特別な季節
頬に触れる、冷たい風。
『もう、クラウド!お仕事行くんならちゃんと寒くない格好しなきゃ駄目だよ!』
出掛け間際、そうマリンに渡されたマフラー。俺はそれに、ぐっ…と顔を少しうずめた。
これは…マリンに感謝、かな。
季節は冬。
街はいくつもの光に彩られて、この時期独特の雰囲気が包んでいる。
もう…クリスマスだな…。
特にクリスマスに思い入れがあるわけじゃないけど。
ぼんやり…そう思った。
「……〜〜♪」
そんな時、ひとつの声が耳に入った。
いや、正確には歌声。
俺はなんとなく、視線を向けた。
すると見つけたのは小さな人だかり。
その中心には、俺とそう歳の変わらなそうな女がひとり。
ギターを手にして、歌っていた。
『…〜〜♪』
…ストリートライブか。
頭の中でそう思いながら、でも少し…自分に不思議な感覚を覚えた。
ラジオから流れる歌。テレビから聞こえる歌。
俺は、誰かに「良い曲だよね」と言われても…今まで淡白な返事しか返さなかった。
ましてやストリートライブなんて見かけても…。
『…〜〜〜♪』
『………。』
目の前で紡がれていく歌。
優しく、透き通った声。
でもどこか力強くて、惹きつけられる。
…その時、俺は足を止めて、彼女の歌に聴き惚れていた。
「…クラウド?どうしたの?」
「ナマエ…」
さらさら、と…綴られていく歌詞。
その様子ををじっと見ていると、見られていることに気がついた彼女が顔を上げた。
不思議そうな顔をして、心地いい…あの透き通った声で、俺の名前を呟く。
俺は首を振った。
「なんでもない。ただ…もうすぐクリスマスだなと思っただけだ」
「え…?うん、そう…だね?」
何を今さらそんなことを。
多分、そんな感じだろうな。
相変わらず不思議そうな顔をしてるナマエに、俺は思わず笑ってしまった。
するとさらにそれを見て不思議な顔。
「なに、笑ってるの?」
「いや…ナマエが不思議そうな顔してるから」
「そりゃ不思議だよ。クラウド、あたしのこと見て笑ってるんだもん」
そう言って口を尖らせるナマエ。
俺は慌てて首を振って謝った。
「悪い。ただ…この季節になると、思い出すんだ。それに…思う」
「…なにを?」
また不思議そうな顔。
尋ねて来たナマエに、俺は自分が微笑んだのを感じた。
「笑わないか…?」
「笑わないよ。なに?」
少し照れくさくて、そう聞けば。
ナマエは「教えて」と優しく言った。
俺は、思い出した。
『歌…自分で作ってるのか?』
初めて見かけた日から何度か、俺は仕事の合間を縫ってはあの街にバイクを走らせた。
それを続けて何度目だったか…。
雪の降っていたある日、俺は彼女に声を掛けた。
今、思い出しても…よく声なんて掛けたもんだよな。
…我ながら驚いてる。
『はい』
すると、ギターをしまう手を止め、振り向いた彼女は優しい笑顔で頷いた。
初めて話をした日。
初めて歌声以外の声を聞いた。
どちらも綺麗な声だと思った。
『あの…よく、聴きに来てくれてますよね…?』
『…気付いてたのか?』
『はい。綺麗な目してるなあ…て思ったので』
そう言って、彼女は胸に抱いていた譜面を更にぎゅっと握りしめた。
その日から少しづつ、話すようになって。
バイクを走らせた理由に気がついて。
そして今は…。
「俺…クリスマスって思い出とか全然無かったんだ。なんてことない、ただ過ぎていくイベントだった」
「…うん?」
「けど…今は違う。ちょうどこの頃に…初めて聴いたんだよなって、クリスマスが近づくと、思い出す」
今は…隣にいる。
俺の隣に、ナマエがいるんだ。
窓の外で深々と降る雪を見ながら、溢すと…ナマエが微笑んだ。
「…そっか。同じだね。あたしも思い出すよ。この歌詞書き始めたの…この時期だなって」
そう言ってナマエが手に取ったのは一枚の譜面。
タイトルは…《青い瞳》。
やっぱり、少し照れくさい。
それも含めて…口元が緩んだ。
今…この季節は俺にとって…。
「…特別な季節、だな」
END
くりちゃん様リクエスト。
頂いた内容は、クリスマスで賑う街中、ギターを弾いて力強く歌っている子を見つけて気になり、いずれ恋人になる…という。
こ、こんな感じで良かったでしょうか…?
や…たぶん全然ご期待に添えていないような…。(汗)
あああ…申し訳ありませんです…!
企画にぴったりな、まさにクリスマスはお題をくださったのに…!
あと…、勝手にAC設定にしてしまってごめんなさい。
本編よりこっちの方がクリスマスとか楽しむ余裕ありそうかな…と。
FF7のほうがよろしければ仰ってくださいね。
クラウドは流行りの歌とかに「興味ないね」な気がします。(笑)
まあ、興味無いというか…疎そう。←
勝手にそんなクラウドにしてスミマセン!
ではでは、こんなちんちくりんな奴にリクエストしてくださって、ありがとうございました!