Couple Day
「あ。メールだ」
ぴろりん、と…なんとも間抜けな音。
それはナマエ、彼女のポケットの中から響いてきた。
「なになに誰からー?」
ナマエは手を突っ込み、今しがた届いたメールを開く。
それをひょこっと横から覗き込み、宛先を尋ねたユフィ。
ナマエはそれに適当な口調で答えた。
「レノから」
ぴくり。
小さな口から零れたその名前。俺は思わずそれに反応してしまった。
…レノ…だと?
慌てて周りを見たところ、幸い誰も気付いてはいないみたいで少し安心したけど…。
そのまま、つい聞き耳を立てている自分が居た。
「えー?タークスじゃん?なんの用だってー?」
「んーと、ゴールドソーサーで今イベントやってるんだぞ、と。俺、チケット持ってるから一緒にどうだ?…だって」
「あはは!なにそれ!デートじゃん?ナマエやるう!」
うりうりーと楽しそうにナマエを小突き始めるユフィ。
ゴールドソーサー…!?デート…!?
ぴくり。
また俺の肩は反応した。
…ナマエは、たまにぼんやりしている。
だから念の為に持たせておいた携帯電話。
それがこんな形で仇となるとは思わなかった。
ていうか…そもそもいつレノと番号交換したんだ…。
「で?で?行くの?チケットあるなんて超ラッキーじゃん!」
「えー、行かないよー…」
「ええー!?なんでー?」
「あのねえ…レノ、神羅だよ?敵だよ、敵」
「そりゃ…まー、そーだけどさー」
つまんなーい、と唇を尖らせたユフィ。
つまんないじゃない。
敵の誘いなど乗らない。そんなの当然だ…!
だけど…行かない、そう確かに言ったナマエの言葉にほっとしていたのも事実だった。
…ユフィの様に物欲が高く無くて本当良かったと思う。
過ぎ去った不安に、俺は少し余裕が出て来た。
「…ゴールドソーサーか」
「あ、ヴィンセント」
その時、携帯をしまい込んだナマエに近づいたひとつの影。
ぱさりと揺れたのは赤いマント。
…ヴィンセント…?
聞き耳を立てる俺の行為は続くことになった。
「ヴィンセントー?なにあんたー。いっちばんゴールドソーサーと縁無さそうなのに興味あるわけー?」
ユフィがまさに俺の心の台詞を代弁した。
確かに、このパーティの中で一番ゴールドソーサーが似合わない男だろう。それなのに…なぜ。
まさか…ゴールドソーサーではなく、ヴィンセントの興味の対象も…?
再び、不安な方に考えが転がり出した。
「馬鹿だなー、ユフィ。ゴールドソーサーと言えば、ヴィンセント。コレ決まりだよ?」
「へ?」
すると、意外や意外。
ユフィの指摘に反論したのはナマエだった。
…ヴィンセントと言えばゴールドソーサー…?
