雪に願いを掛けて



「そんなところにいたら、風邪ひくぞ?」





冷たい風に乗って一緒に落ちて来た雪。

そのなかに佇む小さな背中。
俺はその背中に歩み寄って声を掛けた。

すると振り向いて俺を見上げてくる。
彼女の瞳にしっかり自分が映ったことを確認すると、俺はそっと微笑んだ。





「あ、えっと…バッツ」

「うん、その調子。慣れて来たか?」

「あはは…、少しだけ」

「そっか」





良い感じ、良い感じ。
そう言う意味を込めて、俺はポンポン、と彼女の肩を叩いた。

彼女…ナマエは、俺の大切な仲間。
今いる仲間の中でも…一番付き合いの長い、そんな子。

でも今は…、だった、という言葉の方が…ナマエにとっては正しいのかもしれない。








《いいのか?もう、戻ってこられないかもしれないぞ?》

《大丈夫だよ。バッツも一緒でしょ?》

《……ナマエ…》

《私は…バッツが一緒なら、怖くないよ》

《…ああ、大丈夫さ。絶対、一緒にいるよ》








思い出したのは、この世界にくる直前の事。

俺達は、記憶を取り戻したガラフを追って…この異世界にワープしてきた。
でもその際、何があったのかわからないけど、ナマエの記憶だけ…無くなってしまっていた。

ガラフも記憶喪失だった。
二人も自分の周りで記憶喪失者が出るなんてさ。正直ビックリだ。

だけど…なんだよ、ナマエもかよー…なんて、冗談も言えない。
全然、笑えなかった。

「俺、バッツだぞ?」って肩を揺すりながら詰め寄ってしまった。
そうしたら…不安そうな瞳して「バッツさん…?」なんて呼ぶから…。

その時は、頭を思いっきり殴られた気分だった。





「ねえ、バッツ。ちょっと質問していい?」

「ん?どうした?」





でも、それでも一緒に過ごしていくうちに…やっぱりこの子はナマエだと実感した。

仕草とか口調、クセはもちろん。
考え方とか…そう言うのは、何も変わっていないから。





「これは…なに?」

「え?」





ナマエが指さしたのは、空だった。
そこにあるのは白。

そうか…、そういう記憶も…。

俺は優しくナマエの肩を叩き、彼女の興味について答えた。





「雪さ」

「雪?」

「そう。凄く寒い日にこうして落ちてくる。もしかして、雪が気になったから出て来たのか?」

「…うん」





ナマエは、空を見上げたまま…頷いた。
ずっと、外すことなく…空を見つめてる。





「なんか…不思議で」





そして、そっとそう囁いた。





「不思議?ああ、氷が落ちてくるから?」

「ううん、そうじゃなくて。なんだろ…。うーん、ごめん。説明できないや」

「はははっ、なんだそれ」





そう笑いながら、俺は思い出していた。

ああ、そういえば…。
ナマエと初めて会ったのは…こんな雪の日だった。

ある村でとった宿屋。
窓から雪が降り出したのが見えて…興味で外に出ようとした時だった。
俺とまったく同じタイミングで外に出ようとしてる旅人の女の子がいた。

まあ、それがナマエだったんだけど…。

だからか、なんとなくその時の構図と…今のナマエの顔が、重なって見えた。





「ねえ、私はこの世界で生まれ育ったわけじゃ…ないんだよね?」

「ああ…。でも俺も、レナもファリスも皆だぞ?」

「うん…。でもね…何もわからないから、どうしていいかわからなくなるの」

「どうしてって…?」





ナマエは掌に雪を迎えて、溶けていく様子を眺めてる。
俺はその横顔を、じっと見つめてた。





「私はどこにいればいいんだろう…。ここにいていいのかなって…」

「え…?」

「でも…帰る場所もわからない…、探したって、見つからない…。そんな風に…」

「っそんなこと、考えなくていい!」





つい、声を張り上げていた。
咄嗟にナマエの腕を掴んで、こっちを向かせていた。

だって…本当にそんなこと、考える必要…ないんだ。必要…ないのに…。

驚くナマエの瞳には、情けない俺の顔が映っていた。
ホント…誰だよコイツってくらい…情けない顔。





「あの…バッツ…」





そんな顔したもんだから、ナマエが俺を心配するように眉を下げた。

ああ、格好悪いな…。
駄目だ、こんなんじゃ。ちゃんと言わないとな。

俺はゆっくり首を振って、ナマエに笑いかけた。





「大丈夫だ。ナマエはここにいればいい。いていいんだ。というか…居てくれないと困る、かな」

「…?」

「覚えてないと思うけど…この世界に来る前にさ、俺と約束してるんだ」

「約束?」





君に話した。
この世界に来る直前、本当に交わしたことを。





「そう。知らない世界なんて、不安なのは誰でも同じだろ?でも、一緒なら怖くないって言ってさ。だから、いてくれなきゃ困る」

「…バッツ」

「だから…そんな寂しいこと考えなくていい。俺、嘘ついてる様に見えるか?」





そう尋ねれば、ナマエは首を小さく横に振った。
その顔には、少し笑顔が戻っていた。





「当たり前だな。嘘なんかついてない」

「…うん」

「不安になったら、今話したこと思い出せばいいさ。な?」





ナマエは頷く。
それを確認して、俺も空を見上げた。





「なあ。雪に願掛けでもしとかないか?」

「願掛け…?雪ってお願いするものなの?」

「いや、普通はしないな。でも場所にもよるけど旅してるとさ、雪なんてなかなか見られないし。こういうのもいいんじゃないかと思って」

「…なにか、お願いでもあるの?」

「そうだな…」





見上げて、思う。

俺も、知らない世界で…不安が無いわけじゃない。
でも記憶の無いナマエの方がもっと…ずっとずっと。

寂しいこと考えなくていいとは言っても、それはわかるから。





「ナマエが笑ってくれますように、かな」





それを聞くと、ナマエは目を丸くした。

くさい?馬鹿みたい?
まあ、いいんじゃないか?





「お、いきなり叶ったな」





君が笑ったから。



END



ナギサ様リクエスト。
今回はバッツ。雪を知らない夢主との切甘話をバッツ視点で、というリクエストをいただきました。

FF5、DFF、DdFFどれでもいいとの事でしたので、どれにしようか悩んだのですが…他にDFFバッツでリクを頂いていたので、FF5設定のバッツにしてみました。
と言っても、性格が原作なのかDFFなのか中途半端な感じになってしまいましたが…。(汗)
DFFのキャラ濃いですからね、彼。呑まれる呑まれる。(笑)

時期は第二世界。ガラフの世界ですね。
まあエクスデス城から退散した後だとは思われます。←

原作だと、DFFよりは真面目なイメージがあるのでその辺は多少意識したのですが…。
でも亀突いて遊ぶ子なので(笑)、やっぱ明るいんだろうなあ…と。

マイヒーローでのクラウド視点を気に入ってくださったのことで、バッツ視点をご希望下さったのに微妙な感じになってしまってすみませんです…。

リクエストしてくださって本当にありがとうございました!









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