その視線に少しでも
「おおおおおー!すっごーい!!」
次の街に向かう途中の小休止。
その時…パン、と響いたひとつの銃声。
直後に上がったのは明るい聞きなれた…愛らしい声。
それはナマエの…絶賛の歓声、だった。
「…大したことではない」
「またまたー、そんな御謙遜なさらずに!よくもまあ一発で当たるよね、ホント」
くるりと回し、鮮やかに腰のホルダーにしまわれた銃。
それを見て更にニコニコと、楽しそうに笑顔を浮かべるナマエ。
…それはいい。
ああ、笑ってるのは…それはいいんだ。
俺は…ナマエが笑ってるのは、好きだから…。
出会ったころから…よく笑う奴だった。
最初は圧倒されてたけど、慣れてくると…その笑みは、とても心地いいもので…。
いつしかそれを見るために目で追ってる自分がいた。
だから、ナマエが笑ってくれるのは俺としても嬉しい…。
けど…今は、ちょっと複雑だ…。
問題は…その笑顔が向けられている先にあった。
「やー、格好いいねえ、ヴィンセント!」
笑顔が向けられている先は…なびく赤いマント。
今しがた現れたモンスターを仕留めたヴィンセント。
ナマエは今、そのヴィンセントの銃の腕前にご執心だった。
目を輝かせて。これでもかと言うくらい誉め讃えて。
……意中の相手が他の男を誉め、しかも格好いいとまで言ってるのを見て、気分の良い奴がどこの世界にいるだろう。
「クラウド、顔、怖いよ?」
「…エアリス」
するとその時、茶色の髪を揺らしてエアリスが俺の顔を覗き込んできた。
グリーンの瞳は何もかも見抜いているかのように、そのままクスリと笑う。
「ふふっ、眉間のしわ、凄い」
「…そんなことない」
「鏡見てから言おうよ」
「…別に、」
「ナマエのこと、気になるんでしょ?」
その一言に、びくっ、と心臓が跳ねたのを感じた。
けど、そんなの絶対に悟られたくなくて。
「興味ないね」
俺は平然を装って、目をそむけた。
「もう、素直じゃないんだから」
その様子にエアリスは頬を膨らませていた。
というか……なんで見透かされてるんだ。
俺って…わかりやすいのか…?
少し不安になった。
でも、素直になんて…なれるわけないだろ。
だって…、俺はナマエの何でもないんだぞ。
…一瞬、ボスなんて単語が過ったのは…見ないふりをすることにする…。
…頭の中では、思ってる。
距離が近いとか、もう少し離れてほしいとか。
そんなにヴィンセントばかり誉めるなとか。
だいたいあんたの武器はソードだろ。ソードなら俺の方が…とか。
けど、そんなこと言えた立場じゃない。
…でも、嫌なものは嫌なんだ…。
「…撃ってみるか?」
「え、いいの!?」
「ああ、だが…まずは弾抜きの状態で構えるところからだ」
そんな俺の気持ちなどナマエが知るはずもない。
俺の内心がモヤがかる一方で、弾んでいくナマエの声。
…ナマエは…、わりと相手の空気に溶け込むのが上手い。
ああ見えて、案外空気が読めてる。
読めるからこそ、相手も自然と気を許す。
俺もだし…。
普段寡黙なヴィンセントも、きっと例外じゃない。
だから「撃ってみるか?」なんて台詞が出てくるんだろう。
ヴィンセントの手から、ナマエの手に渡る銃。
カチャ…と構えたその姿は、なかなかサマになっている…ような気がする。
「こんな感じかな?」
「…もう少し脇を締めてみろ」
「こう…?」
「ああ」
丁寧に、ナマエに銃の扱い方を教えていくヴィンセント。
……当然ながら、やっぱり近い…。
ナマエもヴィンセントも、俺が考えているような意味が無いのはわかる。
けど、ふと…ヴィンセントの手がナマエの肩に触れたのを見た時はさすがに…。
「……ナマエっ」
無意識に、体が動いていた。
「おお?クラウド?なに?」
自分の方に奪う様に、ナマエの、逆の肩を掴んでいた。
そんな俺を不思議そうに見上げるナマエ。
…ナマエの目に俺が映った。その事実に一瞬だけ満たされたような気持ちを覚えた。
……けど、ここからどうするんだ。
何も考えずに動いたことに今更後悔した。
後ろではエアリスがまたクスッと笑ったのが聞こえた。……笑うな。
「クラウド?どーかしたの?」
「いや…その、」
「ん?」
「…て、」
「て?」
首を傾げられる。
……手。
ヴィンセントの手…とは言えない…。
「…手合わせ、しないか?」
「ハイ?」
咄嗟にでた言葉。
それにナマエは顔をきょとんとさせた。
…というか、それは言った本人である俺もだ…。
手合わせって…いったいどこから出てきたんだ。
たぶん、銃のレクチャーを見ていたことに対して刷り込みの様に出て来たんだと思うが…。
けど、ここまでいったら引けない…。
「手合わせって?」
「いや…だから、剣のだ。銃もいいけど、どうせやるならそっちの方が実用的だろ?」
口が勝手に動く。
…多分、必死だった。
どうやって自分の方に来させるか、って。
くだらなくて情けない、どうしようもない独占欲が覗いてる。
それと同時に、そんな感情を誤魔化そうとしてた。
するとどうだ。
そんな俺の言葉を後押ししてくれたのは…目の前のこの男だった。
「…それもそうだな。ナマエ、クラウドと稽古しておけ。お前たちの手合わせは外の方がいいだろう」
「ヴィンセント」
「…銃ならまた暇を見つけて教えよう」
「ほんと?やった!実はクラウドに見てほしい技とかあったんだよねー。うし、じゃあクラウド、お手合わせ願います!」
「え…」
くるり、ナマエの視線が俺に向いた。
…また、満たされた感覚がする。
ニコッと、いつもの笑顔が目の前に映った。
「よーし、本気でやるよー?クラウド、覚悟!」
「え、あ、ああ…」
なんか…なんとかなった、みたいだな…?
「準備いい?」
「……元ソルジャー、嘗めるなよ?」
「上等だいっ!」
ショートソードを抜きながら、ナマエはまた笑う。
それを見たら、こっちもつい綻んだ。
…けど、ナマエが絡むと…どういうわけか、不思議な感じがする。
いつもの平然が、途端に意味を無くすような…。
俺の中の何かが、はがれていくような…。
でも嫌な感じじゃない…。
何だろうな、この感覚…。
けど、やっぱりこんな小さな嫉妬は…格好悪い…。
もっと余裕が欲しいと思った…。
END
蒼空様リクエスト。
今回はヴィンセントに嫉妬しちゃうクラウドでしたー!
マイヒーローの番外でヴィンセント絡みの話を見てみたいとのことでしたので、マイヒーロー設定に。
いやあ、連載のことを言っていただけるのは嬉しい限りです…!
しっかし…時期はいつだ、と言う。(汗)
エアリスがいるのでDISK1ではありますが…。
あとヴィンセントに銃のレクチャーみたいなのは本編のどこかでいれたいなー…と思っていたものでして…。
なので、いつか本編でもいれるかも…。そう言う意味では、伏線っぽくなったかな…?
ラストも若干、別の伏線っぽくなってますが…。
なんて、なんかやりたい放題書いてしまってスミマセン…!
少しでも気に入って頂ければ嬉しいです…。
リクエストしてくださって、ありがとうございました!