その4

「ルカたちも水着持ってくればよかったねー、デジタマモン」

 季節外れのプールを見下ろして、ルカは気の抜けた声でつぶやいた。大きなぬいぐるみのようにその腕に抱えられたデジタマモンが、殻の奥の瞳をぱちくりとさせて彼女を見上げる。何か言いたげなバディの視線に心配ないというふうに笑いかけると、ルカは静かに顔を上げた。

 新海ハルとその仲間のアプリドライヴァーたちが、困惑と警戒の入り混じった表情を浮かべてこちらを見つめている。ルカの隣に立つ、もう一人の人物の存在に気が付いたからだった。

 ハルの持つセブンコードアプモンのチップを手に入れるために、レイはハルたちに一通のメール――レイが最初に用意した文面は、日付とARフィールドの座標のみが記された非常に簡素なものだったので、ハルたちの興味を引く内容にするために色々書き足した――を送り付け、とあるARフィールドへと呼び出していた。

「ルカはねー、みんなと仲良くなったふりをして、さりげなくチップを譲ってもらう方向に話を持ってくつもりだったんだけど。それじゃ時間がかかりすぎるって、この人が」

 この人、と言いながらルカは隣のレイを指差し、頬をつつかれたレイは迷惑そうにルカの手を押しのけた。その様子を見て、真っ先に声を上げたのはエリだった。おそるおそるといった表情を浮かべ、ルカに尋ねる。

「ルカちゃん……最初からそのレイってヤツと組んで、私たちを騙してたの?」
「別に騙してないもん。レイのことを言わなかっただけ」
「超堂々とした開き直り! 超〜ノレねぇ!」

 悪びれもせず言ってのけたルカに、アストラが思いきりブーイングを浴びせる。するとハルが、意を決したように一歩前に歩み出た。ハルは両手の拳を握りしめ、力強い声で言った。

「セブンコードアプモンを、渡すわけにはいかないんだ!」

 アプリドライヴを構えるハルたちを、レイは冷ややかな眼差しで見下ろした。超アプモンへと姿を変えたハルのバディが、レイドラモンと空中で激しくぶつかり合う。しかし、レイドラモンのほうが優っていることは一目瞭然だ。エリとアストラのバディが助けに入ろうとしたその瞬間、彼らの体に突如黒い影のようなものがまとわりついた。

「鍛え方が違うんだよ」

 呆然とした表情を浮かべるエリとアストラに、ルカは笑顔で言い放った。ルカの腕の中から飛び出したデジタマモンが、殻の中から伸ばした両手で二体の超アプモンを近くのビルの壁へと叩きつけたのだ。

 ルカは戦いの衝撃によって生み出された瓦礫の山を器用に伝い降り、ハルの目の前に歩み寄った。ハルはダメージを受けて並アプモンの姿に戻ってしまったバディを庇うように立ちあがった。

「まだやる気?」

 もう勝敗は見えている。ルカは諦めを促すつもりで声をかけたが、ハルにその意志はないようだった。一体、何が彼をそこまでさせるのだろう。

「ルカ」

 満身創痍のハルのバディにデジタマモンが迫ったその時、レイが一言呼びかけた。その手の中には、眩く光る二枚のチップが握られている。もう用は済んだ、ということらしい。目的を果たしたレイは、すっかりハルたちに興味をなくしたように背を向けた。

「あ、レイ! 待ってよー!」

 ルカはデジタマモンを抱き上げると、慌ててレイの後姿を追いかけた。ハルの呼び止める声が耳に届いたが、聞こえなかったことにした。

2021/09/21


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