その2

 ハルがアプリドライヴを掲げると、休日の学校の体育館はたちまち立派なスタジアムへと姿を変えた。サイバーアリーナと呼ばれるこのARフィールドでは、ネット上の各地から腕自慢のアプモンたちが集い、知力、体力、DL数、ユーザーからの評価……その他諸々の面で最も優秀なアプモンを決定する勝負が行われるという。アプモン格付け選手権と呼ばれるその戦いに、一体のアプモンが名乗りを上げた。その名はガッチモン。“検索”の能力を持つ、ハルのバディアプモンである。

 選手権に出場するアプモンたちが、アスリートさながらの凛々しい表情を浮かべて壇上に並び立っている。実況役を務めるエムシーモンというアプモンが、豪華ゲストと称してハルとその仲間のアプリドライヴァーたち――花嵐エリと、飛鳥虎次郎――を紹介した。人気アイドルグループのメンバーに有名アプチューバーという華やかな肩書を持つ仲間たちと違って、自分に与えられた“そのへんの中学一年生”というぱっとしないキャッチコピーにハルは思わず渋い表情を浮かべる。

 確かにぼくは、まだそのへんにいる脇役のままだ。ガッチモンと出会ってから変わりたいと強く思うようになったけど、自分に何ができるのかはまだよくわからない。だけど改めてその事実を突き付けられるとなんかちょっとテンション下がるというか……

《そしてなんと! スペシャルゲストがもう一人!》
「!?」

 ……というハルの憂鬱は、次にエムシーモンが叫んだ言葉によって吹き飛ばされた。自分の立っている場所のちょうど真後ろがスポットライトのまばゆい光に照らし出され、ハルは驚いて振り向いた。

《そのへんの中学生二年生・月森ルカさん!》

 どこかで見たことのある顔だ。その答えを思い出した瞬間、ハルは驚きと同時にパズルのピースがはまったような感覚をおぼえた。

「きみは……」

 そこに立っていたのは、勇仁と遊んだ日の帰り道、ハルが落としたアプリドライヴを拾ってくれた女の子だった。あの時ハルの思った通り、彼女にはチップの状態のガッチモンの姿が見えていたのだ。ルカと呼ばれた女の子と、彼女のバディらしきタマゴのような姿をしたアプモンは、スポットライトの明かりの下からハルの立っている方へと歩き出した。ハルは改めて彼女に挨拶をしようとして、口を開きかけたが――

「ちょっと。もう少し気の利いた紹介はできないの? “謎の美少女”とか」
「いや〜、そう言われましても……」

 ――ルカは、ハルの横を思いっきり素通りしてエムシーモンに詰め寄った。声をかけるタイミングを完全に見失ったハルとその仲間たちは、しばし呆然として彼女たちの姿を見つめた。

「美少女って……自分で言うか? フツー」

 やがて、呆れ返ったガッチモンの力の抜けた呟きがぽつりと落ちた。ルカはその時初めて自分以外の存在がここにいることを思い出したように顔を上げ、ハルと視線が重なった。新しいオモチャを目の前にした小さな子どものような瞳だった。

「よっ。また会ったね、新海ハルくん」
 
2021/05/17


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