名前が転入してきて一週間が経ち、チームを組んでのバトルにも慣れてきた。しかし、スズネの言葉通り、ロンドニアとあいまみえる機会には未だ恵まれていなかった。というか、これからも出会う機会があるとはとうてい思えなかった。理由は簡単、ロンドニアとハーネスの距離がものすごく遠いからだ。セカンドワールドの勢力図が大きく変わらない限りあの時のイケメンともう一度言葉を交わす機会はそうそうないと見えて、第二小隊との勝負に勝ったにも関わらず名前は浮かない顔だった。甘いココアの上にマシュマロとチョコソースをたっぷり乗せた、糖分のかたまりとも言うべきギンジロウスペシャルココアをちびちびすすりながら、名前はぼんやりと窓の外を眺めた。

(……ん?)

 その時、名前たちのいる純喫茶スワローの向かいにある古本屋に、忘れもしない深緑色の制服――ロンドニアの生徒が数人いるのが目に留まった。赤毛の男子生徒が熱心に本を選んでいる傍らで、だるそうに腕を組んで立っているのは、あの時のイケメンに間違いなかった。

「名前、何見てるん?」
「……!」

 つい見入っていると、隣に座っていたスズネが窓際に身を乗り出してきた。慌ててなんでもないというように手を振ったが、スズネは名前の視線の先にあるものを見逃さなかった。

「アンタ、前にもロンドニアの話しとったよな?誰か知り合いでもおるん?」
「そういうわけじゃない……けど」
「ふ〜〜〜〜〜ん」

 スズネは、焦る名前とロンドニアの生徒たちを交互に見て、それからにまりと含みのある笑みを浮かべた。

「な、何……?」
「アイツやろ?あの真ん中のん」

 そして、名前がさっきまで熱心に見ていたロンドニアの生徒ーーそのうちの一人、名前が転入初日に出会った男子を寸分違わず指差してみせた。

「な。なぜそれを」
「ロンドニアのエースプレイヤー、石川タケヒロ。先月も、その前も連続でランキングに入っとったし、この学園じゃちょっとした有名人や」
「そうなんだ……」
「って、名前も知らん人間のことが好きなんかいな?名前ってほんま変わっとるなあ。応援したいのは山々やけど、あっちは高等部やし、ロンドニア遠いし。仲良うなろうにも、なかなかきっかけないで」

 スズネは呆れたように笑い、「うわ甘っ」そして普通の飲み物の感覚で甘ったるいスペシャルココアを一気飲みしてしまい、大げさに顔をしかめた。名前は、ティースプーンで溶け残りのマシュマロをつつきながら黙り込んだ。そして長いこと黙っていたが、やがて顔を上げ、ぽつりと言った。

「――ないなら作ればいい」
「え?」

 他の仲間との会話に気を取られていたスズネが、名前の方を振り返った。戸惑うスズネをよそに、名前はやたら自信ありげな態度で椅子から立ち上がり、店中に届く声で高らかに宣言した。

「私は、セカンドワールドを統一する。ハーネスとロンドニア、そしてそこに至るまでに存在するすべての仮想国を併合して、ひとつの国にしてみせる!」

 スワローの店内に、水を打ったような沈黙が訪れる。

 やがて、大きな拍手が巻き起こった。さっきの話を聞いていなかったスズネ以外のクラスメートたちは、やる気満々な転入生の決意表明だと勘違いしたのだった。

 この瞬間こそ、後に神威大門統合学園を席巻することになる伝説のLBXプレイヤー……ハーネスの白い悪魔が誕生した瞬間であった。

「んなアホな!?」

 放課後の神威島に、スズネのツッコミが響き渡った……。

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