…意味はまったく見当もつかないが。
ていうか何でナマエが…。
何となく、もやもや…した。
「あのね、ヴィンセントって狙撃の腕凄いでしょ?だからシューティングコースターでも凄い点叩きだしちゃうんだよ?」
「え、マジで!?」
「うん。だから…まあゴールドソーサーって言うより、シューティングコースターと言えばヴィンセント、かな?ヴィンセントも結構気に入ってるんだよねー?」
「……。」
にっこり、ヴィンセントに笑いかけるナマエ。
ヴィンセントは頷きこそしなかったが…。
…否定もしない…のか。
「でもひとりで行くのは嫌なんだって。しかも景品には興味無し。だからヴィンセントと行くと豪華賞品貰えちゃうの」
「えええ!早く言ってよ!そういうことはさ!ヴィンセント!今度はあたしが付き合ってやるよ!」
「いや…遠慮する…」
「はあ!?何でだよ!このユフィちゃんが付きあってやるって言ってんだよ!」
「それならば私はナマエで充分…」
「ごちゃごちゃ言うな!クラウド!ゴールドソーサー行こう!」
「…はっ…?」
ヴィンセントと攻防を繰り返していたはずなのに突然こちらに飛んできたユフィの声。
地図を見るフリをして聞き耳を立てていた俺は反応に困った。
だけどバレたら格好悪いのは確実。
だからなるべく、平然を装って振り向いた。
「ゴールドソーサー…?」
「そ!」
「なんで…」
「豪華賞品ゲットすんの!どーせ話聞いてたでしょ?ほら、早く行こう!」
「……っ」
さらっと言われた。
…どうせ聞いてたって…。なんでバレてるんだ…。
落ち込む俺の事など眼中にない様に、ヴィンセントを振りまわすユフィ。
「クラウド」
「!」
そこに、そっとした声が俺に振ってきた。
顔を上げれば柔らかい笑顔。
…ナマエ…。
「私もゴールドソーサー行きたいな」
「え…?」
「レノからのメールに書いてあったんだけどね、カップルのイベントなんだって」
「カップル…?」
「うん。カップルには色々サービスしてくれるらしいよ?ユフィはヴィンセントと装うんだって。ヴィンセント、災難だねえ。絶対振り回されるね」
くすくす笑うナマエ。
…ああ、…可愛い…。
呑気なものだな…。
俺の頭にはそんな感情が浮かんだ。
「あ、またメール。うるさいなあ…」
するとその時、また響いた間抜けな着信音。
ナマエは開いて目を細めた。
「…誰からだ?」
「レノ。えっと…無視するなよ、と…だって。さっき無視しちゃったから」
「……無視したのか?」
「えへへ」
悪戯するように笑う君。
ああ…無視したのか。
まあ敵だし、妥当な対応だ。
けど、単純なもので…嬉しい気持ちを覚えている自分がいる。
「ね、クラウド。あたしの彼役、やってくれない?」
「え?」
「カップルデー。あたしたちも装っちゃおうよ?」
変わらず、悪戯な笑み。
カップルを、装う…。ナマエが…。
「俺と…?」
「うん。それとも…私とじゃ、嫌かな?」
首を傾げられる。
嫌なわけ…あるはずがない。
けど、俺は厄介な性格をしてる。
これは気持ちを伝える絶好の機会なのに、それを言う勇気が無い。
「…いや…別に構わない」
「そ?良かった。じゃ、それっぽく見えるように…」
「?」
差し出された手。
それを見て、心臓が鳴った。
…けど、触れたい。
俺はゆっくり自分の掌を重ねた。
「じゃ、行こっか?」
「ああ…」
隣で微笑むナマエ。
真意は掴めない。
俺も気持ちを言えない。
けど、選んでくれた。
それくらいには…想ってくれてる。
そうだよな…?
なら…まあ、今はこのままでもいいか…。
そう思いながら、手に触れる感覚を噛みしめた。
END
緋煉羅様リクエスト。
内容は…7の逆ハークラウド落ち。
…とのことでしたが。
これ逆ハーじゃないですよね…!?←
あわわわわわ…す、すみません…!
レノとヴィンセントしか出てない…!
あと…誰出せばよかったんだろう…。
ルーファウスとか…?
セフィロス引っ張ってくると本編の筋が色々おかしくなっちゃうし、ザックス故人だし…!←
逆ハーって書いたことなかったので、もう本当こんな出来でごめんなさいです…。
しかもクラウドがヘタレすぎる。(笑)
ヴィンセントがシューティング上手いのかもよくわかりませんが…。(おい)
ヴィンセントにゲーセン似合わないし、闘技場はどっちかと言うとクラウドのイメージなので…消去法?←
チョコボレースに燃えられても困るし。(笑)
す、少しでも楽しんで頂ければ幸いです…。
リクエスト一本目、ありがとうございました!