最高のLBXプレイヤーを育てるために設立された世界で唯一の教育機関・神威大門統合学園。その地下には、セカンドワールドと呼ばれる巨大なジオラマの街があり、ハーネスと呼ばれる国があった。これといって重要な拠点や資源を持たない小さな国であったが、次第にその領土を広げ、今や世界をその手中に収めようとしている。その大躍進の中核を担っているのが、苗字名前という名のプレイヤーだった。人々は、戦場を駆ける彼女の真っ白なLBXを、あるときは怖れと畏怖をもって、またあるときは尊敬と羨望の念をもって、”ハーネスの白い悪魔”と呼んでいた。

 悪魔と恐れられようとも、彼女はたったひとつのある目的のため、小さなプラモデルと共にセカンドワールドを駆け続ける――。



苗字名前が、ハーネスの白い悪魔と呼ばれるに至った理由――それは、彼女が初めて神威大門統合学園の門をくぐった日まで遡る。

 はじめて神威島に降り立った名前は、1960年代の街並みを再現したという風景が物珍しく、あちこち見て回っているうちに、これから通う学校の場所がわからなくなってしまっていた。転入初日から遅刻する羽目になるのは避けたいと思った名前は、とりあえず近くを歩いていた、深緑の制服を着た生徒に声をかけた。


「あの、」
「あ?誰だ、お前」

 名前よりは2、3学年上に見える男子生徒は、振り返るなり剣呑な雰囲気を漂わせていた。切れ長の瞳が冷やかに名前を見下ろしている。

「ハーネスの人間が、この俺に何の用件だ」

 相手は、名前の紫色の制服を指して言った。まだ学校のしきたりも何もわからないのに睨まれて、しがない中学二年生の名前にとってはたいそう怖い。名前は、いかにもガラの悪そうな相手に話しかけたことをちょっと後悔したが、しかし声をかけておいて逃げ出すわけにもいかず尋ねた。

「か、神威大門統合学園ってどこですか」
「ああ、転入生か。学校なら、ここをまっすぐ行った先だ」

 しかし名前が転入生とわかると、少しだけ態度が柔らかくなったような気が少しはしないこともない。名前は礼を言うと、彼の示した道を急いだ。喫茶店や洋品店の並ぶ通りは名前の見てきた限りこの島で最もにぎやかな通りで、緩やかな坂道になっている。三本目の電柱を過ぎたあたりで、名前は足を止めてちらりと後ろを振り返った。深緑色の制服を着た男子は、緩慢な足取りで名前のはるか後方を歩いている。彼は遅刻しないのだろうか?それが少しだけ気がかりだったが、そんなことよりも――

「イケメンだった……」

 そう呟いた名前の瞳は、いろんな意味で、新しい学園生活への期待にきらめいていた。

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