夢の続き



「…おはよ」





キイ…扉の軋む音。
扉を開いた先にはひとりの男。

欠伸をして、瞼を擦りながら眠たい声でそう言えば、男はちらりとこちらに目を向けた。





「随分と遅いお目覚めだな」

「…そー言うなら起こしてくれればよかったじゃん」

「よだれを垂らして爆睡していたのでな」

「よっ…」





よだれ!?

あたしは目を見開いて、バッ…と口元を押さえた。

けどそこですぐ気付く。
そんなもん垂らしてない。ていうかそれは流石に気付くだろ。

見ると目の前の男はくつくつ笑いだした。

…ああ、なんか舌打ちしたい気分だ。
このおっさん、性格ひんまがってるぞ…こんにゃろう!





「ったくもー」





かたん、と椅子を引いて席に着く。

と、同時に今度は奴が立ち上がった。

そして手を伸ばし、注いでいく冷えた飲み物。
そのコップをことん、とあたしの前に置いてくれた。

……な、なんだよ、もう…。





「……ありがと、アーロン」





アーロン。

彼にお礼を言いながら、あたしはそのコップに口をつけた。

朝の眠気覚まし。
冷たい水が喉をうるおしていく。…おいし。





「ね、今日はどこに行くの?」

「今日は、西に向かおうかと考えている」

「西?」

「小さな町がある。召喚士の旅では寄る必要のない町なのでな、お前は訪れたことが無いだろう」

「アーロンはあるの?」

「随分前だがな。この町からもそんなに離れてはいない。今日中には着けるだろう」





だんだん目が覚めてきて、今日の予定をアーロンに聞く。

今日は西、か。

行ったことのない町かー。ちょっと楽しみかもー…!
話を聞いて、少しずつ自分のテンションが上がってきてるのがわかった。

あたしはガードとしてしか旅したこと無いから。
そのルートから外れたスピラの世界は、まだ知らない部分がたっくさんある。





「今になって実感したけどさ、召喚士の旅ってあれでも最短ルート進んでるんだね」

「先を急ぐ旅だ。当たり前だろう」

「まあ、そうですケドー」





各寺院を巡りながら、最果てザナルカンドを目指す旅。

…あの旅を終えて、もう誰もその旅をする必要が無くなったスピラ。
訪れた、永遠のナギ節。

その中にある今。
スピラに残ったあたしは、この人…アーロンと一緒に、また旅をしていた。

あたしが、元の世界に帰る方法を探すために。
…今後どうするにすれ、見つけておくに越したことは無いだろうって。





「ね、でもさあ、シンがいなくなったらちゃんちゃんするかと思ってたけど、いなくなったらいなくなったで問題が起こるんだね?」

「スピラはエボンを中心に回っていたからな。無理もないだろう」





反逆者だの何だの言われてエボンの本質に気付いてたあたしたち…ていうか、あたしはスピラの人間じゃないからその時点であんま関係ないんだけど…。

エボンの教えが崩れた今、寺院は新エボン党として活動をしている。

何かに裏切られた時って、それに完全に掌を返すか、逆に裏切られたことを信じられず更に盲目的になるかのどちらかが多いとか。
…まあ、コレ、アーロンが教えてくれたんだけど。

…現にその通りだったし。

エボンをもっと信じる人もいれば、別の組織も出来始めてるって話を聞いた。…青年同盟、だったかな?

その狭間でぐらぐらしちゃってる人も勿論いるわけで…。
ビサイドに留まってるユウナは、そういう人たちが尋ねて来ててんてこ舞いになってるらしい。





「ユウナ、今日も笑顔で相談乗ってるのかなあ…。あたし絶対出来ないなー」

「お前に相談などするだけ時間の無駄だしな」

「うっさいやいっ」





じろっと睨んどく。
ええ、否定はしませんけどね!ふんだ!

…なんて、いいつつ。
でもそれって本当にそう。

実際のところ、アーロンとあたしって伝説のガード…らしいから。
しかも今回の功績で、二度ナギ節を呼んだ英雄なんて…更にグレードアップしちゃうし。

一か所に留まると、そういう人があたしたちのところにもやってくるのだ。

それも旅に出た理由の一つ。
アーロンは…、連れ出してくれたんだよね…。
自分が御免だからだ、って言ってたけど…たぶん、そう。





「ねえ…アーロン」

「なんだ」





そうなんだ。
いつだって、そう。

嫌味を滲ませても…でも、いつも助けて…手を引いてくれる。





「ありがとう」





そう言えば、アーロンは眉をひそめた。





「…水の礼なら聞いたぞ」

「いや、そっちじゃないです」

「…ならば何だ突然に。気味の悪い…」

「気味の悪いて…失礼だな!」




…本当にこんにゃろうだ。
…このおっさんめ…どうしてくれようか本当に!





「別に、なんとなくだよーだ」





ちょっと拗ねた素振り。
やけくそみたいに、ぐいっと水を飲み干してグイッと拭ってやった。

するとアーロンは呆れたのか、ふっ…と息をついてきた。

少しむっとする…。
なんだその溜め息は!コラ!

