髪紐



色とりどりの小物たち。

それぞれに独特の特徴を持つそれらは、いつまで見ていても飽きがこない。
あたしはしゃがんでじっと、並べられた小物を眺めていた。





「どれかお気に召したものがありましたか?ナマエさん」





すると、頭上から声が降ってきた。

顔を上げれば、ニコッという笑顔。
緑で中に渦の見えるその瞳を、少しだけ細めて。

笑顔の相手は、リンさん。
…こう言っちゃ難だけど、掴みどころないっていうか…そんな笑い方をする人だと思う。





「うーん、全部素敵です!どれも綺麗で!あー、悩むなあ…」





リンさんはスピラ中から、特産品だとか、伝統芸術だとか…。
そういうものを集めて売る予定らしい。たとえばビサイド織物とか。

あたしはそれを今見せて貰っているところ。

教えてくれたのはリュック。
「少し値が張るものもあるけどアクセサリーとかもあるし、見せて貰いなよー!」みたいなね。

でも勧めてくれただけの事はある。
並んでる小物たちは本当に綺麗なものばかりだった。
ネックレス、イヤリング、ブレスレット、リング、髪留めなんかもある。

折角だから何か買おうかな、とかも思う。
でも確かにお値段の方がアレなのも事実で…、だからどれにしようか、うんうん悩んでる最中だった。





「…お…?」





唸ってると、その時ひとつ、ふと目に止まったものがあった。
それは鮮やかだけど、どこか渋い…でも凄く良い色の髪紐。

それを見て、ふいに…あたしはある会話を思い出した。





『今更だけどさ…アーロン、まだ髪伸ばしてるんだ?』





いつだっただろう。
宿目的に立ち寄った旅行公司でのこと。

いつもの赤の上着を脱いだ肩に見えた束。
それは結わいたアーロンの髪。

10年前から、彼の髪は長かった。
それが今もなお、変わっていなかった。





『嫌いか』

『ううん、別に。似合ってると思う』





そのあと三つ編みして遊んだら、また思いっきりの拳骨が降ってきたっけか…。

本当、あの拳骨手加減無かったよな。うん。
なんなんだろうね、仮にも女の子なんだからさ、もうちょっとコツン、とか…そういう風には出来なかったのかね!ガツン!って何なの!

…って、まあ思い出して微妙に腹たったけど…まあいい。
今となっては大切な思い出には変わりないから。

そんなの思い出したら、あたしはその髪紐から…目が逸らせなくなってた。





「おや、その髪紐がお好みですか?」

「あー、えーっと」





思わず手に取るとリンさんにそう言われて、あたしは苦笑いした。

いやね、流石にわかるよ。
綺麗だけど、あたしには渋すぎるだろうよ…ってこと。

でも…思っちゃったんだもん。
似合いそうだな…っていうか、ね…。





「あの、じゃあコレにします」

「ありがとうございます」





気付いたらつい購入してた…。

リンさんは変わらずの笑顔でとくに何かを追求することもなく、包んでくれた。

いや絶対にアンタには渋すぎるだろ、とは思ってたと思うんだよね。
でも買ってくれればいいのか指摘はすることなく…ううん、商売上手だ、とかよくわかんない感心を覚えてた。





「………。」





…さて、問題はこっからだ。

あたしは髪紐を手に、じーっと…ひとり考えていた。
…買っちゃったけど、どうすんのコレとね。





「…んー…」





ただ…何度見ても思うのは…、やっぱ…似合うだろうなあ…ってこと。

そんなこと思っても、もう仕方ないのはわかってるんだけど…。





「あー…なんか自滅してるーう…」





頭を抱えた。

渡したら、どんな顔したかな。
喜んでくれたかな、付けてくれたかな。

想像が、どうしようもない螺旋を生む。

もう、渡せないのに…。
こんなの買ったって…仕方、ないのに。

そんなこと…考えたって。


なんだか…、すっごく寂しい気持ちになって…少しの間、俯いた。





《俯いているのは、お前には似合わん》





でも、その時…思い出した。
頭の中で、響いた声。





「……よし、」





それを思い出したら、自然と顔は上がった。

そのまま髪に手を伸ばし、ぐいっと集める。
俗に言うポニーテール。きゅっと、紐で結いあげた。

折角買ったんだから、使わなきゃ勿体ない。





「ん、こーゆースタイルも…いいんじゃない?」





鏡を覗き込んで、にっこり笑う。

だってさ…。

ね、言ってたよね?
…背を伸ばして、俯くなってさ。





「あれ?ナマエ、髪結ってるの?似合うじゃん!」

「えへ、ちょっぴりイメチェンしてみました!」





その後、リュックに見せたら、似合うって言ってくれた。

でもやっぱり、指摘もされた。





「でもさー、それ。その紐、ナマエはちょっと渋くない?」

「いいの!でも悪い柄じゃないでしょ?」

「まあ、悪かないけどさ。うん、自分が気に入ってんなら、良いと思う」

「うん、超お気に入り」





ブイサインしてやった。

確かに、今のあたしには…まだ全然似合わない、大人の色合い。

でも…あたしって、単純。
…本当に、単純な話。

この紐見てると…自然とアーロンのこと、思い出す。
色合いとか、渋みとか…、まあ理由はいろいろだけど。

でもね、だからこそ…なんだか強くなれた、気がした。

…アーロンみたいに、ね?


END



ろあ。様リクエスト。
今回は凛と前を見つめてのアーロン。
渡せるわけないのにアーロンにプレゼントを用意して切なくなってしまうという内容でした。

まず、一番悩んだのは…何を買うか、でした。
剣はちょっと本当に買ってもどうしようもないし、お酒とかもなあ…とか、あーでもない…こーでもない…と、ぐるぐるぐるぐる。まさにスピラ!!(何)

結局、髪紐で落ち着いたのですが…よろしかった、ですかね?
アーロンが何で髪結んでるのか、よくわかりませんけど…。

時期は10-2の始まる前くらいと設定して書きました。

ていうか切ないのを希望されていたのに、あんまり切なくなってない…ですね。(汗)
しかも、なんだか本編からの台詞濫用しまくりなお話になってしまいましたが…少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです…。

リクエスト、参加してくださってありがとうございました!









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