クスリを盛られて






クラサメ隊長とナインたちの一騒動。
新しく0組の仲間になったマキナとレムとの「よろしくねー」なんていう挨拶。

それらを終えたあたしたちは、それぞれ自由に散らばり、院内での生活をスタートさせた。

たぶんエースは裏庭で昼寝。
ナインはキングとかに「クラサメいけすかねえぞ、コラァ!」とか愚痴ってる。
と…まあ、そんな感じで、だいたい皆が何してるかは想像つく。

新しく仲間になったマキナとレムも、ふたりとも良い子で感じも良かったから嬉しい限りだ。

そして、問題のクラサメ隊長。
どうやら皆的には第一印象はだいぶよろしくなさそうだ。
ナインとか、ケイトとかは特に。…エースもかな?

マザー以外の人から命令されるのは気に食わないんだろう。

だけど…クラサメ隊長は、落ち着いてるし、しっかりしてそうだし。
あの騒動は、そもそもマザーの許可出てるって言ってるのに喧嘩売ったナインが悪いと思うし。

それを言ったらセブンに「ナマエは意外と冷静だよな」って笑われた。
意外ってなんだ、意外って。

でもまあ、あたしは少し異端、なのかもしれない。
あたしもマザーの事は大好きだけれど。





「えーと…あっちがクリスタリウムで…この魔法陣でサロンとかリフレに行けるわけか…」





そして今。

あたしはひとり院内をうろうろと探検していた。
0組モーグリことシンク命名のもぐりんにも院内を回ってみることを勧められたからだ。

…まあ、実際はどんな施設があるのかとさっきからずっと気になってうずうずしてたんだけど。





「ちょっと君」

「…はい?」





さて、どこからいこうか…とキョロキョロしていた時だった。

とんとん、と後ろから肩を叩かれ、くる、とゆっくり振り返る。
そこには白衣を着たメガネのおにーさんが立っていた。





「なんですか?」

「君、0組だろう?」

「…そーですが?」





誰だこの人は。

ばりばりそんな顔をしてたんだろう。
おにーさんはメガネを掛けなおしながら「そんなに警戒しないでくれるかい?」と、自己紹介をしてくれた。





「僕はカヅサ。一応、武装ギルドの研究者のひとりだよ。よろしくお願いするね」

「…はあ…」





まあ白衣着てるし、感じ的に研究者さんだろうな…とは思ってた。

でも一応、ってのは何だろうか。
微妙に気になるけど、深く考える前に、カヅサさんは話を続けた。





「実はね、0組にお願いしたい事があるんだよ」

「お願い…?」

「そう。一緒に来てくれないか?君も忙しいだろうから、時間があればでいいんだけど」

「…一緒にですか?」





うーん、お願いってのは…なんだろうか?
それはなんとなく気になる。

でも、0組は幻だとか、七不思議に加えられようとしてただとかマキナとレムが言ってたし…。
前の作戦で、あたしたちだけはクリスタルジャマーの影響を受けなかったとか、なんか色々心当たりはある気がする。

それに、折角話しかけてくれたわけだし…。





「わかりました。あたしでよければ」

「本当かい?じゃあ、案内するよ。ついてきてくれ」





了承し、微笑んだカヅサさんは歩き出した。

つれられて辿りついたのはクリスタリウム。
クリスタリウムの中は、物凄い蔵書の数だった。
「すご…」と呟いてしまうくらいに。

でもそんな本たちにも負けないくらい、カヅサさんに連れてこられた場所はもっと衝撃的だった。





「ほら、ここが僕の秘密の研究所なんだ」





つれてこられたのはクリスタリウムの奥。
何もないかの様に見えたその場所で、まるで手品の様にガラガラ…と音を立てて開いたのは…なんとまさかの本棚だった。

これは…、ちょっとテンション上がるじゃないか…!





