最後に何を思いましたか






「あった…」





小高い丘の上。
ビッグブリッジ戦線にて、秘匿大軍神アレキサンダーが薙ぎ払った大地を一望できる場所。

…その秘匿大軍神の詠唱が召喚が行われた場所。

そんな場所にひとつ落ちていたそれを、あたしはそっと拾い上げた。





「ノーウィングタグか?」

「うん。ナギに頼まれたの」





話しかけてきてくれたエースに拾い上げたタグを見せた。
エースはそれを覗き込み、刻まれた名前を読み上げた。





「クラサメ・スサヤ…僕たちの隊長だった人か?」

「うん、そうだね」





ナギからの依頼。
それはあたしたちの隊長だった人のノーウィングタグを回収して欲しいというものだった。

回収完了。あとはコレを持ち帰るだけ。
これで無事に任務完了、ってね。





「…クラサメ、か…」

「ナマエ?」





クラサメ・スサヤ。
掌の中にあるタグに刻まれた名前を指でなぞり、ぎゅっと握りしめた。

あたしのそんな様子を見てエースは少し不思議そうな顔をしていたけど、あたしはそのまま丘から見える景色を見つめていた。

今は何より、なんとなくだけど…この景色をよく見ておきたかった。





「どうかしたのか?」

「ここ、クラサメって人が最後に立っていた場所なんだよね。それでこれが最後に見た景色」

「ああ…、まあそうなるんだろうな」





エースはそれ以上、何かを思うことは無かったみたいだ。

いや、それはあたしだって同じ。

だけどそれは当たり前だ。
だって死者の記憶はクリスタルによって消されるのだから。

だから死者への関心など普通は抱かない。
悲しみにくれたり、嘆くこともない。

でもあたしはこのクラサメという人に思う事があった。

あたしは確かに叫んでいた。
あの戦いの時、秘匿大軍神の直前にクラサメという名前を。

誰かを探していたのは覚えてる。
だけどそれが誰だったのかは覚えていない。

だから多分、そのクラサメって人を探していたんだと思う。





「…隊長さんがどうかしたのか?まさか覚えてるなんて言わないよな?」

「まさか!全然覚えてないよ」

「だろうな」

「あはは、なにそれ。エースが聞いてきたのに」





覚えてないよ。全然覚えてない。

でも…叫んでいたことと、あの戦いからある胸の喪失。
そして記していた日記を見てから…。

なんだか気になるんだ。

ねえ、クラサメ隊長さん。
あたしきっと、あなたを忘れる直前まで、あなたのこと考えてました。





「…あなたは最後に、何を思っていましたか?」





人は死に直面した時、今までの記憶を走馬灯のように見ると言うけれど…あたしのことは思い出したりはしてくれていないだろうか。

あたしは考えてた。
だから相手も、思い出してくれていたら…なんて。

そんなことを思うあたしは、少し変かもしれない。

…自分でもそう思った。



END


このあとカヅサに目玉の標本を届ける話に繋がる…感じ。


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