また、ちょっと睨みつけてやる。
でも少し間を置いてから、こう言われた。






「…礼などいらん」

「へ…?」





いきなりの台詞。
あたしはきょとんとした。

アーロンはそんなあたしを見ると、いつものフッという笑みを溢した。





「俺は…ブラスカとジェクトとの約束を守るために、今まで歩んできた」

「え?う、ん…?」





そしたら今度はそんな話。

本当に突然。なんでそんな話…。
あたしは少し眉を下げた。

…ブラスカさんとジェクトさんとの約束を守るために。
ふたりの為に、アーロンは物語を描いていた。





「俺が自身で決めた事だ。後悔はしていないが…」

「…うん」





…その姿は、とても誇らしく見える。
あたしは…そういうこの人が、すごく…好きだし。

でも、それがどうしたのだろう。

そう思ってるあたしに気付いてるのかどうなのか、アーロンは続けた。




 
「だから、全てにカタがついた今は…自分の為に進みたいと考えている」

「自分の為…?」

「ああ。だからナマエ。俺はお前に出来ることがあれば…それをしてやりたい。それが、俺の為になる」

「…えっ…」

「お前が幸せそうに笑いさえすれば…、それが望みなのでな」





頬が熱くなったのを感じた。

あ、あたしが幸せに笑うのが……アーロンの為…。

…すごい台詞…。
物凄いこと言われた……!





「……だから、礼などいらん」

「そ、そー…ですか…」





なんとなく敬語。
だって、なんか…恥ずかしいもん…。

でも…嬉しくないわけがなくて。

一方で、アーロンは「宿主と少し話をしてくる」と立ち上がって背を向けた。
もしかしたら、向こうにも気恥ずかしい気持ちがあるのかもしれない。

…なんだか心地いい。あったかい気持ち。
この気持ちに浸りたくなって、残されたあたしはふっと、目を伏せて閉じた。


でも…次に目を開けたら。
…映ったのは…まったく違う光景だった。











「……夢、か…」





映ったのは天井。

…頭がぼうっとする。
寝てたんだから当然か…。

くあ…と欠伸を一つして。
むくっと、起き上がる。

手、は胸元に触れていた。
そこには、貰ったあの赤い石。

…もしかして、これのせいだったり?





「……すごい…夢だった」





朝日に目を細めて、思い出した。

すごいこと言われた。
…ていうか、言わせた…?

だって、夢だし。

そう思ったら、なんか…無性に、うずっとした。





「…あー…うー…っ」





なんか恥かしくなって、あたしはボスン!とベットにもう一度倒れ込んで、枕をぎゅっと抱きしめた。

あー、恥かしっ!
なにしてんだもう!
あたしってば!!

誰に見られたわけじゃないけど、なんかね…!

しかも夢の中でも寝てて、起きたってどういう事だ。
なんかややこしいじゃないか…!!

なんて、なんか色んな意味でぐるぐるした。
バタバタゴロゴロ。ベッドの上で悶える始末だよ…!


……でも、しばらくしてピタ…と、止まった。





「…………。」





じっと…思い浮かべる。

だって…同時に、思ったから。

…今の夢なんか、ちょっとだけリアルっていうか…。
…いや、やっぱり夢だから…ちぐはぐな部分、たくさんあるんだけど…。

でも、なんだか…ちょっとだけ変な夢…。
妙にはっきり…覚えてるし。

…アーロンが、今もスピラにいたら…。
……ああやって、旅して…一緒に、探してくれたのかもしれない。

あたしはもう一度体を起して、座り込む形で枕を抱いた。
そして、呟いた。




「…お前が幸せそうに笑うのが…望み…」





夢の台詞。

夢だけど…、夢の中の台詞だけど…。

でも…なんだか、もしかしたら…。
もしかしたら…そうやって、本当に…あっちの世界で…。

そう思いながら、また眩しい朝日を見つめた。

朝日の射す光って…なんとなく、幻光虫に似てる気がする。





「………まぶし…」





…少し、自惚れてる…かな?

でも…本当に。
本当に思ってくれてるかも…なんて、ちょっとだけ思った。



END



チイ様リクエスト。
内容は、凛と前を見つめてのif。
アーロンが最後に消えなくて、ヒロインとの未来話とのことでした!

連載のリクはやっぱり嬉しいですー!

時期は、10−2の前…というか、むしろ映像の永遠のナギ節より前でしょうか…。

たぶんあのまま消えなかったとしたら…元の世界に帰る方法を一緒に探してくれるんじゃないかなあ…と。
あと永遠のナギ節で、新エボンか青年同盟かをユウナに相談に来てる人が居たので、アーロンがいたら、アーロンにもきそうかな…とかいう妄想です。←

でも死人だと言う事実を変えるとFF10のストーリーが破綻してしまうし、生き返してしまうのも何だか気がひけてしまったり。

だからその辺うやむや…。(おい)
色々掘り下げるとお話にも書いた通り、ちぐはぐしてしまうので夢オチに…。

…結局夢オチなんていう形に逃げてしまってスミマセン…!
どうやって締めればいいかわかんなくなったってのもあるんですが…。←
完全に私の足りない頭のせいです…!

他にも色々考えたんですよー。
方法が見つかるまで傍に居るとか…、でもそうすると本編の結末が冷たく見えそうで。(笑)

でももしもの未来を想像するのはとーっても楽しかったですー。(笑)

こんな作品ですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです…!
企画に参加してくださってありがとうございました!








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