バタフライエフェクト

※「もし勇仁が普通の人間だったら」というIF世界

「姉さんは、何か願い事した?」
「へっ?」

 思わず間抜けな声を上げた私を、隣を歩いていた弟が不思議そうな顔で見ていた。勇仁はお気に入りの緑と白の上着を着ていて、いつもは滅多にしないマフラーを巻いている。その姿を見て、ハルくんたちと一緒に近所の神社に初詣に来ていたんだったと思い出す。みんなでお参りを終えたところで、何か食べようという話になって、出店の並ぶ通りを目指して歩いているところだった。

 考え事をしていて、ぼんやりしていたみたいだ。心配そうな顔をしている勇仁に、私はなんでもないという風に笑顔をつくった。

「第一志望に合格できますように……とかかな。ありがちだけど」
「やっぱそれかー、受験生だもんな」

 ありきたりだけどけっこう切実な願いをあっけらかんと流されて、少しむっとする。

「他人事みたいに言ってるけど、来年は勇仁もこうなるんだからね」
「うげっ……」

 大げさに顔をしかめてみせる勇仁がおかしくて、声を上げて笑う。考え事の内容が何だったのかは、不思議なことに自分でも思い出せなかったけど、きっとあんまり大したことじゃなかったんだろう。

「勇仁! #名前#さん!」

 石畳の少し先を歩いていたハルくんが、振り向いて私たちに手を振っていた。早く早くと急かす声に、今行くと返事をして歩き出す。頬に触れる空気は冷たいけれど、よく晴れた冬の日だった。こうやって一緒に過ごす何気ない時間が、私たちがいつか大人になる日まで、ずっと続いていくのだろう。だけど日差しが妙に眩しくて、私は無性に泣きたいような気持ちになった。

2021/01/04


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