シーモア老師



「ばいばーい!愛しのチョコボさーん!」





ぶんぶん!
勢いよく、去っていくチョコボに手を振った。

ミヘン街道で出会った討伐隊のルチル隊長率いるチョコボ騎兵隊からも聞いていたチョコボを襲う大型の魔物、チョコボイーター。

翌日の朝、そのチョコボイーターを退治したお礼にと一度だけチョコボを無料で貸して貰い、あたしたちはミヘン街道を越えた。





「ナマエ、チョコボ好きなの?」

「うん。大好きだよー」





尋ねてきたユウナに笑って答えた。

だって感動でしょ。
前回の旅でも乗ったけど、やっぱりFF大好きなあたしにとっては堪らない生き物だ。
もう、愛してやまない!アイラビュー!って感じ。





「ナマエのファイガ、すっげー効いてたッスもんねー」

「ええ…、本当。きっと、まだ伸びると思う」

「本当?やった!」

「いや、それにしたって…何か妙にハリキリ過ぎちゃいなかったか?俺ぁ、ちっとばかしチョコボイーターが不憫に思えたぜ」

「んん?チョコボの敵に味方するなら、ワッカも喰らってみる?」

「じょ、冗談じゃねぇよ!」





ミヘン街道中や旅行公司、少しずつみんなと話してみて、だんだん打ち解けてきた。

なぜって、ティーダは似た境遇の親近感もあるけれど。

ユウナは年の近い同姓は初めてだと、よく話しかけてくれる。

ルールーやワッカも面倒見がよくて、よく気にして構ってくれたり。ルールーは魔法のアドバイスも。

まあ…キマリは無口だし、まだあまり話してないけれど。

みんな、いい人たちばかりだったから。

そして、街道の終着点。
何やら揉めている声がした。





「何度も言わせないでちょうだい。私はね、召喚士なのよ!」

「申し訳ありませんが!どうかご理解ください!」




際どい格好の、キツめの目をした女の人と、がたいの良い男の人。

その2人を前に…と言うか女の人が、討伐隊の人(なのかな?)に怒鳴ってる。





「召喚士の旅の邪魔するなんて何考えてる訳?」

「申し訳ありませんが例外はありません!」

「話にならないわね!あら、あなた達…」





すると女の人が、あたしたちに気がついた。

そしてあたしたち、と言うか主にユウナに向かって良い放つ。





「見ての通り、召喚士でも通行止めよ。結局は召喚士に頼ることになるのに全然わかってないんだから。ま、良い機会だから戻って休むことにするわ。行きましょ、バルテロ」





そして、がたいの良い男の人と共に去っていく。
わー、近くで見ると、また性格キツそうと言うか…そんな感じ…。

あたしは近くにいたティーダに聞いてみた。





「誰、あれ」

「あー、召喚士のドナ。あとガードのバルテロッスよ。前にユウナに血統書つきの召喚士だとかガードの数は多ければ良いってもんじゃないって嫌味言ってきてさ。まあユウナはガードは信頼できる人の数だって言い負かしてたけど」

「ふーん。なるほど。ユウナやるねー」





ユウナは血統書つき…ね。
まあ早い話、ひがみ…と言うか、まあそんな所か…。

あたしがブラスカさんの事を知ってるから余計に…ってのもあるんだろうけど、いい気はしないなー。

……まあ、あの人も召喚士やってるってことは、スピラの事考えてる…悪い人ではないって事なんだろうけど。

ともかく、この先は通行止め。
この先に続くキノコ岩街道で、討伐隊による作戦が展開されるから、らしい。





「そういえば、ミヘン街道で会った巡回僧の…シェリンダさん、だっけ?言ってたよね。機械使った作戦があるから止めたいどーのって」

「ああ。そうだな」

「コレのことかー。…ってアーロン。随分あっけらかんとしてるね」

「言っただろ、使えるものは使えば良いと」

「なーんか本当に前よりズバッとしてるなあ」





アーロンは、前からそこまで機械に抵抗は無いって言ってた。
でもこう、昔より言うようになってるよ、このオジサマは。

教えで禁じられている機械か。
ティーダは教えなんか関係ないだろうから置いておいて。

エボン教信者の…特にワッカは、かなり抵抗があるみたいだ。

ヒトとアルベド族のハーフなユウナと…、そのことを知ってるらしいルールーはワッカ程じゃないけど、やっぱ多少は抵抗あるっぽいし。

……本当、スピラってエボン教で満ちてるな。エボンの賜物、ってか。


この作戦の大まかな内容。
それは各地からシンのコケラを集めて、コケラのいる場所に寄ってくる習性を利用し、シンを誘き出す。
そこをアルベド族と共闘して機械で叩く!…こう言うことらしい。

