「で、メイド喫茶ってどこにあるんだ?」
次の対戦相手である秋葉名戸学園の情報収集のためと、目金たっての希望でメイド喫茶に行くことになったけど、オレたちの中のほとんどは、メイド喫茶なんて今まで行ったことがなかった。
「そうですねえ……一口にメイド喫茶といっても様々な種類がありますが、やはり初心者にもオススメなのは――」
「……このへんでメイド喫茶といえば、あの店じゃない?」
誰もが詳しそうな目金に注目する中、壁にもたれかかったまま腕組みしていた苗字がぼそっと言うと、みんなの視線が一斉にそっちに集中した。
「苗字、知ってるのか!?案内してくれ!」
「え、いや、それは…………わ、わかったよ」
円堂に半ば引きずられるようにして苗字が案内してくれたのは、意外なことにいつも学校へ来るときに通る商店街の一角だった。壁一面に俺の知らないアニメの絵が貼られていて内装が見えないようになっているビルで、「ここって何の店なんだろう?」なんて密かに思っていた場所だ。
「ここをご存知とは! さすが苗字さん、只者じゃありませんね」
「いや、たまたま知ってただけ……ってか、目金の中で私ってどんなイメージなわけ?」
驚くべきことに、入口の自動ドアの前で、苗字はくるりと背中を向けて学校の方へ戻る道を歩き出そうとした。
「それじゃ、私はここで。木野さんたちに仕事任せてきちゃったし」
「なんかお前、さっきから変だぞ」
その不自然なまでに機敏な動作に、染岡が怪訝な表情を浮かべた。
「な……どこが?」
「確かに。苗字ってこういう変な店に『面白そう!』とか言って真っ先に入っていくタイプだよなー」
なんて口々に言いながら、詳しそうな目金を先頭に、オレたちはぞろぞろと店に入っていった。渋々その最後についてきた苗字が、店に入った瞬間だった。
「おかえりなさいませ、お嬢様――って、名前ちゃん?」
レジに立っていたメイドが、営業用の高い声から素の口調に戻っていた。名前ちゃん? 名前ちゃんって言った? 今?
苗字は、学校での飄々とした態度からは考えられないほど顔を真っ赤にしてうつむき、観念したように呟いた。
「……私のお姉ちゃん、ここでバイトしてるんだ……」