「…まさに秘密の研究所ですね…!」

「だろう?さ、入って入って」





本棚の奥に広がっていた小部屋。

こういう仕掛けは大好きだ。
だって何だかわくわくするもの。

本の数に目が回りそうになってた一方で、いいものを見せて貰った。
これだけでもカヅサさんについてきた価値はあった気がする。

しかし…好奇心に引きづられ、カヅサさんの研究所に入ったところで…その考えはぐるりと一変した。





「…フフッ…」

「…!?」





聞こえた小さな笑い声と、プシュー…とかいう変な音。

気付いた時にはもう遅い。

や…ば…い…。
そう思ったのを最後に、あたしの思考はそこでぷつん、と途切れてしまった。












「やだなー、そんなに怒らないでよ。ちょっとした興味が高じちゃってさ…」





頭がぼやーっとする…。

そんな中で聞こえてきた、聞き覚えのある声。
ええと…確か、そうだ…カヅサさんの声だ。

ゆっくり瞼を開けると、知らない天井。

…どこだ、ここは…。

そう思いながら視線を動かすと、なにやら言い訳をしているカヅサさんと…。





「…クラ…サメ…隊…長…?」





映った彼の名前を呟いた。





「あ!ほら、薬が切れて来たよ!」





あたしの声に気付いて、カヅサさんがブンブンとクラサメ隊長に手を振った。

…なにが、あったんだっけ…。
ぼんやりする頭で思い出していく。

えーと…カヅサさんに頼みがあるからついてきて欲しいって言われて、秘密の研究所やらにつれてこられて…。

そしたら急に何か意識が遠のい…てぇ!?

そこまで思い出してハッとした。
ちょっと…待て待て。おかしいおかしい。色々おかしい。

クラサメ隊長は、一度だけチラッ…とこっちを見て、あたしの意識が戻った事に気がつくと部屋を出ていこうと背を向けてしまう。

それを見てあたしは飛び起きた。
ちょっと待って…!こんなとこにひとりで残されるの嫌…!





「クラサメ隊長、待っ…うぎゃあ!?」





どしーん!
まったく可愛くない悲鳴と共に響いた音。

というか、可愛いとか可愛くないとかそんなの気にしてる場合じゃない。

なぜなら、カヅサさんに盛られた薬の効果か寝起きだからか何か知らないが、あたしの体には力が入らなかった。

そしてそのまま…顔から、どしーん…。

つまり、激痛だ。





「…〜〜〜っ!!」





いったあああーーー!!

あまりの痛さに悶え苦しむ。
痛すぎて声も出ない。

顔を押さえてぷるぷる震える。





「…顔を上げてみろ」

「…へ、」





するとそんな声が落ちてきて、肩を支えられ体を起こされた。

そして顔を上げさせられ、見えたのは淡い光。
溜め息と共に、ぼそっと唱えられたソレはケアルだった。

痛みがやんわりと引いていく。





「…クラサメ隊長…」

「……。」





光が消えて、見えたクラサメ隊長のお顔。
じゃあ…今のケアルはクラサメ隊長…?

どうやら顔面強打は流石に不憫だったらしく、足を戻してくれたようだ。





「いやー、クラサメくん優しいねー!…だから睨まないでくれって」





はっはっは!と笑うカヅサさんをクラサメ隊長は物凄い鋭い目で睨みつけた。
すると途端に小さく肩をすくめたカヅサさん。

…なんか、今のでふたりの関係がわかった様な…。
その前にこのふたり、知り合いだったのか…。

今の痛みで完全に頭が冴えた。





「…お前は、確かナマエだったな」

「え、あたしの名前知ってるんですか?」

「私は指揮隊長だ。当然だろう」

「…へえ…」





感嘆の息が出た。

もう、名前…覚えてくれてるんだ。
たぶん、あたしたちの名前15人分。

それって結構凄い事だと思う。





「しかし…間が抜けているな。幻の0組が聞いて呆れる」

「あ…う…、返す言葉は…ございません…」





しかし最後に鋭い指摘。

…そりゃ、ここが戦場だったら完全に隙だろう。
これは、痛い…。





「クラサメくんは相変わらず真面目だねえ…。しかも照れ屋だ」





感心したのはカヅサさんも同じだったらしい。

相変わらず…ということは、そういう性格なんだろう。
…うん、凄い。

そして照れ屋…。
それってもしかして、さっきのは照れ隠しととって良いのだろうか…?

隊長の顔を見ながらそんな事を考えていると、ふいに何やらカヅサさんから視線を感じた。
…よくわからないが楽しそうな笑みを浮かべてる…。





「そう言えばまだ名前を聞いていなかったね。そうかい、ナマエくんって言うのか」

「え、ええ…」

「筋肉量とかの問題で男性の方が興味深いんだけど…いやあ、女の子だって言うのに君の体は実に興味深かったよ。全体的にバランスがいいって言うか…魔力もなかなかのものだし」

「…な」





筋肉量…!?バランス…!?

その言葉に顔が引きつった。

ちょっと待て…!
寝てる間に何されたんだ、あたし…!

初対面時とは違った意味で、なんだこの人は…!


完全にドン引き。
少なからず恐怖を覚えたあたしは無意識に、置いてかないでくれと目の前のクラサメ隊長のコートを握りしめていた。



To be continued

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