皆はルッツとガッタっていうビサイドからの知り合いがこの作戦にか関わってるみたいで、結構気になってそうだった。





「またお会いしましたね、ユウナ殿」

「は、はいっ!」





ともかく、召喚士一行でも通れない。
あたしたちも通行止めを食らって、これからどうするか困っていた時だった。

誰かがユウナに声をかけてきた。

静かで落ち着いた声。
青い…特徴のある髪。
何か、前の旅の時見た…グアド族だ。それに似てる。でも少し違うけど。

その人に返事をするユウナの声は妙に上擦っている。





「どうしましたか?お困りのようですが」

「実は…」

「ああ、なるほど」





その人は、状況を飲み込むと、閉鎖されている門に赴き討伐隊員と何やら話し出す。
聞こえた声は「召喚士ユウナ殿とガード達を通して欲しいのだが」と言うもの。

しかも、いとも簡単に了解を貰ってくれた。

……な、何者だ。

ティーダは「えっらそうな奴」とむくれ、それに対しワッカは「偉そうじゃなくて本当に偉いんだよ」と返していた。

あたしはティーダをつつき、再び尋ねた。





「あの人、なに」

「え?んーと…シーモアって奴。なんかグアドの…ロウシサマ?えっらそうで何か気に食わないんだよな」

「グアドの、老師…」

「ていうかナマエ、さっきから何で俺に聞くッスか。明らかに人選間違ってるだろ」

「え?あははっ!何か声かけやすい位置にいるからさー。大丈夫!満足いく回答は貰えてる!」

「それなら…まあ、別にいーんだけどさ」

「ま…確かに何か、近寄りがたいっていうか…それはわかるかも…」

「お。だよな?俺、なーんか初めて見た時から好きじゃないんスよ」





こそこそ、と最後の方は小声でティーダと話す。

一見、物腰も静かで優しそうな雰囲気。
でも何か、何を思って考えてるのかわからないって言うか。

あたしは、そんな印象を受けた。

そういえば…ルカで突如発生した魔物を倒したのは…この人だったかもしれない。
じゃあ激強じゃないか。

そんなシーモア老師は、討伐隊員達から出迎えられていた。
老師自身も「君達の勇戦、エボンの老師、このシーモアがしかと見届けよう」などと応えている。

そんな様子を見て、ワッカは困惑していた。





「どういう事だ、あれ。どうしてシーモア老師は討伐隊を応援するんだ?アルベド族の機械を使う作戦だぞ?教えに反する作戦だぞ?」

「教えに背いてはいるけど、みんなの気持ちは本当だと思うな。シーモア様もそう思ってらっしゃるんだよ、きっと」

「おい、ルー!」

「…ただの視察じゃない?」





ワッカをなだめるユウナ。ワッカに同意を求められたルールー。

いずれも確信のある答えではない。





「本人に聞くんだな」





その様子にアーロンはそう言う。
確かに、本人に聞くのが一番手っ取り早いだろうな。

そうこうしていると、そんな噂のシーモア老師はアーロンをその目に映し、近寄り、声を掛けてきた。





「やはりアーロン殿でしたか。お会い出来て光栄です。ぜひお話を聞かせてください。この10年の事など…」

「俺はユウナのガードだ。そんな時間はない」

「それはそれは…、おや」

「…!」





ぱちっ。

アーロンが素っ気無く言葉を返した直後、あたしはシーモア老師と視線がぶつかった。そして静かに微笑みながら、今度はこちらに歩み寄ってくる。

ちょっと、ドキドキした。
でもそれは…別にときめいてるとかじゃなくて、何何何!?みたいな。
まあ、恐いな…て事、かな。





「貴女は…?何か、不思議な何かを感じます」

「ふ、不思議…ですか?」

「……ふむ。素晴らしい破格の魔力…いや、それもあるが、……異界、ではないな。でも何かまた別の…」

「あ、あのー…?」

「ああ、これは失礼。ぜひ、お名前を伺いたい」

「え…あ、ナマエ、です」

「…ナマエ?もしや、貴女もブラスカ殿のガードでは?」

「…まあ。そうですけど…って、おわあ!?」





その時、アーロンが隣に来て、いきなり腕をガシッと掴まれた。
…思ったら、乱暴に引きよせられ、背中に隠された。

そして、シーモア老師に言い放つ。





「こいつも、ユウナのガードだ」

「ほう…。ユウナ殿、アーロン殿とナマエ殿がガードとは心強いですね」

「は、はい!」





シーモア老師は薄く笑うと、ユウナに目を向けてそう言った。
ユウナは相変わらず緊張気味だ。

うーん…、でも正直アーロンのおかげで助かったかも。
あんま、近づきたくないかな…この人。そう思ったから。

そして、ワッカはずっと気になって仕方のなかったらしい疑問を確認すべく、シーモア老師にたどたどしく声を掛けていた。





「あの…シーモアサマは…何故にここにいらっしゃれマスのでしょうか?」

「普段の言葉でどうぞ」





あまりにも可笑しな言葉遣いになってるワッカ。
そりゃそう言われるわな…。

ワッカは口調を戻し、話を続けた。





「ええと、エボンの教えに反する作戦、止めないとまずくないっすか?」

「確かに…そうですね。しかし…討伐隊もアルベド族もスピラの平和を真剣に願っています。彼らの純粋な願いがひとつになってミヘン・セッションが実現するのです。エボンの教えに反すると言えど彼らの志は純粋です。エボンの老師としてではなく、等しくスピラに生きる者として…シーモア=グアド個人として私は声援を惜しまないつもりです」

「でもアルベド族の機械はまずいっすよ」

「見なかったことにしましょう」

「老師様がそんな事言ったら皆に示しがつかないっすよ!」

「では、聞かなかった事に」

「マジっすかー!」





シーモア老師のそんな回答に、ワッカはどうも納得がいかないらしい。

まあ、あたしからしてみれば…そんなに変なこと言ってるとは思わないけど…。
たぶんティーダもそう思ってると思う。

アーロンが言うみたく、使える物は使えばいいって思うし。

でも、そんな単純なものでも無いんだろう。


ミヘン・セッションと名付けられた、その作戦は…刻々と整いつつあるのだった。


To be continued

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