名前は、スワローでの宣言通りの大活躍をしてみせた。LBX制作の要といえるラボをはじめ、その他いくつかのアラビスタの重要拠点を制圧し、勢いに乗ったハーネスはセカンドワールド一の大国ロシウス連合への侵攻を開始した。学園最強と謳われるバイオレットデビルにはさすがの名前も敵わなかったが、それでもハーネスは、ロシウスやアラビスタなどの大国にとっての脅威になりつつあった。

 ハーネスに凄腕のプレイヤーがいるという噂が学園のいたるところで囁かれるようになったのもこの頃である。もっとも当の本人であるはずの名前は、セカンドワールドの勢力図にも学園内の地位にも露ほどの興味も抱いていなかった。彼女の心のうちにあるものは、転入初日に見かけたイケメン、すなわち石川タケヒロただそれだけであった。

「今回も楽勝やったな、名前!」

 ウォータイムを終えた後、コントロールポッドから勢いよく飛び降りたスズネが、名前の背中をばしばし叩いた。

「スズネ、痛い」

 名前は抗議の声をあげたがその表情は明るく、口元には笑みが浮かんでいる。

「この間は何の冗談かと思ったけど、ここまでやったら本物や。この調子でロンドニアまでかっ飛ばすで!」
「うん!」

 一方、カゲトラは、物騒な女子二人の美しい友情を複雑な面持ちで眺めることしかできなかった……。



 ところで、神威大門統合学園ではウォータイム以外にもう一つの戦争が行われている。

 もう一つの戦争とは、すなわち昼飯争奪戦である。生徒たちの食事は、朝夕はそれぞれの学生寮で決まったメニューが出されるが、昼食だけは食堂か購買で好きなものを選んで食べることができる。しかし人気商品はすぐに売り切れてしまうことも珍しくなく、中でも購買のカレーパンは、選ばれし数人しか手に入れられないことから幻と呼ばれる逸品だった。

「行くで名前!購買まで一直線や!」
「おう!」

 四時間目のチャイムが鳴った瞬間、名前とスズネは猛烈な勢いで教室を飛び出した。最近二人は幻のカレーパン入手に燃えているのだ。

 購買に滑り込んだら、そこは戦場だ。相手が上級生だろうと天下のロシウス生だろうとお構いなしに人混みをかき分け、名前は紙袋に包まれたカレーパンの最後の一つに手を伸ばす。

「「獲ったぁー!」」

 名前の勝利宣言に、誰かの声が重なった。驚いて顔を上げると、“ジェノック”の瀬名アラタがそこにいた。名前とアラタは同じ時期に転入してきたこともあってクラスは違うが割と話す方で、一見タイプが違うがある意味ではよく似た二人である。二人が所属する部隊の隊長であるカゲトラと出雲ハルキは彼らの掟破りの行動に日々頭を抱えているのだが、二人ともそのことにまったく気づいていなかった。

「名前……いくらお前が相手でも、このカレーパンだけは譲れないな」
「アラタ……その言葉、そっくりそのまま返す」

 目が合った瞬間、二人の間に火花が散った。

「だったら、LBXバトルで決着つけようぜ!」
「いざ、尋常に勝負!」

 ここは神威大門統合学園。最強のLBXプレイヤーを育てるための、世界で唯一の教育機関。すべての戦いは、LBXバトルで白黒つけるべき――か、どうかは定かではないが、昼休みに購買のド真ん中でバトルを始めるのは大迷惑以外の何物でもないことを、一刻も早く彼らに教えてあげた方がいいだろう。

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