運命の赤い糸があるのなら



「うごっ…!」





バロン城の図書室。
そこに今、すこーん、という見事な音と謎の奇声が響き渡った。

そして、額を押さえてうずくまるのは…あ・た・し。





「…何をしているんだ、お前は」





そんなあたしを見て呆れ気味に目を細めるのはカイン。





「いや…今なんか本があたしのおでこにクリティカルヒット…!」

「…そんなことは見ていた。手が届かないならそう言え」





相変わらずぐおおお言ってるあたしの前に膝をつき、「見せてみろ」と言いながらカインはあたしの額に触れた。

おおう…、やった。カインの優しさひとつ頂きました!
ちょっとだけ結果オーライ?いや…だいぶ痛かったけどね…。


あたしは今、ある魔法書を探していた。
ちょっと目を通したい文があって。

カインには図書室に向かう途中の通路で会った。
軽く談笑したら一緒に探してくれるって言ってくれて。

その数分後…あたしのおでこにはクリティカルヒットだよ。





「少し赤いが…まあ、平気だろう」

「…いっつー…、ありがと」

「何が当たったんだ。…まさかその胸に抱えているやつじゃないだろうな」

「まさか!こんなの当たったら一発昇天でしょ!」





あたしが抱えていたのは探していた例の魔法書。
分厚くて、これが当たったら石頭と名高い流石のあたしでもやばいよ!

当たったのは、もうちょっと小さいやつ。





「これを抜こうとした時、一緒に出てきちゃった隣の本…たぶんその辺に落ちてると…」

「…これか?」





そう言いながらカインが拾い上げた一冊の本。

それは絵本だった。

なんで魔法書の隣に絵本が入ってるんだ。入れたの誰だ!
そんな文句はあるけど、それをカインに言っても仕方ないからグッと堪えた。





「運命の赤い糸…か。随分可愛らしい本が落ちてきたな」





カインはその本のタイトルをなぞった。

運命の赤い糸。
それは誰でも知ってる、有名なおとぎ話。

自分の小指と、運命の相手との小指は赤い糸で繋がってる、ってやつだ。





「本当だよー。おー…いてて。んー。でもあたし、そのお話あんまり好きじゃないかなー」





なにげなーく、ぽそっと呟いた。

するとそんなあたしを見て、カインは少し驚いた表情を見せた。

ん?なんでしょう?
あたしは首を傾げた。





「なーに?」

「いや…ナマエは好きそうだと思っていたが」

「ええー?うそ!残念でした!」





ふふふっ、と笑った。

ま、小さい頃は別にそうでも無かったけど。
よくよく考えたら、あんまり好きじゃないなって思った。





「理由は?」

「え?」

「理由もなしにそうは言わんだろう?」

「んー、別に大した理由は…。あたし、乙女じゃないんじゃないのー?」





けらけら、ふざけて笑った。

しかも、今なら更に、だ。





「それに今落ちて来たから更に好感度下がった」

「フッ…それは、その話も災難だな」





いやいや、だいぶ痛かったからね。
すこーん、て言うよりあたしの頭に響いてた音はゴツーン!だったからね。


理由は…まあ、そうだ。
カインの言うとおり、本当はある。

でも絶対言わない。
カインには、ね。





「んー…まあ、本当になんとなーくだよ」





カインから受け取って、絵本を正しい場所にしまった。

赤い糸…たぶん、それがあるのなら。
セシルとローザの指は繋がっているんだと思う。
それだけ考えれば、別に悪い話だとは思わないんだ。

でもね、そんなものが本当にあるんなら、 その人としか恋に落ちなきゃいいじゃないか。
そんな風に、思っちゃったんだよね。

繋がる先にはいない相手に惹かれるなんて…なくていいのに、ってさ。


たぶん…自分自身に言ってる部分もあるんだろう。

あたし、別に女神さまじゃないからさ。
ローザに対して…いいなあ、って思うことある。

カインが大好きで。
でも、セシルとローザも大好きで。





「ねー、なんか貼り紙でもしとこーよ」

「貼り紙?」

「そ。本はきちんと元の場所に戻しましょう」





ぴし、と指を立てて提案。
真面目な顔して言ってみたら、カインはまたフッと笑った。

それを見たら、あたしも自然と微笑んだ。


…うん。

…ただ、こうやって笑えればいいだけなんだ。
カインが穏やかに笑ってくれれば…。

あたしはその思いにすっと、手を当てた。



END



Minami様リクエスト。
4カインの切甘ということでした!

連載の「きみへの想い」を好きだと言ってくださったので、その番外編にしてみました。
いやあ…好きと言って貰えて何度ガッツポーズしたかですよ…!←

時期は、本編開始前のイメージです。

裏ではヒロインが切ない思いをしてた…的なのがお好みだと仰られたので、それが出るように努力はしたのですが…。
結果虚しくて本気でごめんなさい…!

しかも甘くな…!
いや切なさもだいぶ中途半端ですけど…!

こんな奴にリクエストしてくださって、本当にありがとうございました!










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