてて、また一波乱ありそうな気がしてならない。

それを思うと、なんだか憂鬱になった。





「だから、この状況じゃ何もわからないよ。今はとにかく魔道院に着く事が先決だろ」

「そーだね…」

「…そろそろ見張りの交代だ。次は僕たちの番。ほら、行こう」

「うん」





先を思う憂鬱。
でも、それとはまた別の嫌な渦をもうひとつ…あたしは感じていた。

嬉しさや楽しさ、それを感じる大きさだけ芽生える逆の感情…心配や不安。
好意の大きさ程…それらの感情も強くなる。

…覚えてるんだから、大丈夫だよね。
そうだ、今は早くルブルム領に入ることを考えないと。

エースに言われた事を思い出し、背を向けた彼を追って、あたしも歩き出した。



To be continued


マキナの件、ガン無視…!(笑)


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